39:魔剣イヤーイ使い(幼女)、物置小屋をもらう
「よくみてんな、さすがは、あのギルド長の娘だぜ」
「あの……?」
「なんでもねえ。なんか書いてあんな……えーっと」
『主』
「よめないわね。これは神の国の言葉かしら?」
「見たことない文字……お父さんがよろこびそう!」
「そいつはおれが、もと居たところの字だ。『あるじ』って書いてある」
「シガミーの国の言葉? 記憶がないって話だったんじゃ……」
ほらみろ、迅雷。さっそくぼろがでたぞ。はやくおきろよ。
「〝あるじ〟って、どういう意味?」
ひっつくなレイダ、腕が痛え。
「〝主人〟とか〝真ん中の〟って意味だ」
「意味はかわらないのね」
『電』
「こっちは、なんてかいてあるのかしら?」
「『いなづま』だ。」
「〝かみなり〟ってこと?」
『源』
「さいごのは『みなもと』だ。川のみずが、わきでるって意味だ」
「真ん中で……カミナリが……湧き出る……?」
「どういう意味なの? シガミー」
「おれに聞かれてもよ……カミナリ? あ、そういや迅雷のめしがカミナリだってんで、あの物置小屋を使わせてもらいたかったんだよなぁー」
――――べちっ!
「いってえ!」
「シガミーのおばか!」
突然レイダに脳天を叩かれた!
「それをはやく、お言いなさい。まったくもう!」
そして狐耳に、独古杵をひったくられた。
§
「AOSが再起動しまシた。リンク確立まで11秒お待ちくダさい。」
「お、息を吹きかえしたぞ!」
ここは、冒険者登録んときに来た、ギルドのほそい通路のどんづまり。
箱を持った女神像。
そのせなか側にある箱。
「リンク確立まで7秒お待ちくだサい。」
フタを開いた箱に入れられた独古杵が、うわごとをくりかえしてる。
「まったくもう! シガミーは、いろんなことができるのに――何にも知らないんだから!」
おかんむりのレイダが、おれをなじる。
レイダに叩かれ、狐耳に独古杵を取られたときは何ごとかと思った。
この女神像は、冒険者登録だけでなく、〝宛鋳符悪党〟にめしを食わせることも、できるんだそうだ。
さすがは〝飯の神〟だけのことはあるな。
「チチピッ――リンク確立しマしタ。おハよウごザいマす~、シガミー」
ヴッ――――ふわぁ。
迅雷が箱からでてきた。
「(ご用はございませんか?)」
「(なんでぇ、腹すかせてただけかよ)」
「おどかすなってんだ。ちゃんとめし食えたか?」
「ばか! 笑いごとじゃないよ、シガミー。アーティファクトは神力を補充しないと動かなくなっちゃうんだから!」
「神力?」
「カミナリは神がお与えになる試練。それを神力というのよ」
狐耳が組んだ手を、自分の高い鼻に押しあてた。
「(カミナリによる充電……ギルド長の眼鏡などのエネルギー供給……食事を、そうよんでいるようです)」
「(眼鏡もめしをくうのか……だから、レイダもその辺のことがくわしかったんだな。納得だ)」
「いえ、コレは私たちが、気をつけてあげるべきでしたわね。シガミーちゃんは記憶があいまいなんだし……」
狐耳が、おれのあたまを執拗になでる。
やめろ、ガキじゃねーんだ!
――――しゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~ぷすん♪
「外部電源への供給過多により、主回路の電圧が低下していマ~ブッツン!」
「「「わっ!」」」
とつぜん女神像が、とち狂った声(五百乃大角の声)をだしやがった。
「あらいけない、壊しちゃったかしら?」
オロオロする狐耳。
あんまりカミナリ仕掛けに、くわしくはなさそうだ。
「迅雷~?」
「問題ありまセん。私への神力を大量に供給しタタめ、一時的に女神像サービスを停止しタダけです」
「わからん……なおんのか?」
「はい。ガムラン町の落雷頻度かラ算出……神力ノ回復は一週間……七日程度でモとにもどりまス」
「一週間……そのくらいなら平気よ~。新規で冒険者登録する人なんて、めったに居ないし~♪」
胸をなで下ろす藩主の娘。
「リカルルさぁん。それぜんぜん良くないんですけどぉー? それに本日午後から、お仕事頼んでありましたよねぇー!?」
狐耳の背後に鬼娘が立っていた。
§
『ガムラン町における次の一区画を、
定住冒険者 シガミー● へ譲渡するものなり。
リカルル・リ・コントゥル■
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厚めのしっかりとした紙には、そう書かれているらしい。
おれの名前のよこには、おれの血判。
狐耳の名前のよこには、剣の柄の紋章を判子がわりに押しあてた。
それは略式だが、あの物置小屋のある小さな一画を、シガミーにくれるという書類だった。
血判/血で押す判のこと。




