444:コントゥル家家宝(ジンライ)、VS完全フル装備リカルル
「あらテェーングさま、すこし大きくなられましたかしら?」
「これも修験の技の……内じゃわい」
もともと日の本じゃ天狗ってのは、小せぇとか大きいとか言われてる。
基本的には、たぶんでけぇ。
今の大きさは――オルコトリアと、ほぼ同じくらい。
ガシャン、ギュギュギュギュ――バチン!
ひとりでも着られるようにはなってるが、手伝ってやる。
ひと揃え着込むと、随分と立派な騎士姿になった。
けど、ミノタウの角が大きすぎて――
「(しかしおまえ……格好悪ぃなぁ?)」
作っちまったからしかたがねぇが、やっぱりもう少し調整すべきだった。
いくら強くても、こう格好悪いと――
ふぉん♪
『>家宝とは認められない可能性があります』
だよな。折角、ジンライ鋼と銅の合金を表面に塗って見栄えを良くしたのに、銅色がくすんできちまったし――
なんだか、あんまり……。
おれは、頭巾に描かれた目の絵を、「しめしめうひひ」と歪ませる。
品定めをしようとすると、上級鑑定スキルを使えるのだ。
ぽこん♪
空中にあらわれる画面。
『赤錆シリーズ一式【錆】
伝説級の魔物を象った甲冑一式。
攻撃力350(+100)
防御力4001(+1380)。
条件効果/【錆】この鎧を攻撃した対象に、状態異常〝錆〟を付与。
錆状態となった対象への魔法攻撃は、全てが弱点属性扱いになる。
打撃攻撃は、クリティカル発生率100%』
恐ろしく強えな――けどまるで、家宝って感じじゃねぇぞ。
さすがはミノタウだ。
ふぉふぉん♪
『>スタイラスで一筆入れてみては?』
煤けた錆色の甲冑が、こちらに背を向け屈む。
そうだな――ヴッ♪
黒筆を取りだし、『玄』と背中に入れてみ――
「私も、すこしなら大きくなれるんですのよ?」
不意に姫さんが、そんなことを言うもんだから――
黒筆の先が、盛大にすべった。
「(くそう、『玄』が『亥』になっちまったぞ!?)」
ゴキュガキュ――ゴゴォォン♪
ズングリとして、頭から太槍を突き出してた姿形が――
ゴリゴリゴリゴリ、厚みがあった鋼鉄が削られていく!
角も短くほっそりしちまった。
赤茶けた色が〝黒錆〟にでもなりゃ見た目がマシになるし、もっと硬くなるかもしれんと思ったんだが!
河原の石のように、なめらかに研がれた甲冑は、なんだか鬼娘の体つきを思い起こさせた。
この細身でがっしりした体躯は、金剛力を使う鬼族だからこそ生きるのであって――
「(ああもう、猪ならもっと、筋骨隆々の姿形になっても良いだろうがっ!)」
もういちど、上級鑑定。
ぽこん♪
『亥の目シリーズ一式【片喰】
伝説級の魔物を象った甲冑一式。
攻撃力260(+60)。
防御力2700(+580)。
条件効果/【片喰】この鎧を攻撃した対象に、状態異常〝♡〟を付与。
♡状態となった対象への魔法攻撃は、一切通らなくなる。』
やべぇ、マジやべぇ!
まるで弱っちく、なっちまったぞ!?
「(手前、どーしてくれんだぁ!?)」
姫さんを振りかえる。
すると、そこには――
大股を開き、片手を地に着ける――
あられもない姿の、赤い狐耳。
狐面を跳ね上げた素顔に、被せられる――
白い鳥の面。
カシャリッ――――チキキキピピィー♪
狐の目が光ったが、いつもの月影の光じゃねぇ。
おれの画面のなかで灯る、色んな表示と同じ物だ。
バッシャンッ!
姫さんの甲冑の橙色の部分。
それがクルリと持ち上がり、その下に隠れていた白い部分をぱたり。
裏返った部分が、後方へカシャカシャパタパタタと伸びていく。
まるで迅雷の機械腕だ。
「(おい迅雷――超、気をつけろよ?)」
ふぉん♪
『>言われるまでもありません。あの機械の尾は、魔法杖と同じ構造です』
そーなのか。そいつはやべぇ。
「(ちっ、いますぐ始める気だぜ!)」
おれは、さっきいっしょに上級鑑定された――もう一枚の画面を見た。
『蹄のロッド【全属性】
伝説級の魔物を象ったロッド。
常軌を逸した魔導伝導率を誇り、
芯で当てると無詠唱で魔術(小)が発生。
攻撃力1300/追加攻撃力100/追加魔法攻撃力3200。
装備条件/なし』
こっちはわかる。
この数字を見るなら、弱いわけはねぇだろー。
「お師さまっ(このまま使ってみろや、すぐ構えろ)!」
おれは高下駄の歯で石床を踏み、蹄のロッドを跳ね上げた。