442:烏天狗(シガミー)、コントゥル家家宝をつくろう
「あれだけの大群が一瞬で……神々やヒーノモトー国の住人には、本当に驚かされますね」
こめかみを押さえ、空になった対魔王結界を見つめる給仕服。
「それでも小一時間ほど、かかってしまいましたわ。くすくす♪」
おう、茅の姫さま。超助かったぜ!
「(そういや、なんで姫さんたちを追い出したんだ?)」
「(こうして内緒話が、出来ないからですわ)」
「(それなら――)」
ふぉん♪
『シガミー>こいつで話をすりゃ、良いじゃねーか?』
ふぉん♪
『ホシガミー>だめです。この文字でも会話は可能ですが、
念話中の意識の高速化が使えません』
「(攻略本に記載のアイテムリスト。それとの照らしあわせを高速に行うことが、今回の装備修繕の肝だったようです)」
迅雷の念話が、頭の中で聞こえる。
「(わからんが、念話さまさまってのはわかった)」
おれの考えも、強く思えば神々共に伝わる。
「と言うわけで、カラテェー君にテングーさま。遠方から戻った直後に
、こんな無理難題を押しつけることになってごめんなさい」
腰を落とし片足を引く、リオレイニア。
「うぬ。儂らは異国の地に棲まうゆえ、この地の歴々と縁を持つのは肝要と考えておるわい。それ故むしろ、渡りに船……お役に立てて何よりじゃて――カカッ♪」
「師の仰る通りです。リオレイニアさん、いつもありがとう♪」
烏天狗と天狗が踏ん反りかえりつつ、礼をする。
なんか思い出してきたな、烏天狗と天狗のしゃべり方とか。
「いいえ、もうあなた方は猪蟹屋の従業員も同然です。いまシガミーを呼んできますね」
猪蟹屋店主のおれを呼びに行こうと、給仕服をひるがえす。
「あいや待たれよ。店主殿も夕餉の支度で忙しいじゃろうて」
空中を鷲づかみ、彼女を止める天狗役。
これは修験の技ではなく、天狗役が板に付いてきただけだ。
「そうですね、師さま。ぼくたちはこのまま、ここで例の家宝について相談したいんだけど。場所を借りても良いかな? リオレイニアさん」
シガミーと烏天狗の分だけでも、口調がこんがらかりそうだ。
「はい、とても助かりますが、あまり無理はしないように、天狗さまも。それでは――」
ひきつづき作業を見たいという子供たちを、両脇に抱えたリオレイニアが階段を登っていく。
「カラテェー君、またねー♪」
ビビビーが、烏天狗に手を振る。
「テェーングさまもーっ♪」
レイダは、裏天狗に手を振った。
「にゃみゃがぁー♪」
子供たちに手を振りかえす、猫の魔物。
「ひっひひひぃん?」
給仕服についていく、黄緑色の魔物騎馬一式。
「(おい、あいつら好きにさせといて良いのか?)」
「(はい。家宝クラスの一式装備の作成には、邪魔になる可能性もありますので)」
「(リオたちに押しつけるみたいで悪いが、ひとまず頼るか)」
「では、私も上に参りますね」
すたすたと階段へ向かう、星神。
「(ぬ? 手伝ってはくれんのか?)」
「(私が出来るのは精々、〝場を見る〟だけですもの。シガミーさんのように何も無い所から、物を作ることには向きませんわ)」
こちらを振り返りもせずに、茅の姫は階段を登っていく。
さて、烏天狗と天狗役だけになった。
おれと迅雷は、いそいで上に顔を出さねぇとならねぇが。
§
「(よし、始めるぞ)」
「(はい。ミノタウロース素材は全て、分類済です)」
ミノタウ素材でって、指示されたわけじゃねぇが。
「(そーだなぁー、折角の素材だ。あの妖怪狐……もとい奥方さまの度肝を抜くようなイカレた奴を、作ってやるとしようぜ)」
「(了解しました)」
§
「(そういや魔法杖ってのわぁ、早い話。狙いを定めるのと飛ぶのと、あと何のためにあるんだぜ?)」
「(基本的には魔術行使のための軌条です)」
軌条……レール?
ヴォウォン♪
表示された小窓には――
地面に埋め込まれた、並んだ鉄の角棒。
その上を転がる荷車が、映し出された。
重いモノを動かすための、引き戸みたいな仕組みか。
「(魔術の神髄を無理矢理まっすぐにして、活力を押してるのか?)」
「(私も、この世界の魔術体系を完全に理解したわけではありませんが、概ね、その認識で合っていると思われ)」
黒づくめの親子みたいなのが、何も無くなった広い地下室で。
屈み込み微動だにせずに、膝をつき合わせている。
誰かに見られたら、衛兵でも呼ばれそうだが気にしない。
ふぉん♪
『ヒント>魔法杖/魔導伝導効率の高い木枝や、希少金属製の物が主流』
うむ。そーらしい。
担任教師の太枝もレイダの細枝も、似たような色の木だった。
「(ルリーロの持つ杖のように、レア素材を使用して専用の別機能を、持たせる場合もあります)」
「(おれたちを神域惑星に吹っ飛ばした、山菜束だな)」
ふぉふぉふぉぉん♪
『ルードホルドの魔法杖【無限属性】
魔法攻撃力1300(+750)。全属性使用可能な魔法杖。
追加効果/STR-20/VITー20/INT+95
追加スキル/【球軸術数】一日に一度、MP消費1で、
現存する魔法の中でも最大級の魔法を放つ事が可能。
魔法属性は選べるが、同じ魔法は二度と放てない。
装備条件/STR20、VIT20』
杖の上級鑑定結果が、表示された。
伸び過ぎちゃった羊の角が三本――まとめた山菜みたいな形。
柄の部分には、こまかな彫刻が彫られていて、角の先端には、いくつもの宝石がちりばめられている。
何度見ても、異界に敵を呑みこむ機能は無い。
「(やっぱり妖狐の技に魔法杖を使って……威力が増したんだろうなぁ?)」
わからん。わからんが――
「(レアな素材か……ミノタウ素材、全部出してみろ)」
ヴッ――――ゴガララァン♪
ヴッ――――ゴゴゴン♪
ヴッ――――バラバララッ♪
沢山有るのは角だろ?
そして蹄が四つに、魔石みたいなのが二個。
ヴッ――――もわさっ!
もう一個有ったか……なんだこりゃ?
「(毛皮です)」
角と蹄と魔石と……赤黒い毛皮か。
全部を折半するって話だったが。
ほとんど、角ばっかりになっちまうぞ。
換金すれば、それなりになるから文句は出ねぇだろうが。
央都側だとミャッドにラプトル姫さんが、「角以外も寄こせ」って言いそうだ。
「(ガムラン側は、角を武器に加工できれば、うまく収まると思いますが)」
うん、工房長たちに任せられるしな。
「(となると、やっぱり問題は……お狐さまだな)」
とにかく一式。今すぐでっち上げねぇと、巡り巡っておれたちの学院生活まで、破綻しかねねぇ。
ミノタウ装備一式を、出来るだけ少ない素材で作るしかなくね?
せめて角を潤沢に使い、蹄は二個。
魔石は一個で、なんかの形にしてみる。
おれは絵で板を、立ち上げた。
念話を使えば、コレだけ話しても1分もかかってねぇ。
もう少しくらい遅くなっても、良いだろ。