420:初等魔導学院、詠唱魔法具と拠点その3
「今さらだが、この指輪――どーいう仕組みになってるんだ?」
この指輪には、錫杖や小太刀を入れてある。
迅雷がいつもそばに居るとは、限らねぇから――
肌身離さず、持ち歩いてたが。
「ひかりのたまガ発すル活力、そレを作動トリガーにシた小型ノ収納魔法具です」
うん、だから迅雷の収納魔法と、どこが違うんだ?
「収納さレたアイテムノ格納ヤ展開ヲ司る、簡易的なファイリングシステムガ搭載されてイます」
うん? 思ってたよりは複雑だな。
「じゃぁ、猪蟹屋の売り物の収納魔法具セットも、おなじ仕組みなのか?」
「いいえ、指輪ニは格納シた物体ノ、再構成アルゴリズムガ含まれていマすので――」
「折られた剣も、元どおりになるわけだな」
寸断された分、どんどん短くなるけど。
「えっ? そうわのぉん?」
「あたくしさまには、そんな物含まれてないんですけど?」と、首を傾げる根菜さま。
やい、御神体さまよぅ。
美しさにかけちゃぁ、リオレイニアに敵いようもねぇんだからよ。
せめて、神々の技術ってぇやつくらい、ちゃんとしようぜ。
「前々かラ思ってイましたが……シガミー邸に姿見はありまシたよね?」
あれ? いっしょに美の女神(笑)の〝美しさ〟を揶揄してくれるのかと思ったら。
矛先がおれに、向きやがったぜ?
「急にどーしたぁ? おれぁ、リオに怒られねぇように、ちゃぁんと寝起きだけは櫛を入れてるぞ?」
そうしねぇと毎朝、起しに来やがるからなアイツ。
「ぶっちゃけアンタさぁ……とてもそうは思えないけどさぁ……すくなくとも見た目だけわぁさぁ……この央都でだってさぁ……一番、カワイイのよぉ?」
ふぉん♪
『イオノ>なんせ、あたくしさまがよりによりを掛けて、
偶然作った愛くるしさなんだからさっ♪』
「偶然なんじゃねーかよ。それにカワイイってぇーのは、〝ビビビー〟とか〝ルコル〟みたいな奴のことを……言うんじゃねーのか?」
「あー、たしかにあの狐耳君わぁ、ちょぉーっと可愛いわねぇーん♪」
「シガミーはルコル少年ノ30倍ホど、愛嬌がアり可憐デ人心に訴えかケる美ノ才能がアります。少しズつでも自覚してくダさい」
「んー? さっきから何の話を……してやがるんだぜ?」
パキパキ、ペタン♪
細かな部品を、二枚の薄板ではさんで――完成。
「シガミーハ、ルコル少年ノ1000倍くラいガサツなノで、総合評価とシては――ルコル少年ノ方がカワイさデ15%ホど勝ってイると言ウ話でスが?」
そりゃそーだろう。おれと比べたらレイダだって、すごく可愛らしいからな。
なんせ正真正銘、この地に棲まう童だ。
「うむ。よくわからんがぁ、完成したぜ。ひとまず、こんなもんでどうでぇい?」
試作品一号には、迅雷が描き直した――リオレイニアの肖像画。
町中を普段着で駆ける、あまり見たことのない姿だ。
この行儀の悪さは、あとで描き直させられるだろうが――
はじける笑顔(仮面)と瑞々しさは、なかなか悪くない。
ヴォヴォンゥォー、ズダダダダッダダッダンッ♪
奏でられる歌は、元の歌声をそのまま。
神々の棲まう町の恋愛模様を歌ったらしいと、説明されても――
正直な所、まるでわからん。
「リオレーニャちゃんのぉ、ご要望にぃーそってるんじゃぁなぁいのぉぅ?」
げひひひひっ、ウケケケケッ――――♪
御神体の両目に、財宝が見え隠れしてやがる。
こいつ一枚につき、どれだけの歩合か知らんが――
取り分の全ては結局の所、食費にあてることになる。
出来ることなら万一の時のために、金は貯めておきたいが。
「じゃぁ、仕事はここまでにして――コイツの相談をするぞ?」
ヴッ――ぱさり♪
取りだしたのは、鮮やかな紫色。
測定魔法具を壊してしまった原因。
魔力量を〝10(固定)〟だけ上げる、鉢巻きを取りだした。
「こレは我々ノ進退に関わりかネない、火急かツ極秘ノ案件でスので――」
そうだぜ。こういう秘密の事を試す場所は、どうしたって必要になる。
ゆくゆくはここ央都にも、猪蟹屋をかまえ――
その地下深くにでも――秘密の工房を建てよう。
けど、さしあたって――「どうしたもんかなぁ?」
「ウケケケケッ♪ 秘密の場所ならやっぱり――あそこでしょ?」
§
『▼▼▼――♪』
気づいたときには、遅かった。
「やぁやぁやぁ、こんばんニャァ♪」
「くすくすくす、こんばんららぁん♪」
暗闇の中から、そんな声が聞こえた。
カカカァァッ――――!!
大女神像の間が煌々と、魔法具の灯りで照らされた。
「ちっ、謀られたぜっ!」
誰もいない深夜に、ちょっとガムラン町の超女神像まで、飛んで帰ろうと思ったんだが――
暗闇に紛れていたのは――モサモサ神官が、ザッと30人くらい。
モサモサしてない神官も、やっぱり30人くらい。
ギ術開発部顧問と秘書に、第一王女殿下。
「ごめんね、シガミー――ふわぁぁっ♪」
王女殿下のうしろから、眠そうな顔を出したのは――
給仕服姿の少女・タターだった。
開いた口を閉じられずに居たら――
ゴドン――ガチャガチャガチャガチャチャチャチャチャッ♪
大女神像の足に付いた扉が複雑に開き、中から眠そうな子供が現れた。
「ふぅわぁぁぁふぅ♪ やっぱり来――すやぁ♪」
現れるなり、崩れ落ちるレイダ。
「あらあら、ずっと頑張って起きていたのだけれど――」
その奥からもうひとり。
「ふふふ、シガミーさん。こんばんわ」
変わらぬ様子の学院長が、レイダを優しく抱えあげた。
「まさか本当に、来るなんて――♪」
うわっ――ぎょっとした。
ビビビーのやつが、やっぱり動体検知に検出されずに、すぐ横に立ってた。
ふぉん♪
『人物DB>ヴィヴィエラ・R・サキラテ
初等魔導学院一年生』
いちいち出すな、こいつはビビビーだ。
迅雷――どうなってる!?
『▼▼▼――♪』
遅ぇ。
この世界の連中を、舐めすぎていたらしい。
ふぉん♪
『ヒント>暗視装置、正常に作動中。
熱源、音源、活力源、全ての量子映像チャンネルに、
敵影は感知できませんでした』
「シガミー、どちらへお出かけですか?」
あきれ顔の給仕服に、正面から捕らえられた。
「(シガミー。サキラテ一族ノ隠密術、看破できマせん)」
そんなのも有ったぜっ!
本当に有りと有らゆる手段で、待ち伏せされたって訳だなっ!
ぽこ――こぉん♪
かるい処理落ち。
てちり――おれの頭の上に降りたつ、御神体。
「はぁい、降参♪ 投降するからぁ、お夜食ぉー要求しまぁすぅ♪」
見知った顔が、勢揃いだ。
さすがに、蹴散らすわけにもいかねぇ。
おれは迅雷から、手を放した。