446:コントゥル家家宝(ジンライ)、VS真言・狐火月輪(リカルル)
月輪のように、洞窟を照らす。
青く燻る、日輪の輪。
「(これ、止まってるぞっ!?)」
この光が〝狐火・仙花〟なら止まらず狙った場所へ、すっ飛んでいくはずだ。
足下の階段が寸断され、落ちていく。
グワラララッラァァンッ!
手すりから身を乗りだし、断ち切られた部分を見た。
おれが刀で切ったよりも、なめらかな切り口は――
光輪が熱を持った〝狐火〟だと、教えてくれる。
いま居る物見台のような所が、落ちると面倒だ。
壁側に、ヴッ――ガコン、ガコゴン!
ジンライ鋼製の支柱を、増やして取り付ける。
天狗役は天井に、倒。
姫さんは、とおくの壁にしがみ付いてる。
対魔王結界は青白い炎で埋め尽くされ、その周囲を――
ひと抱えくらいある、太い光輪が囲んでいる。
「(迅雷おまえ、光輪に絶対触るなよ?)」
斬られはしねぇだろうが、万一ってこともあらぁ。
試し斬りで本当に斬られてたら、命がいくつあっても足りん。
ふぉふぉん♪
『>了解しました。今さらですがシガミー、
真言とは、どういう原理で作動する術式ですか?』
本当に今さら、何だぜ?
お前は何度も、その発露と神髄を見てきただろうが?
一度、発火したら敵か自分のどちらかが、〝滅す〟まで止まらない。
真言っていうのは、その覚悟のことだ。
ガガァン、ゴゴォン、ゴリリッ、ガッキリッ!
壁に爪を立て、狼のようにゆっくりと徘徊する狐耳の鎧。
時折、尾を振り――カシャカシャカシャカシャ!
青白い炎を、うねらせている――ぼっごぉおぅわぁっ!
ふぉん♪
『>では真言の回廊を開く、真円とは?
その精度を血の発露とするなら、
曲進する光で構成された、あの狐火仙花の輪は――
理論上、最も正確な円と、言うことになります』
ヴォォォオォゥィィィィイィンッ♪
月影が如き狐火を、喰らう日輪。
灼熱は太さを増し、輪を縮ませていく。
ぼごわわわっ――――♪
青一面の炎が喰らい尽くされ、霧散する。
そして餌にしていた、月影の炎がなくなると――
灼熱の日輪は、やがて細くなり――キィィィィィンッ!
対魔王結界の縁に沿うように、真円を取りもどす。
脈々と鼓動を始めた――青白く燃えさかる命の奔流。
これはまるで、生きた〝狐火・仙花〟だ。
ココォォォォンッ――――ぼっごぉぉぉぉぉぅわぁぁぁぁっ♪
しかも四つ足が光輪に、ときおり狐火を投げ込む。
触れれば溶けて、ぶった斬られる輝き。
そんな物が、まるで罠のように地面を薙ぎ払っていく。
ちっ、厄介だぜ。
上級鑑定、しめしめうっひっひ。
ぽこん♪
『朱狐シリーズ【多目的機動戦闘四足歩行車両】
古より伝わる最古のアーティファクト。
攻撃力2100。防御力1800。
条件効果/完全作動状態から、53秒経過。
10秒ごとに攻撃力が1%加算。
追加攻撃/1攻撃ごとに、追加攻撃力分の物理ダメージ。
追加効果/ただし被弾しない場合、
1分ごとに防御力が1%加算される。
被弾すると追加攻撃が発生し、
すべての累積分は、リセットされる』
よし、数字が読めるようになってる。
装備としちゃ、そこそこ――いやまて。
攻撃力が――増えやがるぞ!?
ふぉん♪
『>15分経過で、攻撃力が倍になります』
とんでもねぇぜ。大丈夫なのかよ?
ふぉん♪
『>後れを取ることはありません』
§
「ココォォォォンッ――――♪」
光輪が、ギュッと小さくなり――
地におりた天狗役を、捕えようとする。
一面の青白い炎を喰らった、灼熱の日輪が――――ギラァァン!
「(まぶしっ!?)」
「うぬぅっ――!?」
太さを増し肥え太ったソレは、まるで水面にたゆたう真夏の太陽。
キュゴドドドドガガガガガガァァァァンッ――――!!!
日輪は火球と化し、大爆発した!
おれが居る足場が、爆発に削られ短くなった。
コレだけ暴れても、誰もおりてこない所を見ると。
対魔王結界は、伊達じゃねぇらしい。
――――ォォォォォォオッォンッ!
やがて光が弱まると、地に立つのは甲冑姿がひとり。
「うぬぅ――――!?」
ひざをつく迅雷。ミノタウ鎧は黒焦げだ。
ふぉん♪
『>私本体への損傷はありません』
鎧がすこし削れてるけど、まだまだ余裕がありそうだった。
姫さんはどこだ――居た。
おれの足の下、壁に爪を突きたてて――ガキュッ!
ぼごごごごぉぉぉぉうわぁぁぁぁぁっ――――!
足場を超えて吹きあがる、青白い業火!
ドッゴゴゴゴォォォォォォォンッ!
狐火の勢いでふたたび体を飛ばす、妖狐の娘。
ドゴガガガァン――――!
一息に離れ、迅雷から距離を取る赤い甲冑。
「あちちあちちっ? (いや熱くねぇ!)」
こりゃ、普通の狐火だぜ。
「ココォォォォン――――!!!」
カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャカシャカシャ!
左右に振られる一対の、機械の尾。
ぼっごぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁあぁっ――――!
すべての石床を青く染めた命の灯火が――――ギュルルルウルルルッ!
渦を描いた!
ギラァァン――――!
ぼごごごおっごぉぉぉぉうわぁぁっ――――♪
とおくの壁にすっ飛んでいった赤い獣の、機械の尾。
ヴォォォオォゥィィィィイィンッ♪
それが二つに分かれ、綺麗な円を描く。
ふたたび鼓動を始める――青白く燃えさかる命の奔流。
生きた〝狐火・仙花〟に活を入れているのは、やはりあの大きな尻尾だ。
触れると怖気が立つ、仄暗い炎。
それを喰らい、陽光と化す日輪の輪。
いくら迅雷でも、あの姫さん相手に棍一本じゃ――分が悪ぃ。
「カカッ――師よ。本日の所は……引き分けと言うことにしては?」
おれ、いや烏天狗は、階段の補強をしながら師へ、そう進言した。
「グカカカカッ――――弟子よ。よくみておくがよい。この月輪の拍動に、手ずから引導を渡してくれるわぁ――――!!」
ぶぅぉおぉぉおぉぉぉおぉぉんっ――――棒を振りまわし、舞う天狗役。
ビタリ――〝蹄〟が赤い狐に、向けられた。
「えっ、ちょっとまって、今の……〝カチリン〟ってなんですの? なんだか、かわいらしい、響きですわね?」
とおくの壁に張りついた獣が、首を傾げる。
お前さんの方が、カワイイだろう。
「リカルルさまー、ガチリンっていうのわぁー! 日の本の言葉で〝満月〟……丸い月とか、〝綺麗な丸〟のことだよー!」
石壁に黒筆で、『月輪』と書いてみせた。
「くすくすくすくす、それは良いことを聞きましたわぁぁぁぁ! この狐火が輪を描く高等魔術は、〝狐火・月輪〟と名付けますわぁっ♡」
クツクツクツクツ、コンコンコンコココォン♪
ガガァン、ゴゴォン、ゴリリッ、ガッキリッ!
機嫌良く笑う四つ足が、天井の真ん中まで歩いていく。
「ココォォォォン――――!!!」
天井から直下へ向かって、首を垂らしたその姿。
「ココォォォォン――――!!!」
もはや赤い甲冑は、四つ足の獣にしか見えない。
「ココォォォォン――――!!!」
む、三回の遠吠え――?
それ知ってるぞ。
岩場に棲む火吐き狼が、いつもやってる奴だ。
ヴォォォオォゥィィィィイィンッ♪
ヴォォォオォゥィィィィイィンッ♪
ヴォォォオォゥィィィィイィンッ♪
炎の青白い濁流が、光の弧を描く。
それはやがて、中くらいの大きさの――
三つの月輪となった。
ヴォゴォォッ――渦が流れだし、光輪を動かす。
光輪と渦が重なり合い、まるで三つ巴の紋所だ。
ヴォゴォォォオンッ――――!!
対魔王結界の石床を、ゆっくりと旋回する紋所。
「ぐぬぬぅ――――!?」
光輪を避けた天狗役が、中央に追い詰められた。