421:初等魔導学院、詠唱魔法具と拠点その4
2023/09/02 12:58 星神と美の女神の描写を追加。
「えーっと、ひょっとして勝手にお屋敷を抜け出したから、怒ってる?」
「いーえ。ですが本日に限っては、大人しくしておいて頂きたかったというのが、本音ではあります」
リオの返答が、どうも煮え切らんぞ。
王女が呼んだ、大型のゴーレム馬に飲み込まれ――
揺られること十数分。
どういうわけか、あの場にいたリオやレイダやタターにビビビーまで、一緒に揺られてる。
旧シガミー邸に有った寝床の、倍くらいの大きさ。
膝を抱えた全員が、ぶつからない程度の広さはある。
しかし、ゴーレムたちの〝目玉〟になる〝広角レンズ〟を、あとで作ってやらないとなぁ。
尖った形状には、どうしても威圧される。
天ぷら号みたいに可愛らしく改造するには、尖らず高性能な目玉がどうしても必要だ。
「おれぁ、どこに連れて行かれるんだ?」
「さぁ? 私どもはシガミーのことだから目を離せば必ず、央都を抜けだすだろうと、目星を付けただけですので――」
「「「すやぁ――♪」」」
膝を抱えて大人しくしていた、子供たちとメイドが――
重なり合って、寝息を立てている。
こいつら、おれをとっ捕まえること自体が面白そうで――
訳もわからんままに、参加したんだろうな。
深夜の転移陣の使用は、禁止されている。
まあ五百乃大角が同行する以上、教義にも大女神像の使用許諾にも違反はしてないんだが――
小言とかペナルティーは、あってしかるべきだ。
「あ、そーいや、頼まれた詠唱魔法具は出来たぞ」
試しに作った、薄型の試作品を――ぱしり。
リオレイニアに渡した。
「これはっ、要望どおり! いえ、それ以上の出来映えです♪」
ぽちりと押される『♪』。
「〽満っ員電車に乗っかって――♪」
む、思ったより、うるせぇな?
子供どもが、起きちまう。
「♪をもう一回、押し続けると完全にとまるぞ」
『♪』はひとつだけ。子供にもわかりやすく、作り直した。
「すばらしい! 私のお行儀がすこし……悪くなっていますが、それでも実にすばらしい♪」
硬かった表情が、やわらいでくれた。
ガキュゥン♪
とまる、ゴーレム。
「(おい。ここわぁ、どこでぇい?)」
ふぉん♪
『>大女神像の間から、直線距離にして1・2㎞』
えーっと、方角は?
ふぉん♪
『>南南西です』
ってことわぁ、王女の工房がある辺り……城壁の外れの方か。
そのさらに外には魔導学院や魔導騎士団関連施設が、立ち並んでいたはず。
ガッキュゥゥゥンッ♪
開く――ゴーレムの腹。
ドサドサ、ゴロゴロロッ――!
おれたちは暗闇の中に、放り出された。
ゴーレムの目や腹の中が、魔法具の光を放ち――
周囲を照らしている。
「ふふふふふ、ゴーレムを壊され――ららぁん♪」
「ミャフフ、作動したマナキャンセラーも壊され――」
「いまだ、修繕の目処は立っておりませんが――」
「ただ手を、こまねいていたわけではありません」
誰かの声が、響きわたる。
ガッキュゥゥウンッ♪
おれたちをのせて来たのとは別のゴレームから、降りてくる数名の足音。
バチーバチーンバチバチィーン――――カカカカカッ!
何かの力がほとばしり、周囲が一気に明るくなった!
そこは、えらく広い大部屋で――
大女神像の間よりも、広いだろコレ?
「(はい。約三倍ほどの広さがあり、高さも同程度あります)」
窓とか扉とか柱はない。
振りかえると出口らしき大扉がひとつ、とおくの方に見えた。
「ここは、何だぜ?」
床も天井も磨いたような石壁。
学院の教室の黒板みたいに、魔術的な細工で埋め尽くされている。
「ニャひゃひゃ――この場所は、なんて言うかニャァー?」
「いざというときに、魔王を封印するために――」
「私たちが作りあげた――」
「対魔王用ゴーレムの、お腹の中です――らぁん♪」
は?
「魔王を封印するためのゴーレムの……腹ん中だぁとぉおーぅ!?」
封印も何も、そいつぁもう姫さん――名物受付嬢のガムラン代表の方が――
とっくに二つに、しちまっただろーが?
あたりを見わたす。
リオを除いた大人たちは、全部で四人。
モサモサ神官や、神官たちの姿はなかった。
「(あらあらあら、まぁまぁまぁ――――♪)」
なんか今――声がしなかったか?
「むぅっ――何か居るぞっ!?」
ヴッ――くるるるるるっ、じゃりぃぃん♪
「――まぁまぁまぁ♪ みなさま本日は、とおい所をようこそ、おいでくださいましたわ♪」
おれは声のした方へ、錫杖を突きつけた!
「お前――どっから入って来やがった!? それに、とおい所って――せいぜい十分ちょっとじゃねーか!」
巨大な大部屋の中央。
大きなテーブルと、たくさんの椅子。
近くには板場や竈や、大きな収納魔法具らしき物まで並んでる。
謎のゴーレムの腹の中とやらに、到着したら――
そこには惑星ヒースの神、茅の姫が居て――
大量の料理で、おれたちを出迎えた。
「お、お知り合いですか? シガミーさんにとてもよく似ていらっしゃいますが?」
学院長先生がひとり困惑し、首を盛大に傾けている。
他の大人たちは、思う所があったのか――
ただただ長い息を、吐くのだった。
§
「なるほどミャッ♪ シガミーたちは――」
着席する、ギ術開発部顧問。
「測定魔法具を壊した装備の性能に、不安を感じて――」
着席する、顧問秘書。
「実験しても被害の及ばない、イオノファラーさまの〝星の世界〟とやらで――」
着席する、初等魔導学院長。
「こうして、お夜食を食べるつもりだった――ららぁん?」
着席する、第一王女殿下。
「あらためまして、ご挨拶させて頂きますわ。私、神域惑星管理人のカヤノヒメと申しますニャン、くすくす♪」
料理の盛られた大皿を持ち、一礼する猫耳メイド。
腰より長い、金糸の髪が舞う。
年の頃なら、タターと同じくらい。
おれやレイダよりは年上、リオレイニアよりはずっと年下か。
「どうぞ皆さま冷めないウチに、お召し上がりくださいませ♪」
その完璧な所作にみとれる、全員の視線。
それがなぜか、おれに向けられる。
なんだその、残念そうな面ぁ?
「何つぅーかこいつぁ、おれのとおい親戚だ。よろしくしてやってくれやぁ」
とにかく場をなごませようと、「がははは」と笑うおれ。
見た目はおれと、ほぼ同じはずなんだが、こうして見ると――
なかなかどうして、しゃらあしゃらしてて、見ばえがしやがるな。
まだまだ女としちゃぁ、いろいろと物足りねぇ所だが――
美の権化であるリオレイニアだって、肉付きわぁ、こんなもんだしな。
「がはははは――――♪」
仮面がおれを見てる気がするが、気のせいだろう。
「(やい、星神さまよ?)」
「(なんでしょうか、シガミーさん?)」
さっきも聞いたがぁ、お前さまぁ――どっから入ってきやがった?
いまの時分は、神域惑星に建てた神殿で、寝てるはずだろうが?
「(うふふ、シガミーさんたちがこちらに来ると、お告げがあったのでお待ちしていたのですが――いつまでもいらっしゃらないので、くすくす?)」
「(業を煮やして、自ら出向いたと?)」
神域惑星から王都に飛んでくるのは、簡単だ。
詳細は、ひとまず放っとく。
「(そういうことですわ、くすくすくす?)」
ばちぃーん♪
片目を閉じる星神。
む、虫か? 虫が居るのか?
おれが払ってやろうか?
「(シガミー。片目を閉じるのは高度に形骸化された誘惑の仕草で、見得のようなものです)」
あ、そーいやぁ、そーだったな。
おれは伸ばし掛けた手を、引っ込めた。
カシャ――『(Θ_<)』
ヴォォォォン♪
浮かぶ球があらわれ、人数分の小皿をカチャカチャと運びだした。
「あっ、あたくしさまの、プロジェクション・ボット!」
レイダの手から逃げだした根菜、美の女神が、そんなことを宣って――
話をこれ以上、ややこしくするんじゃねぇやぁ!
ひょいと星神に拾われる、美の女神御神体。
「この魔封じの空間も、天を駆ける宝玉も――勝手にお借りしてしまいましたことを、お詫びいたしますわ――ぺこり♪」
うやうやしく掲げられた御神体の目が、大量のご馳走に釘付けになった。
お前さまよう、もう少ししゃっきりしてくれやぁ。
「「「「むにゃぁー?」」」」
そういや、子供たちと見習いメイドを、床に置きっぱなしだったぜ。
毛布でも掛けてやるかと思ったら――
根菜をふわりと投げて寄こす、猫耳メイド。
「くすくす♪ このままでは、お風邪を引いてしまいますわ♪」
星神が、子供たちの近くまで歩いて行き――ぱちんっ♪
指を鳴らすと――ぼそんっ、ごとがたたん♪
床から生やした長椅子で、子供とメイドを優しく持ち上げ――
どこからか取りだした毛布を、上から――ふわさぁり♪
「リオレーニャちゃぁん、それっ! そこの鳥の丸焼きさまわぁ、あたくしさまがぁ予約、予約しましたぁ♪」
星神と美の女神。
格付けられたのは、まさに今この瞬間だったのかもしれない。
いろいろと聞きたいことがあったであろう大人連中が、そんなおれたちの様子を見て――
何かをのみこんでくれたのを、ひしひしと感じた。