410:初等魔導学院、具が高いわよぉん?
「喚・ん・だぁ――♪」
ぽこ――こぉん♪
かるい処理落ち。
てちり――おれの頭の上に降りたつ、御神体。
あー、言わんこっちゃねぇー!
「また化けて出やがったな、惡神さまめっ!」
顕現した根菜をひっつかむ。
ガムラン町との距離を物ともせずに、迅雷の収納魔法へ出入りする美の女神。
しかも、その中から自分を取り出す手口を、最近覚えやがった。
「しっつれいねぇー! 化けてないしぃ、悪神でもないしぃーっ! 正真正銘――アナタの世界のよりどころっ、美の女神イオノファ――んむぐっ、にゅぎゅむぎゅぅー♪」
大声を出すなっ、まるい頭を両手で包みこむ。
また子供どもに一斉に、見られたじゃねーか。
ふぉふぉん♪
『イオノ>履歴みて急いで来たのに、この仕打ち?」
うるせぇ。
リオレイニアの詠唱魔法具の件を、問い詰めたかったんだが――
そいつぁ、あとで良い。
「折角化けて出たなら、自己紹介でもしてこいっ!」
こんな面倒な物わぁ、呼び出したアイツらに任せる。
部屋の真ん中へ――力一杯、放り投げた。
レイダの近くを漂ってた独古杵から、細くて黒い腕が伸び――
イオノファラー御神体をキャッチした!
「イオノファラーさまっ!」
そんなレイダの声に――
「「「「「「「「「「「「イオノファラーさまぁ――――!?」」」」」」」」」」」」
ガムラン関係者以外が、わらわらと駆けよっていく。
「あららららっ!? 具が高いわよぉん?」
レイダの手に乗せられた美の女神御神体が、戸惑ってやがる。
ガムランじゃ慣れっこの神さんも、学院じゃ物珍しいだろうよ。
がやがやがややややっ――チーン♪
鐘の音が聞こえた。
「うわっ――本物だ!」
真っ先に駆けつけた、細い男性教師が――上級鑑定したらしい。
子供たちが一斉に、組んだ手を鼻に押し当てる。
一瞬、レイド村の神官みたいに、威圧しちまうかと思ったが――
「小さい!」「かわいい!」「くすくすくす♪」「喋ってる!」「神々しい気がする!」「あははっはは♪」「はじめて見た!」「女神像と全然違うんだね?」
ずいぶんと――平気だな?
「(敬虔なイオノフ教徒でもなければ――炉端の根菜と変わりありません)」
ならいいや、ソッチは頼むぞ。
おれはとととんと、階段を降りる。
「あとは壇上を直しゃぁ、終わりだが……一体何してる、リオレイニア?」
対峙する飛び級生徒と、見習い先生。
「シ、シガミー!? あのその、ど、どういうわけか、妙に血がたぎると言いますか? なんとも説明のしようもありません!」
おろおろと視線をさまよわせる、給仕と生活魔法と金勘定と美しさの権化。
「くわしい話は後だ。そこ、足下を直すから3・2・1で飛び跳ねて――く――!?」
「――れ、その一瞬で直してやるから♪」って言おうとしたら、「飛び跳ねて」で――
リオレイニアと学院長のふたりが、飛び跳ねやがった。
随分足が軽いぜ。
おれは慌てて、修繕を開始する。
「(迅雷悪ぃ、すこし手伝え)」
「(何でしょうか、シガミー?)」
このへん何か変わった……仕組みがあるか?
黒板と扉から、なんかの文様がうっすら見える。
「(はい、ですが幸い床材には、魔術的な加工はされていません)」
じゃぁいいや――――すっぽん♪
壇と床材を格納、土台の大岩があらわになる。
おなじ床材……いや、何か頑丈な作りになってるから――
もっと頑丈な材質で、床と壇を作り直すか。
レイド村を立て直すときに作った、超頑丈な複合建材で――ごどどん!
より硬い床を敷き、あたらしくした壇を置く――がたん!
一緒に格納して綺麗にした、教師用の立ち机を乗せる――すとん。
すたん、すたん♪
リオと学院長の二人が、壇上へ降りたつ――完成だ!
「こ、これは、一体どうしたことでしょう?」
おどろく学院長。
へへ、かるい見せ物代わりに、跳ねた一瞬で直したからな。
「シガミーは、遠方の土地の生まれでして、その土地では建物を頻繁に建て替えるために、建築系技能が発達したと聞いています」
そう、リオが説明してくれたが――
チャキッ。
学院長は取りだした片眼鏡で、壇や床をじっと睨み始めた。
片眼鏡には〝魔術の神髄〟で描かれた、文様が浮かんでいる。
ヴォンッ♪
かすかな唸りは、活力の流れによるもので――チーン♪。
上級鑑定魔法具か?
「学院長?」
リオの声も、碌に届いていない様子だ。
「正式に依頼した場合、学院関連の建物のすべてを、この建材に置き換えることは可能でしょうか?」
酷く真剣な顔で、そんな依頼をしてきた。
レイド村のときみたく、まっさらにした地面に村人総出で取りかかるなら――
そこまで大した仕事じゃねぇけど、ひとりだと相当きついな。
おにぎりか、裏天狗でも出さねえと……。