432:初級魔法とシガミー、おいでませ神域惑星
「やい、五百乃大角。良いのか、こんなに沢山、連れてきちまってよぉ?」
おれは御神体像を、振りかえった。
おれが作ったときには、あんな扉は付いてなかった。
「(迅雷、あの学院長の扉に似た転移陣は、揉めごとにならねぇか?)」
学院のおれたちの教室と、ここ神域惑星をじかに繋ぐのは――
どう考えても、よろしくねぇよな。
「(この世界で、神の采配に異を唱える者は……数名程度と思われます)」
うん。その数名が、問題なんだが――
「「「「「「「「「「「「「「がやがやがやがやっ、わいわいわいわいっ♪」」」」」」」」」」」」」」
御神体像というか、まさに五百乃大角像。
群がる子供たち。
冒険者ギルドに設置されている女神像の機能もあるから――
正確に言うなら、巨大御神体兼女神像になる。
御神体のいつもの姿を、そっくりそのまま大きくした女神像。
片膝をつき、組んだ手を鼻に――むぎゅり♪
その敬虔なイオノフ教徒のような姿勢には、くだらねぇ理由があった。
ガムランと言えば、魔物と戦う冒険者の町だ。
そして冒険者の顔でもある、コントゥル辺境伯令嬢ルカルル・リ・コントゥル。
剣の腕は超一流、そんな彼女の取って置きの高級菓子を――
五百乃大角と辺境伯婦人が、全部食っちまったのが悪ぃ。
ソレを知った彼女の剣が抜かれようとしたとき、低頭平身する五百乃大角。
操って遊んでた巨大像が、予定外にはやく設置完了しちまって――
今こうして、そのままの形で残ってるというわけだ。
「大きな、イオノファラーさま♪」
「なんて、神々しい♪」
などと、感銘を受ける子供も居るようだし。
ここは、おれの胸にしまっといてやる。
しかし、天気が良いな。
ファサァー♪
ふきぬける風が、じつに心地よかった。
この辺りは特に、過ごしやすく作ったが――
空の青さが、尋常じゃねぇ。
「うふふうふう、みなさまこちらですよぉう♪」
星神茅の姫が星神神殿へ、足取りもかるく歩いて行く。
楽しそうだな。ニゲルの相談ごとに使う建物とは別の――
そこそこ、しゃんとした建物を作って置いて良かったぜ。
「えーっ? 神域惑星に子供たちおぉー連れてぇきぃてぇー、良かったのかってぇー? 良いに決まってるじゃないのよさっ♪ ねぇーリオレーニャちゃぁん♪」
こっちも上機嫌の、御神体さま。
リオにうやうやしく、持たれている、
「そうですね。イオノファラーさまが宜しいのでしたら、こちらとしては生徒たちの後学のためにもなりますので♪」
外套を首のうしろに垂らし、頭の上には猫耳付きのヘットドレスを乗せられている。
「あー、ひょっとしてさぁ――、わが猪蟹屋一味としてわぁ、戦略上の重要拠点おぉー公開したくなかったりしたぁ――にたぁり♪」
どこで覚えたその顔、やめろ。
「詰まるところ、そういうこったぜ?」
隠しても仕方がねぇ。
こちとらうまい飯と、お前さまを守らねぇといけねぇからな。
「それさぁー、今さらなんじゃないのぉー? だってさぁ、ここに一番入れたくなかった人をさぁー、真っ先に呼んじゃったでしょおー?」
そうなのだ。ここ神域惑星には、ガムラン代表リカルル・リ・コントゥルを招いたことがある。
もっとも、こんなに緑が豊かな場所になるまえ。
硬い床があるだけで、何も無かったが。
「ばかやろう、呼んでねぇ! 奥方さまの大技に吹っ飛ばされて行き着いた先が、たまたま神域惑星だったって話だろうが!」
見たこともねぇ怪物が闊歩してたし、良く生きて帰れたもんだぜ……思い出したくもねぇ。
『‣‣‣』
動体検知が、迅雷が立てた柵に近寄った――子供を検知した。
「よくきけぇーい、おまえらぁー! 柵の外に出るなよぉー! 魔物に食われるからなぁー!」
か細ぇ体でも、大声くらいは張れる。
ましてや、この体は〝体現〟特化の特別製だ。
びりびりと震える声が、体の芯まで震わせた。
「「「「「「「「「「「「「「「ははーい♪」」」」」」」」」」」」」」」
担任教師まで背筋を伸ばして聞いてくれるのは、超ありがてぇ。
なんせ、神域惑星は――まだ完全に探索が済んでねぇ。
とてもとても、ウチの庭だなんて言えねぇからなぁ。
『▼――ピピピッ♪』
柵を触った子供にも、ちゃんと聞こえたようだ。
『▼』『▼』『▼』『▼』
相当とおくまで行った連中を示すマーカーが、大慌てで戻ってくる。
立てた柵は――『>一辺の長さが約500メートルです』。
その中に巨大御神体像と、ニゲル専用恋愛相談所と、星神神殿が並んでる。
おれたちは、神殿よこの東屋にあつまった。
「それで、居合わせた全員が付いて来ちまったが……何をする? 昼飯を作るなら、もちろん手伝うぞ?」
五百乃大角と比べたら、子供どもはソコまで食わんから、分量はソコソコで足りるだろうが――
こいつらは、ガムラン町のおれたちを除けば、央都で暮らすお貴族さまの家の子だ。
あまり粗末な物も出せん。
「お料理でしたら、まえに仕込んで置いた物が有るので――よいしょ♪」
ゴゴンドドンガララァン――――ドサドサドササササッ♪
石でできた大きな台に、載せられていくのは――
四角い箱に、四角いビードロ。そして大量の水瓶。
木箱とビードロは、ひと抱え程度のが3個ずつ。
水瓶は、十や二十じゃ利かない。
箱の蓋を取ると、開いて串に刺した魚。
ピードロの方は開けなくてもわかる――タレに漬けた肉だ。
「くすくす、お魚は蒲焼き用に串を刺しておきました。お肉はイオノファラーさま直伝の、秘伝のタレに漬けましたわ♪」
「わからんが、うまそうじゃね?」
いろんなスキルが食べるまえから、「うまいぞ」と言っている。
「あー、それを出して来ちゃったかーぁ♪」
っかぁー、やられたわぁー♪
なんだ、その小芝居?
「なんでぇい、お前さまが頼んでおいたんだろぅが?」
「うんまぁ、そーなんだけどさ。神域惑星で採れるお肉も、お野菜も、お魚もぉー――たぶん、かなり、おいしーのねぇ?」
そっと前に出る、リオレーニャちゃん先生。
「うん。まえにニゲルたちと魚を食ったが、うまかったのは覚えてるぞ」
ほんとうにうまかったが、どちらかといやぁ味付けが良かったんじゃね?
「よっと! ここで採れる食材にはぁ、何っていうかさぁ――無限の調理法がある訳なのよん」
そっと石台の上に解き放たれる、御神体(小)さま。
「無限の調理法なぁ……まるでわからんが?」
「簡単に言うなら、この時代の水準と比べると、あたくしさまが居た神の国わぁ、ずーっと未来に渡って食文化を極めまくったのね」
込み入った話を、切り出しやがったな。
「未来ってなぁ、どれぐらいだ?」
ぽこん♪
おれは椅子を出して――どかりと座る。
ヴォヴォヴォォォォンッ――――ぽこぽこぽこぽこぽこぽこぽここここここここぉん♪
迅雷が人数分の椅子を、ずらりと並べていく。
「そうわね……ぶっちゃけ……(シガミーがいた時代とソレほど変わらないのよね、この世界)」
途中から念話を使う、五百乃大角。
おれはあくまで、この世界にあるヒーノモトー国からの来訪者って事になってるからな。
「(変わらねぇだぁ? おれが居た時代よか、大分進んでると思うがなぁ?)」
風に吹かれていた木の葉が、足下でピタリと止まっている。
念話の最中は、あたりの動きが遅くなるのだ。
「(いいから同じと思って! そしてそれから大体600年後の世がぁ、あたくしさまの居た時代よぉっ!)」
御神体が、真面目な顔をしてやがる――!
「600年だぁ――!? 随分と最近じゃねーかよぉ!」
「でた坊主。(時間の概念が、戦国時代の人じゃないわよぉ?)」
けどよっ、長生きの爺様婆様が、十人分だろっ?
最近だぜ、そんなもんわぁ。
どうも聞いてた感じと、ちがって随分と――近しいというか。
「(けどその600年ぽっちで、有りと有らゆる食べ物の味を――おいしくするためだけに神々は――生き物を、作り替えたのよ?)」
ためらいの表情。
「(うへぇ。そいつを聞くと、世も末っつうか、五百乃大角っぽさが出てくるぜ)」
神々の食い道楽には、触れねぇ方が良さそうだぜ。