400:美の女神の料理番(シガミー)、思考拡張と刀印
「説破デす、INTシガミー)」
てなわけで、おれの交感神経系が唸りを上げる。
ヴォヴォオヴォッヴォン。
積層化された画面の一画が、奥行きを増していき――
ガッキュゥゥーン、ガシィン♪
おれの鉄鎧の体が、ひとりでに刀印を結ぶ。
最奥の0番レイヤーに描画されていくのは――
理想の真円。
それは強力な意思を体現するための、覚悟と同義だ。
理こそ違えど、身体操作による術の発露にほかならない。
そうか、わかったぜ……こいつぁ。
いつだったか、リカルル相手に使った――
真言と魔術特性の脆弱性を利用した――
ハッキングだ。
まえに使ったのは、リカルルの視線に介入するための可視光。
今回使うのは、アドレナリン受容体……わかるか!
とにかく鉄鎧鬼の五臓六腑である、おれの――全部だろぉーがぁ!?
ピィ――――――――♪
生命反応が赤に染まる。
「全方位、全法位ィ――ニャァ♪」
ぐぎぎぎぎっ――――体の震えが止まらねぇ!
ふぉふぉふぉふぉふぉぉん♪
『星神茅野姫との共存方法:解析結果1/
>イオノファラーとカヤノヒメのバイタルサインと、
龍脈の局所的な活性分布に関連性を発見。
>高負荷演算使用時に大気中だけでなく、
地中のマナの総流量の増大を観測。
解析結果2/上記からイオノファラーならびにカヤノヒメにおける、
メモリ解放時に変異種発現確率が増大していると類推。』
真言を唱えるまでもなく、一瞬で解析結果が出た。
§
世界は、五百乃大角のために存在している。
ふぉふぉん♪
『ヒント>惑星は演算単位を司る龍脈を、巡らせるための礎』
そうだな、この世のすべてが五百乃大角のために在るってのは正しい。
その通りだが――すべてじゃねぇ。
ヴォォォン♪
窓が開き――神域惑星を映し出す。
これはガムラン町上空に映し出されてる、立体映像のコピーだ。
丸い玉の表面に雲が湧き、流れていく様子が見て取れる。
火が出てねぇから火山なんかは粗方、冷えて固まってくれたと見える。
そういや……海を見つけとかねぇといけねぇんだったぜ。
いやいや、今は星神の心配事に集中しろ。
神域は、五百乃大角の兄神のために存在していたのを、五百乃大角がぶんどったもんだ。
つまり大前提として、この世界には、五百乃大角以外のための場所が有った。
そしてそもそもの原因は――
神々の船が五百乃大角を――
〝神々の棲まう世界〟へ――
帰せなくなったことによる、弊害だ。
へっ、神が重複すると、この世に悪鬼が跋扈するだとぉ?
なに言ってやる、日の本じゃぁ、道端の石ころにも神がいるぞ?
つまるところ八百万の神、非対応なのが悪い。
あたりまえの結果でしかねぇ。
こちとら仏教徒だぜ、そんな話にゃぁ慣れてる。
惡神も説法ひとつで取り込んじまう――
懐の広さは、小気味良くて――カカカッ♪
ふぉん♪
『ヒント>諸説あります。御霊信仰などによる狭量さにも、注目してください』
うるせぇ。
ふぉふぉぉん♪
『>シガミー、私も同意見です。
FATSサーバーへの接続が出来ないため、
独自に発生した、星の理である龍脈の総意。
それが星神茅野姫の正体と類推します』
うん? そう言うのとは、また違うんだが……話がややこしくなるから、ひとまず黙っとく。
「(とにかく龍脈に影響が出ないように、アイツら二人のウチどっちかに神域惑星に移ってもらえば、急場はしのげるだろ?)」
ふーっ。この図体をつかった〝教え〟は、たしかに使えるぞ。
ふぉふぉん♪
『>はい。演算リソースを確保するための就寝中に、
龍脈に淀みが発生しているようですので、』
「(じゃぁ、もっと簡単な話か……寝る間だけ神域で寝てもらやぁ済んじまうだろ?)」
ふぉふぉん♪
『>そうなりますね。では、星神カヤノヒメのために、
寝所いえ、神殿を建てましょう』
やってみねぇとわからねぇが、どうにか糸口がつかめたぜ。
「イオノファラー、そシてカヤノヒメ。類推にヨる結論が出マした」
おれの手を離れた迅雷が、シュルシュルと縮み――
足下に居るふたりへ向かって、落ちていく。
そういや、おれの〝星間陸路開拓者〟に〝星間空路補正〟に〝星間陸路補正〟は――星に関わるスキルだ。
まだ使い方がわからねぇから、ほったらかしてたが――
もうすこし放っておこう……レイド村の状況は、まだまだ立て込んでる。
§
「毎日8時間程度、神域と呼ばれる別天体へ転移して就寝すれば――良いのですか?」
「え、それだけで問題解決? やっりぃー、面倒がなくて助かったぁわぁーん♪」
拍子抜けの、神がふたり。
「じゃぁ、神域惑星にカヤノヒメちゃんの、お家を作りましょう……優秀な管理人付きならぁ、大規模な養殖施設とか計画できるし……ぶつぶつ」
やい、すぐ飯の話にすり替えるんじゃねぇやい。
おれは、鉄鎧鬼を脱ぎ――「みゃーゃ、みゃみゃー!」
息も絶え絶えになる。
鉄鎧を動かすのとは違って、鉄頭を使うと結構しんどい。
この鉄鎧鬼が頓知に効くのわぁ、わかったがぁ――
脳波と呼吸の乱れが、いつまでも収まらねぇ。
けどこれで全ての厄介ごとが、やっと解決だぜ。
だが茅の姫が、浮かない顔をしてる。
「みゃにゃん?」
「最後にひとつ問題が――」
そう言って、連れてこられた場所は――
徒歩4歩。瓦礫を挟んだ、すぐとなり。
それはガタガタと揺れる、ジンライ鋼製の巨大鍋。
蓋を開けると中には――
鉄の塊から生えた角。
「みゃっ、にゃみゃぎゃやー!」
ミノタウの始末を付けねぇと、いけねぇのか。
あの、おぞましさすら感じた〝おれを貫こうとする執着〟には――
出来ることならもう……挑みたくねぇ。
「みゃにゃがー、みゃんにゃん♪」
そんな猫の鳴き声に振りかえると――ぽっきゅらぽっきゅらら♪
騎馬が一騎、寄ってくる。
「あれ? シガミーとカヤノヒメちゃん、どうしたのこんなとこで?」
覇気の無い顔と声に、定評のある兵六玉だ。
おにぎりにしっかりと抱きついている。
「ひっひぃぃぃんっ?」
うるせぇ。さらに覇気の無い顔と鳴き声。
ふぉん♪
『>おにぎりに、任せるんだもの♪』
そんな木の板を見せつつ、子馬から飛びおりる――猫の魔物。
「(どうしたぁ? 刀印なんか、結びやがって?)」
そんな真似、教えてねぇよなぁ?
「みゃごっ♪」
腰を落とす黄緑色。
ふぉん♪
『>滅せよ♪』
そんな文字が目に入ったときには、もう遅かった。