405:魔法使いシガミー、ブロマイドカード
「もーバカねっ、シガミーわぁ!」
下見だか試験だかが終わった、レイダが合流。
開口一番に、なじって来た。
「そー言ったって、しかたがねーっだろぅ! 壊しちまったものわぁよぉう!」
仕方なくはない、全面的におれが悪ぃ。
垂直に切り立った城壁を登ったのも、おれだし――
あまつさえ壁を歩くゴーレムを、反射的に叩き落としたのもおれだ。
あとリオの縁者の子供(かわいい)が、おれを突いて来やがったのも、ちょっとは悪いかも知れねぇな。
それとリオが活力を込めすぎちまったのも、良くなかった。
そもそもの話として、お前さんがおれを付き合わせたのが悪――
「(シガミー、リオレイニアが教育機関の職員たちに連行されてから、一時間が経過しました)」
わかってる。万が一のときは、おれが全てを薙ぎ払う。
パーティーメンバーを閉じ込める牢があるなら、まずはぶち壊す。
怪我人さえ出さなきゃ、五百乃大角の後光も使えるだろうし。
「リオレイニアさんが、どーなってるのか聞いてくる!」
どたたーと受付カウンターへ駆けていく、受験生。
本格的にまずいか?
さっきの子供も「退学になる」とか言ってたしな。
ウチの子供が(おれも子供だが、前世の40年分は大人だ)、とたたーと戻ってきた。
「リオレイニアさんは、学院長室に居るって!」
よし、襲撃するならソコだぜ。
学院の長ってこたぁ、ギルド長みたいなもんだろう?
ガムランだったら、おれが何かする度に、リカルルがギルド長が――
「(かならず間に入って、仲裁を買って出てくれましたが)」
うん。その通りだ。
央都に知り合いも、居るこたぁ居るが――
好き好んで、仲裁までしてくれるやつは居ねぇ。
「(私が様子を見てきましょうか? 裏天狗も使用できますが?)」
そーだな。待合所でただ待つのも飽きてきたし――
腕輪に手を伸ばした、そのとき――
キュルルッキュラララッ――――♪
奥の通路から聞きなれない音が、聞こえてきた。
姿を現したのは、足も動かさずに歩く人。
「王城の防衛をしていた巡回ゴーレムを、壊したヤツが居るって言うから慌てて飛んできてみたニャッ――」
すべるように自在にうごく平たい箱が、おれたちの目のまえに止まった。
降り立ったのは猫頭の獣人族。毛色は明るい緑。
おにぎりと並んで立たれたら、すこし紛らわしそうだぜ。
「ふぅー、世界最大級の魔石をよくも、木っ端微塵にしてくれたニャァ♪」
一階玄関の無残な状態を嘆く、猫耳族。
だがその声は、どこか楽しげに聞こえる。
カツコツカツコツカツコツーン♪
つづいて歩いてやってきたのは、普通の人だった。
「央都の防衛機構のひとつ、詠唱暗室装置――マナキャンセラー。起動したそれに〝魔神の再来〟が高負荷を与え、爆破したと――」
吹き抜けた天井の無残な大穴を仰ぐ、全身橙色の制服。
「レイド村に来てた、猫の人だ!」
レイダは猫の獣人が好きだ。
というか女性で、猫の獣人が嫌いな人には、いままで会ったことがない。
〝猫耳族〟や〝猫頭〟といろんな名で呼ばれる彼らの中には、混じり具合によって〝猫手〟とか〝猫足〟なんてのも有る。
「やあレイダにシガミー。央都まで良く来たね……はぁぁぁぁっ」
来るなり待合所の椅子に腰掛け、うなだれる――央都ギ術開発部顧問。
ふぉん♪
『ヒント>ラスクトール自治領王立魔導騎士団魔術研究所ギ術開発部顧問技師、ミャニラステッド・グリゴリー』
長ぇ!
「(央都へ来るにあたり、コントゥル家より貸与された〝人名目録〟をデータベース化しました。ガムラン町かコントゥル家の関連部署全員の、所属と正式名称が即座に検索可能です)」
うむ、便利だが長ぇ。
「レイド村では大変おいしい煮込み料理を、ご馳走になりました……はぁぁぁっ」
やはりミャッドの隣へ腰掛け、うなだれる――央都ギ術開発部顧問秘書。
ふぉん♪
『ヒント>ラスクトール自治領王立魔導騎士団魔術研究所ギ術開発部所属顧問専従秘書官、マルチヴィル・エリミネフ』
だから長ぇ!
〝ギ術部〟の顧問ミャッドと、その秘書さんだ。
今日は身代わり札を体に貼りつけた、〝モサモサ神官〟たちは見当たらない。
おれとレイダが、その向かいに着席。
前を見たら、もう一人増えてた。
「おまえさっきの!? どっから、現れやがった!?」
リオレイニアの縁者の子供だ。
「わっ、ひとり増えた!?」
レイダが驚くのも、無理はねぇ。
ふぉん♪
『>動体検知に反応無し。未知の迷彩により急接近されました』
オマエが捉えられねぇなら、ニゲルの類いだ。
気をつけろ。
「くすくすくす、内緒だよ♪」
子供が笑いながら、外套から取りだしたのは――
手のひら程度の大きさの薄板。
それには絵が、描かれていて――
〝五百乃大角を手のひらに乗せたおれ〟が、すました顔で笑ってた。
両隣にはリカルルと、顔が良い王家の青年が、見切れて描かれている。
おれがしゃらあしゃらしたドレスを着てやがるから――
たぶん、まえに央都で催された宴会んときだぜ?
レイド村で会った王子が、隣に居たのは覚えちゃいねぇが。
「シガミーちゃん! サイン下さい♪」
なぞの板と、羽根筆を手渡された。
するってぇと子供が、さっき逃げてったのは――
「(この板状の物体を取りに、行ったのでしょう)」
下の方に『♪』って楽しげな図案が、書いてあったから押してみた。
ふぉふぉふぉん♪
『PLAYING――――01/こねこのラプソディ』
『♪』の横に流れる、そんな文字。
「ヴォーンォ♪ ヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォヴォッ――――――――!!!」
一階玄関に突如鳴り響く、魔物の咆哮!
「ヴォヴォーゥン♪ こねこがいっぴき、キャッツ、ニュー、ワールドぉ、ヘェイ♪」
「イオノファラーさまの声♪」
レイダが、楽しそうに飛び跳ねた。
「そーだよっ♪」
リオの縁者も楽しそうに、立ちあがる。
「「「「――ぅにゃんにゃん爪研ぎ、ぅにゃにゃん――――っ切りさけぇ~~♪」」」」
やかましい。
ミャニラまで子供どもと一緒に、踊り出しやがった。
ギ術開発部のお偉いさんが、何してやがる。
ぎゅっぎゅむぎゅぎゅ――!?
いくら『♪』を押しても、素っ頓狂な歌声は鳴りやまない!
誰だぜ、こんな雑な仕事をしやがったのわぁ!
「やかましい! 迅雷、これ――機能追加できるかぁ!?」
もう一回押したら止まって、もう一回押したら続きが聞こえて――
止まった状態で時間が過ぎるか、手早く二回押したら最初に戻るかんじによぉ。
「はイ、可能デす。(エディタを起動してください)」
迅雷がときどき見せてくれる、おれの行動ログとおなじUIに作り替える。