40:魔剣イヤーイ使い(幼女)、小屋に住もう
「え? ここに住むの!?」
おれがこわした屋根には、厚手のぼろ布がかぶせてある。
どうせ中身はぜんぶ鍛冶工房に持ってっちまったから、からっぽだけどな。
「おうよ。宿屋でまいにち金を取られるくれえなら、ここに住んだ方がよっぽどいいぜ。なあ、迅雷」
「はい、シガミー。こコに居をかまえるナら、じかに充電……神力補充が可能ですのデ、ギルドの女神像を停止させル心配がなくナります」
ギルドのとんがり屋根からのびた太縄は、小屋のよこに立つ柱にくくりつけられ、となりの草地に突き刺さっている。
§
物置小屋が、ごそりと消える。
光の升目があらわれたとおもったら、また物置小屋が――どすん!
「一瞬で綺麗になっちゃった……こわれた屋根もなおったし!」
例の迅雷の〝汚れをおとす達人〟――物をしまう魔法の応用だ。
こわれた屋根がなおったのは、なんでかわからねえが。
「(格納時に元素単位の量子記述的な再配置をおこないました。そして展開時にナノミリメートル以下の精度で物理的に再配置したことによる破損箇所の――)」
「(やめろっ! 無遠慮か! おめえ、どうせわからねえにしても、あきらめすぎだ! おれにもわかるように説明する努力をしやがれ、努力をよぉ!)」
おれは屋根にかかってたぼろ布を、がらんとした小屋のなかに敷いた。
「(失礼いたしました…………ひとつの物、たとえば木や石や鉄など、おなじ種類の物なら、大きな塊にして取りだすことができます)」
よいしょっと――そとに置いておいた木箱を、レイダが運んでくれた。
「わりい、たすかる」
いかんせん、子供には体力ってモンがねえ。
「(塊……おなじ種類の塊ってぇことぁ…………じゃあ、こわれた屋根……バラバラになった木の板を、いったん仕舞って、元どおりの屋根を取りだした……ってぇの……か?)」
「(はい。その認識……かんがえであっています。イオノファラーも感心していましたが、シガミーは〝天正生まれ〟にあるまじき理解力……頓知がきくようです)」
「(おれぁくさっても坊主だったからな。かんがえるのが仕事の半分だ)」
どかどかどかッ!
「(のこりの半分は?)」
どかどかどかん、どずんッ!
「(……目のまえにあらわれる全部を、呑みこむこったよ)」
あいた扉のむこう。
うずたかく積み上げられた、道具や荷物や資材。
その頂点に立てられたのは、狐耳の剣に付いてたのとおなじ紋章の旗。
「「こんなことになるんじゃないかとは、おもったのよねぇー」」
仁王立ちの受付嬢がふたり。
ひとりはかるく、もうひとりはふかーく、ため息をついた。
§
「はーい、その戸棚はコッチ!」
号令は一本角。
へぇーい。どかどかどか!
したがうはニゲルや常連客。
「じゃあ、その浴槽と、おトイレはひとまず仮置きで良いから組んじゃってー!」
こっちの号令は、ねじり鉢巻きの狐耳。
よーし、仕事に取りかかるぞ!
したがうは工房でみた小柄な連中と、姫さん付きの厳つい護衛が一名。
ぱたばたん、ぎーこぎーこぎーこ、とんてんかんてん、どっがんがん!
くちをはさむ暇もなかった。
一刻……30分で完成する、おれの新居。
§
「いっやぁ、掃除に時間かかると思ってたけど、綺麗になってたから一瞬でできちゃったわねぇ~♪」
率先して指揮を取った受付嬢(戦闘狂)が紅茶をすすってる。
「がははははっ♪」
「わははははっ♪」
「わけえの、この茶菓子うめえぞ、もっと食え!」
「は、はい、どうも」
がやがやがや。
姫さんのお付きの白っぽい装束のやつが、みんなの茶の用意までしてくれた。
姫さんには、あらめて礼くらい言っとかねえとな。
「そうねぇ、屋根まで直ってたし――迅雷の汚れ落としは本っ当に使えるわねぇー」
受付嬢(鬼)が獲物を見るような目で、おれの相棒を見つめている。




