435:神域惑星へようこそ、BBQ奉行とアイスクリーム
「「どうぞ、イオノファラーさま」――くすくす?」
両どなりに控える給仕服。
リオレイニア先生と、神域の主・茅の姫。
左右から焼いた肉なんかを、口へ運んでもらっている――
根菜だか、丸茸だか。
「ぴゃぁぁぁぁっ――――お・い・ち・いぃぃー♪」
香ばしいタレをからめた、焼いた肉。
ほかほかの米に、ときどき汁物。
それらをペロリと平らげ――
「そこぉっ、折角のぉやーらかいお肉なんだからぁ、焼きすぎないように注意してねぇ! 迅雷、もっとお肉持ってきてー♪」
まさに飯の神ならではの、この采配。
「楽しくやってるようで、何よりだが――」
おい、この輪になった竈は、お前が作ったのか?
ふぉん♪
『>はい。構造はシガミーが用意した物よりも、簡素ですが』
焜炉の魔法具。
ひのたまを放つだけで、あとは魔道具が火力を一定に保ってくれる優れものだ。
しかも石板に同心円の溝を掘るだけで作れる。
綺麗な円を人の手で掘るなら大変だが、迅雷なら最初から出来た状態の石版を出せる。
そして、おれが建てた墨を使う竈には――「にゃみゃがぁ♪」
ぱったぱたぱたぱったぱたぱた――♪
『猪蟹屋』という屋号と、猫と馬の絵が描かれた団扇。
ソレで炭火を、せわしなく扇ぐ――猫の魔物がいた。
「おにぎりは魚を、焼いててくれたのか――助かる」
「にゃみゃがぁ♪」
どうも、蒲焼きを食った奴から、焼き肉の席にまざる仕来りらしい。
蒲焼きに並ぶ最後尾には、線の細い男性教師。
「どうしたぁ、渋い顔ぁしてぇ? おれも手伝えばスグだから、もう少し待ってくれ」
「あー、いやー、そう言うことでもないんですがー」
歯切れが悪いが――その目が、汁物の椀や飲み物が入った杯に向けられているのを見て、わかった。
「ははぁん、酒か?」
「いや、いやいやいや、仕事中に酒なんて……学院長にバレたら」
気持ちはわかる。
こんなうまそうな肴をまえに、酒飲みが我慢できるわけもねぇ。
「そうだなー。今日の所は我慢してくれ。今度、ガムランでも有名な澄んだ……透明な酒をご馳走するからよ」
おにぎりの隣へ、どかりと座り――ヴッ♪
団扇を取りだした。
「ほほぉーう? それは興味深いなぁー。ふっふっふふふふふ♪」
「五百乃大角もそういうわけだからー、今日は酒はおあずけだからなー?」
ぱったぱたぱたぱったぱたぱた――♪
ぱったぱたぱたぱったぱたぱた――♪
おにぎりの真似をする。
これなら焼具合も、同じくなるだろ。
「えー? まぁ、そこまで酒飲みじゃないからぁ……もぐもぎゅ……良いけど――そこっ、まだ早い! あと10秒焼いてぇー!」
仕事は出来るんだよな、五百乃大角は。
「その代わり、例の草を取ってきたから――冷てぇ菓子の本式を食わせてやるぞーぉ!」
「「冷たい、お菓子!?」」
声を張ってたら、蒲焼き丼を片手に、レイダとビビビーが寄ってきた。
行儀が悪ぃな。
椅子とテーブルを――ヴッ、どどどどどごとん♪
座れとあごで指ししめす。
「えっ――期待しないで待ってたんだけど、ソレほんとぉ……もぎゅもぎゅ……迅雷?」
「はイ、ストレージ内デ確認済でス。バニラビーンズの原種ニ近イ実を、相当量確保しマした」
ヴォヴォォン♪
ビードロの器からタレに漬け込んだ肉を、カチャカチャチョキチョキと。
細かく切って、皿に盛るアーティファクト。
「……もぐもぎゅ……ほふひふへははへぇー?」
「おう、天ぷら号がたまたま見つけてくれたのを、おれの薬草師の能力で確認出来たからなっ♪」
最後尾の男性教師まで、あと少し。
ふぉん♪
『人物DB>ヤーベルト・トング
初等魔導学院1年A組担任教師』
ぱったぱたぱたぱったぱたぱた――♪
ぱったぱたぱたぱったぱたぱた――♪
おにぎりとの息も、ぴったりだぜ。
「「かわいくて、おいしくて、おもしろい♪」」
レイダとビビビーの視線が、まとわり付くけど気にしねぇ。
「よし、焼けたぞ! ヤーベルト先生、どうぞ食ってくれやっ!」
蒲焼きの列は、ひとまず終わり。
馬を繋いできた、タターの分も用意した。
焼き肉組も、リオと茅の姫に任せる。
おれは迅雷とふたり、星神神殿の調理場へ向かった。
§
「で、できたか?」「にゃんみゃが?」
ついてきちまった、おにぎりと一緒に。
山積みの、黒く萎れた鞘を――じっと見る。
結論から言うと、熟成をスキルで手早く済ませた。
解析指南に言われた順に。
食物転化――蒸す。
急速熟成――なじませる。
状態変化(大)――干す。
かんそうのまほう――さらに干す。
その工程が、とんでもなく大雑把で、何度か――
「やい、解析指南! その三ヶ月間掛けて乾燥させるってのは、どういう手順なんだぜ!?」
って怒鳴ってやったほどだ。
実際には十五分くらいか。
実が黒くなり、大分しおれてカサカサになった頃。
迅雷が機械腕の先の小刀で、スパリと切り裂いた。
試薬調合――チーン♪
ふぉん♪
『バニラビーンズ/爽やで甘みのある香り付けに用いられる香辛料』
よし。出来た。
もっと、苦労させられたあげく……この草を元に、スキル頼みで新しく作るまで考えてたんだが。
普通に生活魔法を使ったら、出来ちまった。
「おぉおぉお? こりゃたしかに、甘いような香りがしやがるぜ?」
「にゃんやーみゃやー?」
イオノ腹ぁ――――!
ぽこ――こぉん♪
「もぎゅもぎゅ――喚・ん・だ・かしらぁ?」
どんぶり飯ごと、おれの頭上に顕現する美の女神御神体。
「お味見役の出番だぜ――これで有ってるか?」
迅雷が皿に、斬った鞘と、中に入っていた粒を載せた。
「ふんふんふん、ふすん……うー? すこぉし燻製っぽい香りももするけど……でかしたわよ、たぶんこれよ♪」
すぽ――ぽぉん♪
煙のように消える御神体。
ふぉふぉん♪
『イオノ>あたくしさまわぁ、お肉を焼かないといけないのでぇ、
失礼するわ、アイス期待してますので♪』
外の焼き肉会場へ、戻ったのだ。
よしよーし、やっとここまで来たぞ。
あとは迅雷がフェスタで作った、あの甘くて白い冷てぇ味噌を造れば――!
§
「ぎゃっ!?」
最初に叫び声を上げたのは、櫓に陣取る御神体。
まあ、おれだって自分で作ったんじゃなけりゃ――
こんなもの、到底食い物には見えん。
それは、白煙を発する――鉄だ。
しかも焼けた煙じゃなくて――
ソイツに近づくと、ひんやりするのだ。
おれはソイツの背中に向かって、引き金をカチカチカチリ。
牛の乳で馬韮を煮立てて、漉す。
卵を白身と黄身に分け、泡立て混ぜる。
そうして出来た白い水を、〝耐熱おもち〟に流し込み。
生活魔法で冷やしながら――歩かせている。
〝おもち〟というのは紙で出来た、使い捨てシシガニャンのことで。
〝耐熱おもち〟というのはソレの、燃えない奴だ。
銃口を背中に向けて、カチカチカチカチリ♪
この弾丸の出ない火縄銃で、背中を狙いつづけることで――
〝おもち〟は自由に歩かせられる。
元々はフェスタで、組み手の相手代わりにするために作った。
それを火山ダンジョン攻略のため、鉄を塗って作り替え――
ぼっすん、ちゃぽん♪
ぼっすんぼぼすすすっん、ばしゃん♪
いまこうして〝かき混ぜながら、まんべんなく冷やす〟のに、使われている。
中身がたっぷり詰まってると、そこそこ音がするな。
けどそれも10歩程度歩かせたら、ピクリともしなくなった。
こわれたか?
「いエ、シガミー。完成デす」
特大の大皿を用意して、その上に立たせた。
汚れないよう穿かせていた、透明な袋をはずす。
「チィェェェェイッ――――♪」
横に5。縦に8。
小太刀でキッチリと、切りわけてやった。
山積みになった白味噌は、少しつぶれたが――
「ぎゃっ――――バニラアイスじゃんか!」
五百乃大角の注文どおりの、味だったようだ。
それだけ有れば、全員に行きわたる。
けど、おれにもいますぐ、ひとつよこせ。
四角い器に、かたくて冷たい白味噌をひとつ盛った。
匙ですくって、口へ入れる。
それは味わう暇もなく、溶けた。
フェスタで迅雷が作ったのと、おなじ物だ。
けどこれは、随分と、味がちがっている。
「こりゃうめぇな!」
おにぎりと同じ形の、鉄色の人型。
それを切りわけた、冷たい菓子。
お貴族のお子さま方の目には、さぞかし不気味に見えるんじゃねえかと思ったが――
耐熱型使い捨てシシガニャン――おもち一匹分の冷たい菓子は、一瞬でなくなった。