433:神域惑星へようこそ、蒲焼きとシャットダウン
「リオレーニャちゃんは、どう思うーぅ? スッゴくスッゴくおいしいお料理おーぉ、この生徒さんたちにぃー振る舞っても平気かしらしら?」
「くすくす?」
御神体(小)を手に取り、小首をかしげる茅の姫。
その姿は、五百乃大角の歌声が出る詠唱魔法具に描かれた、おれみたいだった。
他人のそら似じゃ、通らんだろうな。
「そうですねぇ。このお料理は後日、猪蟹屋四号店で提供できますか?」
「可能ですわ♪ リオレイニアさん、うふふ?」
あの星神の顔は、なんか含む所があるな。
根城のある神域惑星に、誰か呼びたかったってのは本当なんだろうが。
そもそもが、人恋しさで――彼岸を抜け出したほどだからなぁ。
「ううぅぅん……ガムラン町は貴族階級が、コントゥル家しか有りませんでしたので、お嬢さまの才覚で事なきを得ましたけれど――――ううぅぅぅぅううぅぅんぅ」
あれ? 美の権化先生をしたたる、滝のような汗。
なんか、おれや茅の姫が思ってるよか、大事になりかねねぇっぽいぞ。
それとリカルルの場合、才覚って言うよか暴……胆力じゃねぇか?
才覚って言うなら……リカルルじゃなくて、お前さんのだろ。
けど、お前さんが考え込むほどの大事ってのは、わからんな。
言っても、昼飯を食うだけのことだ。
「まぁ、猪蟹屋も最初の店を出したときに、一悶着有ったからなぁ……こっちの水瓶には何が入ってるんだ?」
マズい物を食わせるわけにもいかねぇけど――
うまい物を食わせたら食わせたで、揉めるらしい。
「そちらは、お茶や果物水ですわ、くーすくす?」
声がわらってねえ。
星神・茅の姫の、顔を見た。
ふぉっふぉん♪
『ホシガミー>猪蟹屋四号店(仮)の顔となる、
お飲み物の開発に、ご協力下さい♪』
飲み物だぁ?
っていうか、随分とやる気だな。
夜中に、リオに解散させられてからも、一人で何かやってたみたいだし。
っていうか――教室まるごと連れてきたのは、その為か?
「ああもう、おれが責任取るから――初めてくれやぁ!」
おれは、どれから焼けば良いんだぜ!?
ヴォヴォヴヴヴォン――――ドゴドゴ、ドゴゴン♪
東屋の近くに、竈を5台置いた。
§
「ねぇねぇシガミー?」
「なんでぇいレイダ?」
早速魚を焼いてたら、子供が寄ってきた。
今日は、焜炉の魔法具じゃなくて炭を使う。
フェスタで使ったあまりがあったから、丁度良い。
「これわぁ、オスーシじゃぁないのぉん?」
ふざけてるんだろうが、五百乃大角語がうつっちまってる。
「今日は、米は炊いてねぇ。これは蒲焼きにする」
「カーバヤーキ?」
「すごく、おいしそうな、香りですわね♪」
ビビビーは、リオの縁者だけあって、言葉遣いがキレイだ。
見習わせたい……って他ならぬリオも、おれに対して日々思ってるんだろうなー。
「ぬたぬたした沼魚を開いて、串に刺して焼くんだよ。こんな甘いタレを漬けて焼くのは、おれも初めてだがな」
五百乃大角が言ってた無限の調理法って奴の、一端かもしれん。
すごく、うまそうではある。
よぅし。そろそろ手順はつかんだし――高速調理。
箱から、串を刺した魚を取り出す。
網に乗せ遠火で焼く。タレが入った壺に丸ごと浸して――強火でも焼く。
タレが焼き上がったら、もう一度壺に浸して――手順を繰りかえす。
「よぉぉうし! 蒲焼き、あがったぜ♪」
どさどさどさっ――♪
焼きあがった蒲焼きを、大皿に盛ったそばから――ぱくり。
「ひひひっひいぃぃぃぃんっ?」
やい黄緑色めっ――どっから湧いて出やがった!?
拳骨をくれてやろうと、立ち上がると――
「にゃにゃみゃがぁっ――♪」
あっ、このやろーう!
おにぎりっ、お前まで!
最初に焼いた五人前のうち、四人前を取られた。
けど、うまそうに食ってるから――
「毒味……味見役と思えば、安いもんか――ん?」
大皿の近く。
なんかどんぶり飯が、よちよちと歩いてきた。
ごとん。丼の影から姿をあらわしたヤツは、一礼し――
小さな手を、白飯に向かって促した。
ヤツは何も言わなかったが、その頭の真ん中のつむじが――
「さぁ、最後に残ったその一人前。お寄越しなさい、今すぐに♪」
そう言ってたから、白飯の上に乗せてや――ろうとしたら。
「タレをすこし、ごはんにかけてね。あと皮わぁ、下に向けてのせてねぇーうふふふ❤」
注文が多くね?
あとなんだ、その上機嫌。
たしかに、うまそうではあるが。
フェスタの時の、ルリーロとかニゲルを思いだした。
この甘いタレの蒲焼きも、のちの世の日の本で、心の琴線に触れるのだろう。
言うとおりにしてやった。
「どうぞ、お吸い物です、くすくす♪」
ことりと、その側に置かれたのは――
茸と二枚貝の、汁物か?
実にうまそうだ。
見れば彼女か運んできた大盆には、白米を盛った丼と汁物の器が沢山のせられている。
どうやら米は、星神神殿の方で用意してくれたらしい。
「いっただっきまぁーすっ♪」
茅の姫によって、整えられた膳。
それは、一瞬だった。
「ひっひぃぃぃぃんっ?」
止める間もなく、ふたたび現れた馬が。
五百乃大角のまえに並んでいた――
蒲焼きも飯も汁物も一口で、平らげやがった。
「天風羅睺! 天かける風が如く、日月を喰らう……早食いだぜ!」
逃げた馬を今度こそ、殴りつけてやろうと立ち上がると。
果敢にも……止めようとしてくれたんだろう。
「きゃぁぁぁぁっ――――とまってくださぁぁぁぁいぃぃいぃ!」
見習いメイド・タターが、天ぷら号に引きずられていく。
「ウケケケケケケッケケケケッ――{shutdown -s -d 7:99 ーc〝鰻丼を取られた〟}」
やべぇ!
怒り心頭の根菜だか丸茸だかが、いままさに天罰を食らわそうとしてやがる!
ふぉふぉん♪
『>イオノファラー、未保存のデータが失われます。
オフライン中の現状では、再起動できる保障もありません」
この世の終わりだ。
「まてまてまてまて、今すぐ焼いてやるから!」
五百乃大角が出した小さな青板は、閉じない。
「よしあれだ! なんだっけか昨日言ってた、そうだ――〝アイス〟ってのを付けてやるから!」
おれは大慌てで、蒲焼きを焼いていく。
「ほんとお? おかわりもお?」
「いくらでも食え、食えるだけ作ってやらぁ! へいお待ちぃ!」
茅の姫が差し出した白飯にタレをかけ、焼きあがった蒲焼きをのせてやる。
「どうぞ、イオノファラーさま。うふふ♪」
ことり。漬物の小皿が添えられた。
「アイス期待していますよぅ。じゃぁ、いただきまーす♪――{shutdown -a}」
小さな青板は、閉じ――
かろうじて、この世の終わりは回避された。