441:烏天狗(シガミー)、伝説の職人の神髄
「(最大限の効率化を図ります。すべての装備を回収し、この場で新たな装備を作成してください)」
ふぉん♪
『ホシガミー>最大限の効率化を図ります。
すべての装備を回収し、
この場で新たな装備を作成してください』
一行表示と同文を、念話で伝えて来やがった。
おれそっくりの姿だが、あの内側は神仏だ。
金の髪は編み込まれ、左右に流されている。
いつもの給仕服じゃなくて、なんだこいつぁ?
裾が短くて、学び舎の胴着みたいな。
そして、その上から白い襦袢みてぇのを、羽織ってる。
ふぉん♪
『>白衣と呼ばれ、イオノファラーやオノハラレンが
好んで着用していた服のようです』
ふぉふぉん♪
『解析指南>イオノファラーの個人ライブラリ内〝ピクチャ〟および、
〝学術ネット論文参照済〟および、〝試薬構造式参照済〟および、
電子書籍『シンシナティック・ニューロネイション超攻略絵巻読本』の、
〝第11章:全アイテム一覧参照〟のフォルダ内インデックス化を終了しました。』
わ・か・ら・ん!
ふぉふぉん♪
『>イオノファラー所蔵の肖像画や、虎の巻のごく一部へのアクセスが可能になりました』
ヴォウゥン♪
小さく表示された画像。
それは白衣とやらを着た、女の姿。
コレは――目のまえに居る茅の姫と、同じ格好。
どこから見つけてきたのか知らんが。
画像は五百乃大角の、神々の世界での姿らしい。
美の女神の正体は、やっぱり思ってたよか、人の子だった。
年の頃は、せいぜいがリオレイニアくらい。
面白ぇ物をみたぜ。迅雷、この絵はお前の側にも仕舞っとけ。
「くすくす♪ コントゥル辺境伯へのお目通りがかないましたわ♪」
カツカツカツ♪
おれとおなじ顔して、呑気に歩いてくるなよな。
「(姫さまが口添えをしてくださったので、特に不審がられることもありませんでしたよ♪)」
目を見て話をしようとすると、頭が高ぇな。
踵が高い靴を履いてやがるのか。
「カラテェーだっ!」
「変なお顔……それは目ですの?」
白衣のうしろから現れる、子供たち。
みんな来ちまったのか。
コントゥル父娘で水入らずも、悪くねぇが。
「タターはどうしましたか?」
リオはいつもの、給仕服。
「「左肩が空いていますわ、お父さま♪」とか言って――」
レイダは、学院の制服。
「――伯爵さまに、連れて行かれたましたわ」
ビビビーも、学院の制服。
「あの娘なら大丈夫でしょう。ラプトル王女のお世話で培った忍耐力を、今こそ発揮するべきです」
信頼してるのか、投げやりなのかいまいちわからんが。
彼女が言うなら、平気だろ。
「それで、シガミーはどこ?」
「こちらに来ているのかと思ったのに……見当たりませんわね?」
子供たちが、シガミーを探してやがるぜ。
クカカッ――どーする、星神さまよぉ!?
「シガミーさんとジンライさんとイオノファラーさまは、晩餐の食材調達をお願いしましたので――」
茅の姫め。白衣を着たら、ずいぶんとシャンとしやがったな。
迅雷、白衣ってのは轟雷みたいに頭が冴えるのか?
「(いえ、演算単位の上昇は見られません。僧侶にとっての袈裟のようなものでは?)」
仕事着を着て、気が引き締まってんのか。
星神ってのは、何屋だぁ?
ふぉん♪
『ヒント>白衣/学者が着用する作業着』
学者? 坊主とは違うのか?
「あと10分もすれば、お戻りになられますわ。くすくす?」
は? あと10分で、ココに居る全員の――
対魔王結界を埋め尽くすほどの――
一式装備を、直せと言ったのか!?
少なくとも300人以上、居るだろコレ!
「では烏天狗さん。イオノファラーさまからの神託を伝えます。「おにぎりとぉ天ぷら号おぉー、便利にぃー使うのぉーですよぉー」だそうです。くすくす♪」
途中で五百乃大角の声色を、出しやがった。
レイダが目を丸くして、興味津々じゃねーか!
まったく、ただ武器を沢山作りゃ良いって訳じゃ、ねぇーんだぞぉっ!?
§
「では、参謀さま。レアな装備はおにぎりの……この猫の魔物みたいな彼が背負う収納魔法具の方へ、お預かりさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
あー、なんか考えがあるんだな?
「うむ。では全部隊長は、そのようにっ!」
参謀の人が、そんな指示を出してくれた。
まずおにぎりが――「みゃにゃぎゃぁー♪」
兎に角、装備という装備を――すぽん♪
「ひっひいひひぃぃん?」
ぽっきゅらぽきゅららっ♪
小さな馬車を引く、天ぷら号。
猫車のようなそれに、烏天狗が――
回収した装備リストの中から――
「(類型化されたリストを、解析指南が目の前に表示しますので――)
茅の姫が念話を挟んできた。
ふぉふぉふぉん♪
『>標準型甲冑一式
>標準型ロングソード
>大型丸形盾』
目のまえに表示される、小さな絵。
横に書かれた装備名。
例の虎の巻に書かれた寸法と――
そっくり同じ物を、絵で板で作成する。
ふぉふぉふぉん♪
『>標準型甲冑一式/作成
>標準型ロングソード/作成
>大型丸形盾/作成』
伝説の職人スキルは、とても良い仕事をしてくれる。
装備を目のまえの装備名と、照らしあわせる時間で――
体格や立ち姿にあわせた調整を、勝手にしてくれるのだ。
「カカッ――出来たよ」
回収した装備と、ほぼ同じ物を――
ガシャンガシャガシャガシャガシャンッ♪
作っては猫車に乗せる。
入れられるのは、せいぜい二人分程度。
「では、並べるぞぃ。ほいほいほほほい♪」
天狗役の迅雷が、おれたちが通った後に机を出し――
新しく作った装備を、手当たり次第に並べていく。
机一脚分で、最大3人分。
「わっ!? 一瞬で剣や鎧が、ピカピカになった!」
「千切れてたベルトが、元どおりに!?」
「欠けてた刃が、打ち直されてる!?」
ジジジジジィー♪
猫の魔物が口から、細長い紙を吐いた。
それを、むしり取る星神少女・茅の姫。
「こちらの半券をお持ちくだされば後日、お渡しできますので、忘れずにお持ち下さいませ。うふふ♪」
軽装になった隊長クラスの兵士に、ソレを手渡す(見てくれだけは)可憐な少女。
「これは、驚きました!」
叫ぶ参謀氏。
「「ふっふふーん♪」」
得意げな子供たち。
「ふぅ」
息を吐く給仕服。
がやがやがやがや、ざわわわわわっ!
物は試しと、両側に並ぶ兵隊20人。
「にゃにゃぎゃにゃぁ♪」
すぽぽぽん♪
「ひっひひぃん?」
ぽっきゅららら、ガラララッ♪
「クカカ――♪」
ガシャガシャガチャシャン♪
「ほいほいほほい――♪」
ゴトゴトゴトンガシャン――♪
「ありゃ、もう終わっちまったぜ……ね」
振りかえれば――湧く兵隊×20名。
「みなさん、お疲れでは?」
すたすたと後をついてきた星神が、そんなことを言うが。
収納魔法に、絵で板に、机に並べる手間。
疲れようはずもねぇ。
「にゃにゃみゃぎゃ♪」
「ひっひぃぃぃんっ?」
「「ふふーん♪」」
猫も馬も子供たちも、楽しそうだ。
§
「ふぅ。では半券をお持ちの方々は、そこに書かれた期日以降に、上階の猪蟹屋四号店カウンターまでお越しくださいませ♪」
そんな、リオレイニアのお辞儀。
対魔王結界中を馬が練り歩く時間で、仕事が済んじまった。