表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

439/743

439:烏天狗(シガミー)、コントゥル伯爵さま

貴殿(きでん)がカラテェー殿(どの)か! まことに、(きゅう)なことではあるのだが――我が全兵力(ぜんへいりょく)装備点検(そうびてんけん)を、お(たの)みしたい!」

 手紙(てがみ)最後(さいご)に書かれていた、文言(もんごん)とおなじ台詞(せりふ)

 それは、殿様(とのさま)からの要請(ようせい)だった。


   §


 まえにおれ、いや烏天狗(ぼく)がガムランの隣町(となりまち)捕縛(ほばく)され――

 城塞都市(そこ)冒険者(ぼうけんしゃ)たちの装備(そうび)一手(いって)に、修繕(しゅうぜん)させられたときのことを(おも)い出す。

 あのときは一晩(ひとばん)で済んだけど。

 この大軍勢(だいぐんぜい)は、城塞都市の高位(あのとき)冒険者(ぼうけんしゃ)たちの――


 ふぉふぉん♪

『>ざっと見積もっても、約40倍はあるかと』

 だよな。これから寝ずに(こん)を詰めても、単純(たんじゅん)に40(ばん)はかかる。

 昼間(ひるま)学院(がくいん)に、行かなければならないのだ。


 しかも、「ふふふふっ、(わたくし)名代代理(みょうだいだいり)で来ていますので、一式装備(いっしきそうび)を受け取るまでは、(かえ)れませんわねぇー♪」

 (わら)令嬢(リカルル)の手が、ビードロの水挿(みずさ)しに伸びる。


「シガミー? これ、お代わり(いただ)けるかしらぁー♪」

 彼女(かのじょ)傍若無人(ぼうじゃくぶじん)だが、そこまでタチの(わる)(もの)ではない。

 むしろ、世界(せかい)魔王(まおう)という生物(せいぶつ)脅威(きょうい)から(まも)った英雄(えいゆう)の――

 振る舞いとしては、ささやかなものだ。


 おれ……ぼくだって彼女(リカルル)だけなら、お貴族(きぞく)さまのまがままと(おも)って――

 (いま)すぐ一式装備作(いっしきそうびづくり)りを(はじ)めただろう。


 階段途中(かいだんとちゅう)(おど)り場から、こっちを見下(みお)ろす給仕服(メイドふく)が目に(はい)る。

 彼女(リオ)(かお)が、いつにもまして(しろ)い。

 (あお)ざめているのだ。

 その背に(かく)れるタター、レイダ、ビビビーたち。


 彼女(かのじょ)たちは、伯爵令嬢(リカルル)央都(ここ)滞在(たいざい)するにあたり。

 これから(とどこお)るであろう、ガムラン(ちょう)(まつりごと)に――

 (おも)いを馳せ(はだ)(かん)じ、(おそ)れおののいているのだ。


 (いえ)(かえ)ることなど(ゆめ)と化す、ギルド長(ちちうえどの)忙殺(ぼうさつ)する仕事量(しごとりょう)に――

 さらには、その後始末(あとしまつ)(めい)じられ、一族郎党(いちぞくろうとう)年単位(ねんたんい)一大事業(いちだいじぎょう)と化す、その家業(かぎょう)に――


 というより、おかわりを要求(ようきゅう)されてるし――

 傍観(ぼうかん)してる場合(ばあい)じゃねぇやな。

 渦中(かちゅう)に居るのは、おれたちだ。


 奥方さま(ルリーロ)からの依頼(いらい)に、伯爵(との)さまからの依頼(いらい)

 たかが辺境(へんきょう)町由来(まちゆらい)の、軍備(ぐんび)(かん)する保全(ほぜん)

 されど、そいつが一度(いちど)に来てしまえば――


 折角(せっかく)面白(おもしろ)くなりつつあった央都(おうと)――(まな)()生活(せいかつ)

 星神(ほしがみ)社交(しゃこう)と――美の女神(いおのはら)の食い道楽(どうらく)

 おれたちの本分(・・)を、ないがしろにするなら――

 ついさっき起きたばかりの――

 世界存亡(このよのおわり)(ふたた)び、(ため)されることになる。


 ちゃんと(はなし)をして、出来(でき)ることと出来(でき)ないことを――

 (はかり)にかけて、誠心誠意(せいしんせいい)――お(たの)(もう)す。

 そうすりゃ、いつものように。


「カカカッ――(だれ)にだ?」

 ひとたびかみ合わねぇことが、こうして起きちまえば――

 こうして(やいば)(うえ)を、素足(すあし)(わた)羽目(はめ)になる。


 解析指南(かいせきしなん)――ぼくとシガミーと天狗(てんぐ)、そして迅雷(ジンライ)

 ほとんどおれだが総動員(そうどういん)して、万事滞(ばんじとどこお)りなく――

 全仕事(ぜんしごと)穏便(おんびん)に、終わらせる(すべ)はあるか?


 ふぉふぉふぉふぉふぉふぉぉぉぉん♪

『解析指南>通常修繕並びに、レア度の低い装備に関する自動化設備の開発。

      レア度の高い装備における体系別類型型強化方法確立のための、

      『シンシナティック・ニューロネイション超攻略絵巻読本』の開示請求。

      この二件の達成により、作業効率を800%上昇させられます』

 わからん。

 8(ばい)になっても、たかが知れてるだろう。


「グカカカッ――――師よ! イオノハラさまを、呼んでください!」

 烏天狗(ぼく)の師(の装束(しょうぞく)に身を(つつ)む)である天狗(ジンライ)に、命令(めいれい)する。

 ひとまず、おれたちの世界(せかい)のより(どころ)――五百乃大角(せきにんしゃ)喚べ(・・)


 ふぉんふぉふぉん♪

『>FATSシステム内線#10286を呼び出しています

 >呼び出しています

 >呼び出しています

 >呼び出しています』


 ちっ、(はん)で押したように――(よう)があるときは、(かなら)ず出ねぇっ!

 じゃぁ星神(ホシガミー)を、おれが呼ぶ(CALL)――{>Logon__rpon__Connect>対話型セッション開始 ⚡ 龍脈言語server01.net}

 ぼくは(・・・)クルリと、身をひるがえした。


(わたくし)はカヤノヒメ……ではなく、こほ()――」

 ぼくは(・・・)咳払(せきばら)いをし、その場に(かが)み込んだ。


 ふぉふぉん♪

『シガミー>おう、さっきの今で、悪いんだがな。

      そこに五百乃大角(いおのはら)は居るか?


「{はい、お菓子(かし)を入れるお(さら)(なか)で、お昼寝(ひるね)をされていますわ、くすくす()}」

 自分(じぶん)念話(ねんわ)される、奇妙(きみょう)感覚(かんかく)

 ――――ィィィィィイィィィンッ!!

 (うえ)から殺気(さっき)が、落ちてくる――――ぼおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅわぁっ♪

 仄暗(ほのぐら)(あつ)くはないが、寿命(じゅみょう)(けず)ったり爆発(ばくはつ)したりする、狐火(ほのお)

 それが的確(てきかく)に、ぼくを(ねら)って降ってきた。

 ヴッ――(ほしがみ)錫杖(しゃくじょう)を取りだし――ガガン!


「クカカカカッ――――――――コントゥル辺境伯(へんきょうはく)さま。お(はつ)にお目に掛かります。ぼくが烏天狗(からすてんぐ)です()

 立てた錫杖(しゃくじょう)(うえ)高下駄(たかげた)一本足(かたあし)で立つ。

 (うで)を組み、背筋(せすじ)を伸ばす星神(カラテェー)


 そしてその手甲(うで)が――(かたわ)らに立つ師を、指し(しめ)した。


「カカカカカッ――――(わし)此奴(こやつ)の師で天狗(てんぐ)じゃ。よろしく、お(たの)みもう()

 背負(せおっていた)っていた錫杖(しゃくじょう)を――ガンと突きたてる。

 片手(かたて)(こし)のうしろに(まわ)し――じゃりぃぃぃんと鉄輪(てつわ)を鳴らす。


 お? シャキッとしてくれたな迅雷(ジンライ)


「もーすもーす、もーすでごわす♪」

 (とおく)くからそんな、レイダの(こえ)が聞こえてくる。

 いまゴワス(・・・)は、言ってねぇだろうが。


「にゃみゃがぁ――――()

「ひっひぃぃん――――?」

 ぽぽきゅ――♪

 ぽっきゅら――♪

 あー、おまえらは来るな!

 (あぶ)ねぇから、(うご)くな。


 ふぉん♪

『シガミー>大人しくしてたら、

      おまえらが欲しいもんも何か、

      一個ずつ作ってやるから』

「みゃがぁー()

「ひひぃん♪」

 がたん、ぺたぽきゅん♪

 もといた椅子(いす)と地べたに、(もど)ってくれた。


 ふぉん♪

『シガミー>よし迅雷。この大群は何だか、ちゃんと聞いてくれ』

 星神(ほしがみ)(まか)せてばかりも、居られねぇ。

 家宝(かほう)納期(のうき)(おく)れて、(しり)(たた)きに来たわけじゃねーだろうしな。

 ねぇよな?


「して、殿(との)よ。コレだけの軍勢(ぐんぜい)(うご)かされたと言うことは、いくさか討ち入りでもあるのでござろうかのぅ()

 目が(えが)かれた顔布(かおぬの)(すそ)を、かすかに揺らす。

 うしろ(ごし)に添えられた両手(りょうて)は、微動(びどう)だにしていない。


「うむ、(たた)わなければならない危険(きけん)魔物(まもの)は、活発(かっぱつに)出現(しゅつげん)(つづ)けている。だか(けっ)して、いくさ(・・・)ではない。本日(ほんじつ)(おもむ)いたのは、(たん)(おく)さんからの要請(ようせい)もあり、猪蟹屋予定地(ししがにやよていち)までの行軍(こうぐん)をしてみたかったのだ」

 そういうことか。

 伯爵(はくしゃく)長髪(ちょうはつ)が、ふぁさりと揺れた。


 (かれ)、コントゥル辺境伯(へんきょうはく)は、(むすめ)(あま)(ところ)があるのだ。

 おおかた、リカルルが滞在(たいざい)することを知り、その安全確認(あんぜんかくにん)(ため)

 もしくは有事(ゆうじ)(さい)予行演習(よこうえんしゅう)として、コレだけの大群(たいぐん)(うご)かしてしまったのだろう。


 ふぉん♪

『シガミー>じゃぁ、この大群全部の装備。

      一切合切の修繕と強化を頼まれちまったんだが、

      どうすりゃぁよいかな?

      猪蟹屋の改装も、学院の勉強も、お前さんの神域食堂だって、

      どれひとつも、ないがしろにはしたくねぇ』

 一行表示(ティッカー)で、そんな現状(げんじょう)(うった)えると――


 ふぉん♪

『ホシガミー>解析指南による指標もありますので、

       最大三日での完遂が可能であると判断しました』

 一行表示(へんじ)が、即座(そくざ)(かえ)ってきた。


 よし、わかった三日(みっか)だな。

 星神(ほしがみ)がそう言うなら、なんとかなるだろ。


 ふぉん♪

『シガミー>五百乃大角を忘れずに持ってきてくれ。

      今夜から仕事を始めるぞ』

 おれは一行表示(ティッカー)に、そう文字(もじ)を打ち込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ