445:コントゥル家家宝(ジンライ)、VS完全フル装備リカルルその2
「横取りするみたいでぇ、オルコトリアにわるいかしらねぇぇぇ――最愛の宿敵に膝をつかせてしまうな・ん・てぇー、くーすくすくす♪」
そういや化け兎退治のとき、姫さんとも一悶着あったっけな。
すっげぇー……楽しそうだぜ。
おれはニゲル青年を、心の底から尊敬する。
「カカカカッ――――ガムラン最凶と謳われた、その絶技見せてみよっ!」
手甲の先の機械腕(大)で、落ちてきた〝蹄のロッド〟をつかむ天狗・細身の大鎧【片喰】。
ぽこん♪
『亥の目シリーズ一式【片喰・蹄】
伝説級の魔物を象った武器防具一式。
攻撃力320。
防御力3280。
条件効果/【片喰】この鎧を攻撃した対象に、状態異常〝♡〟を付与。
♡状態となった対象への魔法攻撃は、一切通らなくなる。
追加攻撃/戦闘状態が解除されるまでに、文様を完成させることで、
対象の残存HPに応じた一撃を、放てるようになる』
天狗が〝蹄のロッド〟をつかんだら、上級鑑定結果が更新されたが――
敵を魔法攻撃に対して無敵にする、状態異常〝♡〟ってのがさっぱり意味がわからん。
敵を強くして、どーするつもりだ?
さすがは、ミノタウ装備としか言いようがねぇ。
「コンコォン――♪」
「クカカカッ――!」
対峙する狐娘と、テーティファクト天狗。
迅雷が折られることはねぇから、心配はいらねぇが――
まずは姫さんの剣を、鑑定しとく。
ふぉふぉん♪
『まがい物の聖剣【匠スペシャル】
攻撃力287。聖剣の柄を再利用した業物。
剣速に補正が付くが、攻撃力は高級品並み。
度重なる修復により、強度UP。
追加効果/AGI+78』
まえにおれが収納魔法具で、自動的に直したときのままだ。
ひたすらに速ぇ剣で、あの切っ先はスキル無しでも一瞬で飛んでくる。
「――ココォォン」
ぼっごぉぉぉぅわぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――!!
んなっ、機械の尾から吹き出す――狐火!
あの甲冑なぁ。なんでかうまく鑑定できねぇんだよなぁ。
出来ねぇというか、気が逸れるというか。
ふぉふぉふぉん♪
『朱狐シリーズ【多目的機動戦闘四足歩行車両】
古より伝わる最古のアーティファクト。
攻撃力{…算出中}。防御力{…算出中}。
条件効果/搭乗者の総合評価により変化。
追加攻撃/搭乗者の{■■■■}に応じ算出。』
お? 初めてまともに見れたが――どういうわけだこいつぁ?
数字が読めんし、読めねぇ文字もありやがる。
それと字面が、『極所作業用汎用強化服』に似てね?
ふぉふぉん♪
『>リオレイニアの仮面が追加されたことでAOSが、
システムの再構築を行っているようです。
それと類推になりますが、最古のアーティファクトと言うことは、
イオノファラーの兄、オノハラレン謹製の疑いがあります。」
兄神さまかっ!
たしかルリーロの装備を、作ったとか言ってたな。
じゃぁ派手な甲冑も、そうだってことか。
なら、そうとう凝った作りのはず。
しかも妖狐のための、装備だったってこったろぉ?
なら、おれと戦ったときの、四つ足と尻尾の動きを参考にしろ!
ふぉん♪
『>了解です』
ガリガリガリリッ――――突きたてられた爪が、石床を削る。
ぼっごぉぉぉぅわぁぁぁぁぁぁぁっ――――――――!!
機械の尾から吹き出す――狐火の勢いは止まらねぇ!
対魔王結界の端まで届く、青白い尾。
「いきますわよ、テェーング・さ・まっ――――!」
石床を割るほど踏みしめていた、靴と手甲の鉤爪。
ソレがガッガンッと、抜きとられた。
その場に止まったのは、一瞬。
ギャギャガギャギィィッィンッ――――――――――――――――!!!!
散る火花。
上下を入れ替える――七天抜刀根術・六の型。
ドッゴゴゴゴォォォォォォォンッ!
狐火の勢いで体を飛ばしてきた、妖狐の娘。
それを、おれが前世で培った僧兵としての集大成。
根を使った飛翔技で、華麗に避ける天狗役。
蹄のロッドを弾かれながらも、天井をガガンッと高下駄……じゃねぇや、大鎧の靴で踏みつけた。
天井に張りついてる所を見ると、栴檀草の形状を靴裏に塗ったようだ。
やろうと思えば、ずっと蝙蝠みてぇにぶら下がっていられる。
ふぉん♪
『>量子記述的に再配置された、表面構造を塗布してありますが、
演算単位の使用もなしに、生身の体で同様に張りつくことは、
本来、不可能です。』
不可能だぁ? おれぁ天井に張りついて、すべることも出来るぞ?
たしかにコツは、要るが――
ドゴガガガァン――――!
まるで大筒を撃たれたような、騒音。
爆発する壁。突き刺さる、赤い狐。
ふぉん♪
『>壁に張りつくなら、あのように爪を突きたてる必要があります』
じゃぁやっぱり、このシガミーの体が異様なまでに、研ぎ澄まされてるんだな。
グリン、グリン?
壁に張りついた赤い狐耳が、天狗を探して首を回している。
「あら? どこォ――ON!」
「どこ行った」の口ぶりで、真言を唱えやがった。
まだ血の使い方を習ったばかりだろぉっ!
ぎちり――――――――シュッボゥ!
ドーム状の中央を分断していた、リカルルが残した狐火。
ごぉぉぉぉぉぉぉっぉぉわわわわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!!
その熱のない炎が風に煽られたように、広がっていく。
「(ちっ、燃えやしねぇが、おれぁ逃げるぞ!)」
ヴッ――――くるくる、じゃりぃぃんっ♪
迫り来る仄暗い炎を、高下駄で跳び越え――
錫杖を、力一杯――ガカンッ!
師に習って六の型。を使って、階段まで跳んだ。
「ココォォォォン――――!!!」
カシャカシャカシャカシャ、カシャカシャカシャカシャ!
左右に振られる一対の、機械の尾。
ぼっごぉぉぉぉぉぉわぁぁぁぁぁぁぁあぁっ――――!
すべての石床を青く染めた命の灯火が――――ギュルルルウルルルッ!
渦を描いた!
ギラァァン――――!
階段の足下が光った。
おれを狙ったのかと思ったが、違う――
「〝狐火・仙花〟――じゃねぇ!?」
標的をめがけ直進、もしくは曲進するはずの――
超高温の熱を帯びた、鬼火怪光線。
それがドームの周囲を巡るように、弧を描いている。
その端はなく、輪になって繋がっていた。
まるでおれが真言を使うときに描く――
真円のように。