413:初等魔導学院、廊下のつきあたり
「どうぞコチラへ」
ゴドン――ガチャガチャガチャガチャチャチャチャチャッ♪
さっきおれたちが居た教室の、黒板横へつながる扉。
ちいさめの扉が、その形や大きさを――めまぐるしく変えていく。
やがて扉が開き――こつこつこつん。
その向こうへ、歩いて行ってしまう学院長。
おれは扉のむこうへ、首を出した。
ココはどこだぜ?
さっきの教室じゃねぇぞ。
「(最寄りの女神像の位置と通路の形状から、先ほどの教室があった建物の外れであると思われます)」
ヴォォォン♪
「この扉は、この建物の中を自由に移動できるのか?」
おそるおそる付いていくと――背後の扉が閉じられる。
振りかえったときには――その形は何の変哲もなくなっていた。
「はい。私が離れるとドアの持つ記憶が、クリアされてしまいますが」
がやがやがやややや。
廊下には、生徒たちがならんでた。
「へぇー、地味に便利ねぇん?」
収納魔法具に格納された御神体が、画面の中でだらけてやがる。
意識だけのときとは別に、御神体本体の映し身も、ひと枠よけいに使われていた。
ふたつ並んだ五百乃大角に怖気が走る。
一瞬、身がまえちまったがひとつは、おれが作ってやった五百乃大角の御神体だ。
ふたり分の食費が掛かるわけじゃねぇ。
「そうですね。条件さえ揃えば、魔導学院の敷地内限定ですが、ほかの建物に移動することも可能ですので、横着するのにも使えますよ。ふふ」
「そりゃ、良いなぁー(迅雷、おまえなら扉に、転移魔法具を仕込めるか?)」
「(転移扉の起点となる学院長室の構造を、もう少しくわしく知らなければ――現状では無理です)」
だよな。まず転移魔法が使えん。
かならず大きな女神像を、介さねぇと転移は出来ない。
それを小さな魔法具で、再現する方法なんて――見当も付かん。
「では手続きがありますので、失礼いたしますね」
学院長は手にした〝クエスト依頼書〟をヒラヒラさせ、列の先の方へ歩いて行ってしまう。
「シガミーちゃん!」
ガシリと腕をつかまれた。
「わっ!? 脅かすなっ!」
メイドなのか魔術師なのか、はっきりしない格好の少女に、しがみ付かれる。
「ちゃん……はやめろや」
振りほどこうとしても――
「じゃぁ、シガミーさま!」
がしりと手をつかまれる。
「よけいにやめんか!」
だから、まとわり付くなよ――
強く振りはらったら、怪我をさせちまいかねない。
「じゃあ、なんて呼んだら良いの?」
ジタバタともがくしかない。
「シガミーで良いぜ。こっちもタターって呼んでるんだからよ」
「じゃぁシガミー。シガミーは冒険者カードを持ってるのに、なんでここに居るの?」
あたりを見まわしたら列の先の方に、『ギルド支部出張所』なんて看板が出てた。
「学院長先生に、つれてこられたんだぜ。たぶん、クエストの依頼を受けることになる」
隠すようなことでもないから、話しておく。
「そーなの? じゃぁ、一緒に居てっ!」
だから、しがみ付くなよ。
まったくなんだぜ、甘えてやがる。
「リオ……レイニア先生わぁ、どーした?」
列の先頭にも……居やがらねぇし。
「リオレイニアさんは女神像がある通路の奥に行っちゃって、私ひとりだと心ぼそいのっ!」
手に持つのは、板に乗せられた紙切れ。
『冒険者とうろくのてびき
なまえ: タター
ひとつめ/ まほう使い
ふたつめ/ まじゅつ師
みっつめ/ とうぞく』
それには手書きで、名前と職業が書きこまれていた。
「あれ? そーいやタターは冒険者登録をしてないのに、なんで魔法が使えるんだ?」
ぽこ――こぉん♪
かるい処理落ち。
てちり――おれの頭の上に降りたつ、御神体。
やい、頭の上を土間がわりに使うなっ!
「生活魔法わぁ誰にでもぉー、使えるぅでしょぉぅ?」
「いまいち魔法とか魔術とかの、詳しいところが……わからねぇんだよなぁ」
生活魔法以外は一切合切まるごと全部、迅雷とおれのスキルでなんとかしてきちまったからな。
「生活魔法ノ権化でアる、リオレイニアに師事してオきながら……まルで進歩が見られませンからね――向キ不向きもありマす」
浮かぶ独古杵が、意見をしやがる。
「ばかやろーう。おれぁ、ちゃんと乾燥させる魔法も使えるようになったし――生活に困ることは、もうなくなったぜ?」
相棒を睨みつけてやる。
「向き不向き……そうだね。シガミーは薬草師なのに、ビックリするほど強いもんね……しかもこんなに、カワイイのに」
板に乗せた紙を、睨みつけるタター。
『冒険者とうろくのてびき
なまえ: タター
ひとつめ/ まほう使い
ふたつめ/ まじゅつ師
みっつめ/ とうぞく』
「それよぅ、上のふたつはわかるが、最後のはどういうわけだ?」
「もし魔法関係のが選べない時は、せめて身軽な職業を選んで、〝テンプーラゴウ〟に引きずられないようにしたいの!」
あー、いつもことあるごとに、引きずられてたもんなぁ。
「ふぅん――――ってなんだぜ?」
がやがやがやややっ!
どやどやどやややっ!
いつのまにか生徒たちが、おれたちを囲んでいた。
「「「「「「「「「「「「シガミーちゃん!」」」」」」」」」」」」
全員が手に板を、持ってやがる。
「なんでぇいなんでぇい、どーしたぁ?」
「「「「「「「「「「「「下位職業だとLVが上がりやすいって言うけど、そのへんどーなのぉっ!?」」」」」」」」」」」」
あ、合点がいったぞ。
さっきおれのLVを知られても、そこまで大騒ぎにならなかったのは――
「うぷぷっ、これわぁシガミー。〝薬草師〟だと思って舐められてんじゃね?」
やかましいぞ、根菜。
むしろ、本当の追加スキルは120を越える、おれからしたら――
かるく見られるくらいで、ちょうど良いってもんだぜ。