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437:修験者天狗(ジンライ)、ご令嬢をもてなす

「〝リ〟がひとつ、(おお)いですわよ? それで、こんな路地裏(ろじうら)でどうされたのですか?」

 やや派手(はで)なドレスも、ここ央都(おうと)景色(けしき)には、よく溶け込んでいる。


(じつ)はのう、こやつらを猪蟹屋(ししがにや)根城(ねじろ)まで連れ(かえ)ろうとしたのじゃが……まるで言うことを聞いてはくれぬでの()――」


 バカッァン!

 そんな物音(ものおと)を、見あげる二人(ふたり)


 (まど)を開け、見知(みし)った派手(はで)淑女(しゅくじょ)に――「みゃにゃぎゃぁー♪」と。

 のんきに手を振る、件の片割れ(おにぎり)


「あー、状況(じょうきょう)はわかりましたわ。ひとまずは人払(ひとばら)いをいたしましょうか――――ココォォン♪」

 ぼぼぼぼおごごごごおぉぉぉぉおゎあっぁぁぁぁ――――――――♪


 うなる殺意(さつい)は、立ちならぶ高層建築物(こうそうけんちくぶつ)を越えて、なお吹き上がる。

 陽光(ようこう  )に消されぬ(くら)(ほのお)が、立ちのぼってから(ほど)なく。


 縦長(たてなが)(はた)(かか)げ、騎馬隊(きばたい)がやってきた。

 その(かず)は、十二騎(じゅうにき)

 入り組んだ町中(まちなか)運用(うんよう)するには、やや(おお)いその(かず)に――

 ひとり気配(けはい)(ころ)す――INT(インテリゲント)タレットにして修験者(しゅげんじゃ)天狗(てんぐ)


「そんなに身がまえなくても、大丈夫(だいじょうぶ)ですわ――」

 タンタンタタン♪

「にゃにゃみゃぎゃー()

 ぽっきゅぽきゅぽきゅ♪

「――(かれ)らは全員(ぜんいん)、コントゥル家の私兵(しへい)ですので♪」

 猫の魔物(おにぎり)の手を引き、階段(かいだん)を降りてくる淑女(しゅくじょ)


「おい、あの(はた)。ガムラン辺境伯(へんきょうはく)の……」

「ってことは、また王女(おうじょ)さまがらみか?」

「おい、いこうぜ」

「そうね。あまり長居(ながい)をすると、ゴーレムが湧くかも(・・・・)

 物見遊山(ものみゆさん)市民(しみん)たちは、(なに)かを勝手(かってに)納得(なっとく)し――

 みんな居なくなってしまった。


「お(じょう)さま。我々(われわれ)はいかがいたしましょうか?」

 隊長(たいちょう)らしき騎兵(きへい)から、女性(じょせい)(こえ)


「そーねー。レーニアは、まだ学院(がくいん)に?」

 (ねこ)魔物(まもの)と手をつなぐ、主君(しゅくん)をまえにして――

「はい――通常(つうじょう)でしたら出てくるまで、あと二時間(にじかん)ほど掛かります」

 一切(いっさい)ひるまず(どうじ)じない彼女(かのじょ)は、とても優秀(ゆうしゅう)騎士(きし)なのだろう。


「そう。では(みな)は、通常(つうじょう)巡回路(じゅんかいろ)(もど)ってください」

 ぱかぱかぱからら♪

 突然現(とつぜんあらわ)れた騎馬隊(きばたい)は、突然走(とつぜんはし)り去った。

 当然(とうぜん)ながら、ぽきゅぽきゅなどしていない。


「にゃみゃがぁぁ――――()

 威風堂々(いふうどうどう)とした爪音(つまおと)に、感化(かんか)されたのか――

「ひっひぃぃぃぃぃぃぃんっ――――♪」

 黄緑色(きみどりいろ)(うえ)黄緑色(きみどりいろ)が、颯爽(さっそう)(また)がった。


 ぽっきゅらぽっきゅらぽっるらら――――「にゃにゃみゃぁ――()

 ぽっきゅらぽっきゅらぽっるらら――――「ひっひひひぃぃん――?」

 人気(ひとけ)のなくなった路地裏(ろじうら)を、闊歩(かっぽ)してみせる騎馬兵一式(きみどりいろいっしき)


「ぷふふふふうふっ、くすくすくすくすすすすっ♪」

 その間抜(まぬ)けさは、如何(いか)ほどのものか。

 (さき)ほどの騎兵(きへい)との落差(らくさ)は――淑女(しゅくじょ)(ほほ)(ゆる)ませる。


「まったく変わりませんのね、アナタたちは♪ (わたくし)もその猪蟹屋(ししがにや)根城(ねじろ)とやらに用事(ようじ)があって来ましたのよ――あらっ?」

 猫騎士(ねこきし)にひょいと、つまみ上げられるコントゥル家ご令嬢(れいじょう)

 ぽっきゅらぽっきゅら、ぽっきゅらら――――きゃぁぁぁぁっ!

 間抜(まぬ)けた爪音(つまおと)は、一瞬(いっしゅん)姿(すがた)を消した。


「ぬぅ、ぬかったわ! あやつら見てくれと中身(なかみ)が、まるで別物(・・・・・)じゃと言うことを(わす)れとったわい()

 リカルル(ひめ)をさらった、間抜(まぬ)けた黄緑色(きみどりいろ)

 それが駆けていった方角(ほう)へ――どごごぉぉぉぉん!

 (くろ)づくめの老人(ろうじん)も、姿(すがた)を消した。


   §


「はぁはぁはぁ――ふぅぃ。よる年並(としな)みには、勝てんのぉ――ふぅ()

 (かた)(いき)をする、ご老体(ろうたい)

 その(じつ)、ほぼ無尽蔵(むじんぞう)四肢(かいな)を持つ、空飛(そらと)INTタレット(アーティファクト)迅雷(ジンライ)は――思案(しあん)に暮れていた。


「くすくすくす――――ご謙遜(けんそん)を。なにせアナタは、あのオルコトリアを(けん)(うで)説き伏せた(・・・・・)のですから」

 フカフカの長椅子(ソファー)へ、背中(せなか)をあずける伯爵令嬢(はくしゃくれいじょう)

 そこは応接室(おうせつしつ)とは、名ばかりの――

 荷物(にもつ)煩雑(はんざつ)に置かれた、ただの隙間(すきま)だった。


「ううぅむ。それはちぃと、間違(まちが)った(はなし)(つた)わっておるようじゃのう。そもそも鬼娘(おにむすめ)(たたか)ったのは、そこに居るおにぎりじゃ()

 猪蟹屋(ししがにや)四号店(よんごうてん)(かり)(けん)猪蟹屋(ししがにや)関係者(かんけいしゃ)住居(じゅうきょ)内部(ないぶ)

 清掃(せいそう)はされていたが、整頓(せいとん)はされていないようだ。


「にゃみぎゃぁー()

 積まれた木箱(きばこ)のどこかから、(こえ)が聞こえた。

「ひっひぃん?」

 (ひそ)んでいるつもりなのかも知れないが――

 黄緑色(きみどりいろ)長首(ながくび)は、普通(ふつう)に見えている。


「ソレについては色々(いろいろ)と、問いただしたい(ところ)でもあるのですけれど……央都(おうと)はすこし蒸しますわね~」

 はたはたと、(てのひら)(あお)いでみせる。


「それなら、地下(ちか)(すず)しいかも知れぬぞ……行ってみるか? 冷やす魔法具箱(まほうぐばこ)は好きに使(つか)えと言われておるから、なにか(つめ)たいもので()――」

 がしり――「(手甲(うで)をつかまれたわい)」


「テェーングさまっ、地下(した)への階段(かいだん)はどちらですのっ!?」

 その(ひとみ)には(れい)殺気(さっき)が、ありありと宿(やど)っていた。


 しかし、この場合(ばあい)獲物(えもの)は〝(つめ)たいもの〟であって――

 「((わし)ではない……と(おも)う)」

 なぜなら彼女(かのじょ)は、(ほが)らかに(わら)っている。


   §


「しかし、神域(しんいき)(つく)った、あの(つめ)てぇ菓子(かし)わぁ猪蟹屋(みせ)で出しても良さそうじゃねぇかぁ?」

「それにしても神域(しんいき)(つく)りました、あの冷や菓子(がし)はお(みせ)でお出ししても、およろしいのではないかしら? ――さんはい♪」


 (ただ)しく言い(なお)され――ぴしゃり♪

 初心者用魔法杖(ちいさなつえ)(かた)(たた)かれる。

 こいつぁ、前世(ぜんせ)(おも)い出すぜ。


「そっれにしてもよぉうぅ――」

 くい――――ぴしゃり♪

 ついつい(くび)(たお)して、肩を空けちまった(・・・・・・・・)


神域(しんいき)(つく)りましたる、冷えた菓子(かし)わぁよぉ――」

 もっとも彼女(リオ)にとって、初心者用魔法杖(このつえ)は――――ぴしゃり♪」


猪蟹屋(ししがにや)で出しても、良いだろうがよぜわ、がはははっ――」

 坊主(ぼうず)にとっての、警覚策励(けいかくさくれい)同義(どうぎ)だぜ――――ぴしゃり♪

 (しつけ)としちゃ、なんら間違(まちが)っちゃいねぇのだが。


「そぅ(ちい)せぇもんでチクチクされても、気合(きあい)いが(はい)らねぇ。担任教師(ヤーベルト)(わす)れてった、この〝(のろ)(ぼう)〟で(たた)いてくれた(ほう)がよっぽど座禅(ざぜん)……修行(しゅぎょう)(やく)に立つぜ?」

 ごとん♪

 リオレイニアの生活魔法(せいかつまほう)を、不発(・・)にした――(のろ)いの魔法杖(まほうつえ)


「ひぃえぇっ――!? こ、こんな棍棒(こんぼう)で、(ちい)さな(おんな)の子を(たた)くことなんて出来(できる)るはずもありませんっ!」

 狼狽(うろた)える、マナー講師(リオレイニア)

「はぁ? 朧月寺(うちのてら)では、こんな(かん)じの(ぼう)使(つか)ってたがなぁ」

 (ひら)たくて(なが)すぎず、(じつ)にちょうど良いぞ。

「「「「「「「「ひぃぃぃぃっ――――シガミーの故郷(こきょう)って、(こわ)っ!」」」」」」」」

 今日(きょうも)もそれなりの人数(がき)が、のこってやがる。

 ほとんどは、リオレイニア……いや美の女神(いおのはら)の生まれ変わりと(うわさ)される――イオレイニア先生(・・・・・・・・)目当(めあて)てだろうが。


「けど、レーニアおばさん」

「おばさんではありませんが、(なん)ですかヴィヴィー?」

「あの(つめ)たくて(あま)いお菓子(かし)は、リカルルさまには、食べさせない(ほう)が良いと(おも)うの」

「あー、ソレは……たしかに」

 眉間(みけん)を押さえ、(かんが)え込むマナー講師(イオレイニア)


菓子(かし)くれぇ、食わせてやったら良いじゃんか? (ひめ)さんは(あま)いもんに、目がねぇじゃねぇかよ(・・・・・・・・・・)?」

 (なん)でそんな意地悪(いじわる)を、言うんだぜ?


   §


「わっ、わなわなわな――――!?」

 ひと(くち)、飲むなり(からだ)(ふる)わせる。

 その殺気(さっき)(ふく)れあがり、(りょう)(ひとみ)集約(しゅうやく)していく。


「や、やはり(くち)には、合わんかったかのぅ()

 収納魔法(ストレージ)に入れて置いた――

 (れい)新開発(しんかいはつ)の、〝アイスクリーム〟という菓子(かし)


 シガミーが切りわけた、(はし)部分(ぶぶん)

 ぜんぶを(あつ)めてもここにいる人数分(にんずうぶん)には、なりそうもなかったので――


 ギュギュッゥウゥゥゥゥンッ――――♪

 (うし)(ちち)かさ増し(・・・・)して――機械腕(プロダクトアーム)満遍(まんべん)なく、かき混ぜた。

 (わし)生活魔法(せいかつまほう)使(つか)えないので、溶けてしまったソレをそのまま。

 飲み物代(ものが)わりに、お出ししたのじゃが。


「わっ、私決(わたくしき)めましたわっ――――♪」

 (さけ)伯爵令嬢(リカルル)

「なっ、(なに)をじゃあ()

 狼狽(うろた)える天狗(わし)


「ごぎゅごぎゅ、ぷはぁ、(つめ)たいっ♪ (わたくし)も、ここに住みますわ(・・・・・)ぁぁぁぁっ――――!」

 ぬぅ? もてなすことは、出来(でき)たようじゃが。


「にゃみゃがぁー()

「ひっひひひひぃぃぃん?」

 まてまて、(ぬし)らにもくれてやるわい。

 (ねこ)には持ち手が付いた(さかずき)

 (うま)には木箱(きばこ)に置いた平皿(ひさざら)


 令嬢(リカルル)(おにぎり)(てんぷらごう)は、(じつ)にうまそうに飲んでおる。

 (わし)は飲み食いはせぬが、それらしく見せねば――(あや)しまれよう。


「では(わし)一献(いっこん)。ごくごくごくり――ぷはぁ()

 なるほどのう。この(つめ)たい(のど)ごしには――

 ひとつ、(かん)()るところがあった。

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