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402/743

402:美の女神の料理番(シガミー)、一攫千金ミノタウ温泉

奥方(おくがた)さま、お(じょう)さま。会食(かいしょく)準備(じゅんび)が、もうすぐ(ととの)います」

 『指揮官』の腕章(わんしょう)(はず)したリオレイニアが、そっと(ちか)づき耳打(みみう)ちする。


「はぁい。よろぉしぃーですよぉ♪」

 (すわ)ったままでは、(はし)まで見渡(みわたせ)せないほど長大(ちょうだい)なテーブル。

「よくってよ♪」

 その中央(ちゅうおう)(なら)んで着席(ちゃくせき)する、コントゥル()母娘(おやこ)


王女(おうじょ)さま、王子(おうじ)さま。会食(かいしょく)準備(じゅんび)がもうすぐ出来(でき)ます」

 新米(しんまい)メイド・タターが、そっと(ちか)づき耳打(みみう)ちする。


「タターさん、ニゲルさまはどちらに? 見かけないですらぁん?」

 クロスの掛けられた長大(ちょうだい)なテーブルは、もう(ひと)つあり――

「ティル、まだ(かれ)のことを(あきら)めていなかったのか……ふぅー」

 その中央(ちゅうおう)(なら)んで着席(ちゃくせき)する、ラスクトール自治領王家(じちりょうおうけ)兄妹(きょうだい)


「あにゃ? シガミーたちがいないニャ?」

 コントゥル家令嬢(けれいじょう)に、ほど(ちか)(せき)

「ほんとだコォン♪」

 猫耳(ねこみみ)狐耳(きつねみみ)のコンビが立ちあがり、巨大(きょだい)集会所(しゅうかいじょ)を見わたしている。

「シガミーたちなら、さっき(むら)はずれの(ほう)で見かけましたけれど?」

 (まど)を振りかえる、リカルル・リ・コントゥル。

 そのドレスはいつもの派手(はで)さとは打って変わり、楚々(そそ)とした風情(ふぜい)


「イオノファラーさまに、カヤノヒメちゃんもいないよ?」

 コントゥル家名代(けみょうだい)に、ほど(ちか)(せき)

 子供(ことも)がフォークとナイフを持ったまま、立ちあがった。


 とりあえずの食事の準備が整った頃、美の女神御神体の紛失(・・)に気づく、ガムラン勢。

「イオノファラーさまがいなくては、〝本日のメイン(・・・・・・)〟をお出しできませんね」

 深刻(しんこく)様子(ようす)のリオレイニアに、黄緑色(きみどりいろ)腕章(わんしょう)を付けた侍女(メイド)たちが(あつ)まる。


 がやがやがやや――?

 歓談(かんだん)していた、央都(おうと)とレイド(むら)面々(めんめん)までもが、ざわつき出した。

 執事(しつじ)侍女(じじょ)指揮官(しきかん)が、右往左往(うおうさおう)する(なか)


「ところで、アレ(・・)はどーなったんだい、ティル?」

 そわそわした様子(ようす)兄王子(あにおうじ)

「お(にい)さま、アレ(・・)とは(なん)ですらぁん?」

 (くび)(かし)げる妹王女(いもうとおうじょ)


(おお)きな(あか)鬼族(おにぞく)剣士(かれ)試合(しあい)結末(けつまつ)に、決まってるじゃないかっ♪」

 興奮(こうふん)第二王位(だいにおうい)継承者(けいしょうしゃ)

 手には女神像(めがみぞう)印字(いんじ)した半券(はんけん)


『レイド村近郊バウト:掛け金 600パケタ

 投票 木さじ食堂所属/剣士ニゲル』

 それによるなら、(かれ)はニゲルに大金(たいきん)を賭けている。

 そわそわ、がやがや。

 どこか落ち着かない、央都側(・・・)のテーブル。


「「「「「「「「「「「あ、すっかり(わす)れてた」」」」」」」」」」」

 レイド村救援(むらきゅうえん)に真っ(さき)に駆けつけた、ガムラン(ぜい)は――

 村復興(むらふっこう)心血(しんけつ)(そそ)ぐうちに、賭けの存在自体を忘れていた(・・・・・・・・・・)ようだ。


「ああもう、騎士団長(きしだんちょう)顧問(こもん)まで! みんな必死(ひっし)ららぁぁん!」

 そういう彼女(ラプトル)も、ニゲルに大金(たいきん)を掛けている。


「ええと、変異種討(へんいしゅとう)ば……あの勝負(しょうぶ)は……どうなったんだったかしら?」

 (ほほ)に手をあて思案(しあん)に暮れる――鳥の仮面の侍女リオレイニア・サキラテ

 彼女(リオレイニア)は、変異種(バリアント)であった巨大鎧鬼(シガミー)へ、全財産を投入(・・・・・・)している。


 そのとき、ゴゴゴゴゴッ――突き上げるような揺れに、(おそ)われるレイド(むら)

 どごがぁぁん――とおくで(なに)かが破裂(はれつ)したような(おと)も聞こえてくる。

 また変異種(バリアント)でも出たのかと、全員(ぜんいん)(そと)に出てみれば――


 その視線(しせん)一点(いってん)に、集中(しゅうちゅう)する。

 その(さき)にあるのは、(むら)はずれから立ちのぼる――

 巨大(きょだい)水柱(みずばしら)だった。


   §


「どぉぉぉぉぉわぁぁぁぁ()――――ニャァ!?()

 熱湯(ねっとう)に突き上げられる鉄鎧鬼(おれ)

 その(かげ)になり、(すう)メートル飛ばされただけですんだのは――十四(じゅうし)五歳(ごさい)のシガミー。

 その手につかまれた御神体(ごしんたい)が、「(なに)ごとよっ、コラーッ!!」と(いか)心頭(しんとう)


 (からだ)を起こす二人(ふたり)(かみ)のまえに――ドッズズズズズズズズズズズズズンッ!!!

 あたまから落下(らっか)し、地に刺さる鉄鎧(おれ)(からだ)

 (いた)くはねぇが(つち)に埋もれて、メイン画面(カメラ)死んだ(・・・)


 ビュヒュパパパパパパッ――――相当(そうとう)遅れて(ラグって)画面(モニタ)復帰(ふっき)する。

 ぐるんぐるん、ぐるるん――――(てん)と地が(さかしま)になる。

 それは、突き上げられた衝撃(しょうげき)で、上空(じょうくう)吹き飛ばされた(・・・・・・・)――


にゃにゃぁ(ジンライ)みゃんみゃみゃやー(すっぽぬけちまった)みゃにゃんにゃにゃ(じゃぁねぇかぁ)ー!」

 鉄鎧鬼(よろいおに)中身(なかみ)特撃型(とくげきがた)10号改(ごうかい)――つまり、おれが見ている(・・・・・・・)景色(けしき)だ!


 ふぉふぉん♪

『>鉄鎧鬼の制御は、まだ私にありますので、いま立ちあがります』

 (ひざ)をつき必死(ひっし)に、(あたま)を抜こうとする鉄鎧鬼(ジンライ)

 そろそろ鉄鎧鬼(よろいおに)ってのも味気(あじけ)ねぇ、お前(・・)さまでも(あつか)えるってんなら、そうだなぁー。


 その鉄鎧(よろい)の名は、さしずめ(とどろ)(かみなり)――

 つまり轟雷(ゴウライ)だぜ。


 ふぉん♪

『>了解しました。以後、轟雷ゴウライと呼称します』


 おれの背……いや、轟雷(ゴウライ)の背に――ガガァァンッ♪

 鉄下駄(あしおと)(たか)らかに(かな)で、ニゲル青年(せいねん)着地(せち)した。


(いて)()――ニャァ()

 (いた)くはねぇが、言うだけ言っとく。


 真っ(さか)さまに落ちていく、猫の魔物たち(おにぎりとおれ)――ひゅろろろぉぉぉ――♪

 青年(やつ)反射的(はんしゃてき)に、猫の魔物(おれたち)片方(かたほう)を――受け止めようとした(・・・・・・・・・)

 両手(りょうて)(ひろ)げ、まちかまえる青年(せいねん)

 一匹(いっぴき)はおれだと気づいたから、受け止めようなんて真似(まね)をしたんだと(おも)う。


 ぽぎゅばきぃぃん!

 二匹の魔物(おれたち)に蹴られ、青年(ニゲル)が押しつぶされた。

「ぐえええ」とか言ってるから、たぶん平気(へいき)だろ。


「ひっひひぃぃぃぃぃんっ!?」

 (うえ)から振ってくる(なぞ)(こえ)――「「みゃにゃぁ?」」

 見あげる猫の魔物(おれ)たち。

 その目(付いてない)に最後(さいご)(うつ)ったのは――

 (ひづめ)も付いていない、夏毛(なつげ)が生えただけの(あし)(うら)


 ぽぽぎゅぎゅむむゅるっりっ♪

 子馬(こうま)に踏まれたおれたちは、その場に(たお)れ込んだ。


 地に(くずれ)れ落ちた鉄鎧(てつよろい)。その(うえ)で伸びてる青年(せいねん)

 その背に(たお)れ込むのは、二匹(にひき)猫の魔物(シシガニャン)

 頂点(ちょうてん)君臨(くんりん)するのは――


「ひひひぃぃん?」

 (まぎ)れもなく、図体(ずうだい)のでかい子馬(こうま)だった。


 カシャララッ――パッシャリッ♪

 ニゲルから落ちた、青板(スマホ)がそんな(おと)(かな)でた。


   §


 ふぉふぉふぉぉん――ガチャガチャガチャチャチャチャッ、ガチィン♪

『レイド村近郊バウト/掛け金総額:3パケタ

 的中>子馬ゴーレム:223倍

 払い戻し:669

 ※払い戻しは各地のギルド支部女神像、

  または自動発券魔法具にて行えます。

 ※有効期限は勝敗成立後、90日です。

  お早めに払い戻ししてください。』


 各地(かくち)女神像(めがみぞう)(はこ)女神御神体(めがみごしんたい)頭上(ずじょう)に、そんな表示(ひょうじ)(あらわ)れた。

 的中者(てきちゅうしゃ)冒険者(ぼうけんしゃ)カードにも、同様(どうよう)表示(ひょうじ)(あらわ)れるはずだが――

 唯一(ゆいいつ)的中者(てきちゅうしゃ)である彼女(かのじょ)は、冒険者(ぼうけんしゃ)登録(とうろく)はしていない。


 天変地異(てんぺんちい)により中断(ちゅうだん)されていた――

 女神像(めがみぞう)(かい)した掛け(・・)は、たったいま決着(けっちゃく)が付いた。


 女神像(めがみぞう)ネットワークは、天文学的(てんもんがくてき)なプール(きん)獲得(かくとく)し――

 ネネルド(むら)少女(しょうじょ)タターは――

 彼女(かのじょ)にとって生涯賃金(しょうがいちんぎん)匹敵(ひってき)する大金(たいきん)を、手にすることとなった。


 賭け(ごと)に目がないらしいサウルース・ヴィル・ラスクトール王子殿下(おうじでんか)は、(こと)(ほか)新米(しんまい)メイド・タターを気に入ったようで――

 リオレイニアを呼びつけ、(なに)やら耳打(みみうち)ちした。


 (つぎ)に呼びつけた妹王女(ティル)の「〝テンプーラゴウ〟の造形(デザイン)に、一家言(いっかげん)いただきましたらぁん♪」という証言(しょうげん)に、目を(まる)くする。


 ガムラン(ちょう)王女殿下(ラプトル)()きだった、新米(しんまい)メイドの少女(しょうじょ)

 彼女(かのじょ)新型(しんがた)ゴーレムの、可愛(かわ)いらしい造形(ぞうけい)にも〝関与(・・)〟していることを知り――

「ふふふっるぅん♪」

 王子殿下(サウルース)不気味(ぶきみ)……奇抜(きばつ)微笑(ほほえ)みを浮かべるのだった。


   §


 惑星(わくせい)ヒースは、活力(かつりょく)あふれる(ほい)へと大変貌(だいへんぼう)

 女神像(めがみぞう)周囲(しゅうい)には天変地異(てんぺんちい)も起きなかったので、人々(ひとびと)生活(せいかつ)深刻(しんこく)影響(えいきょう)はない。


 レイド村周囲(むらしゅうい)(ふか)(もり)には、食材(しょくざい)武具道具(ぶぐどうぐ)素材(そざい)となる――

 (こう)レベルの魔物(まもの)が、大量(たいりょう)発生(はっせい)し――

 魔王討伐以降(まものとうばついこう)下火(したび)になっていた魔物素材(まものそざい)への渇望(かつぼう)――

 それ(・・)が――呼び起こされた(・・・・・・・)


 魔物分布(まものぶんぷ)中心(ちゅうしん)となった、レイド(むら)

 (むら)(あら)たな魔物境界線(まものきょうかいせん)として、機能(きのう)していく。

 活力溜(マナだ)まりの解消(かいしょう)により変異種(バリアント)発生(はっせい)サイクルが大幅(おおはば)に伸びた、という研究結果(けんきゅうけっか)もその後押(あとおし)しをした。


 そう、一大冒険者(いちだいぼうけんしゃ)ブームの到来(とうらい)である。


   §


 それは――川辺(かわべ)で目を覚ました。


「ごぉぉぉぉぉ――――――!」

 バッギャギィィンッ!

 (こわ)れる――胸部(きょうぶ)搬出口(はんしゅつぐち)


 大角(おおつの)を生やした、(ちい)さな(おに)のような生物(せいぶつ)は――

 数回(すうかい)突進(とっしん)数回(すうかい)の「順路探索(おうがり)」。

 しいて言うなら星神(ほしがみ)の、本能(ほんのう)とでも言うべき存在(そんざい)

 強制順路(きょうせいじゅんろ)検索(けんさく)のための、探査針(プローブ)

 龍脈(りゅうみゃく)循環(じゅんかん)をうながす、試金石(タッチストーン)

 一匹(いっぴき)につき、(やく)500グラムの希少部位(シャトーブリアン)をもつ――

 ダンジョンクローラーは、やがて――


 周囲(しゅうい)(ねこ)魔物一匹(まものいっぴき)いないことを確認(かくにん)し、うずくまった。

 それは(かれ)もしくは彼女(かのじょ)が、存在(そんざい)してから(はじ)めての――

 (ふか)(ねむ)りであった。


 表裏一体(ひょうりいったい)星神(ほしがみ)片割(かたわ)れが目覚(めざ)めることは――もうない(・・・・)

 (すく)なくとも、日の本(ヒーノモトー)()まれの(だれ)かが、天寿(てんじゅ)(まっと)うするまでの(あいだ)は――

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