388:龍脈の回廊、展望台と和解
「にゃっふふふふーっ♪」
黒板を日にかざす、猫耳の女性。
「なんで、楽しそうコォン?」
同じく黒板をかざす、狐耳の少年。
ここはガムラン町ギルド屋舎、最上階のさらに上。
展望台南側。
「一回5ヘククとして6回も届けたらぁ、ふたりで3パケタになるニャン♪」
猫耳の女性は下卑た表情をするが――
愛嬌のある生来の顔つきが邪魔をして、下衆な内面を再現しきれていない。
「えっ!? お金取るコォン? この黒い板を展望台で日に当てるだけで、手に入る情報コォン!」
狐耳の少年が、ガタガタと揺れるギルド椅子に乗せた――大きな鞄を見つめる。
その中には黒板が何枚も、押し込められていた。
「完全自供ご苦労様です……おふたりとも」
突如として姿を現す、鳥の仮面の給仕服。
「チッ、リオレイニアニャァ――あっ、なにか飛んでるニャ!」
北の空を指さし、大口を開ける猫耳。
「ニャミカさん、そうそういつも騙されませんよ――あら、本当に何か飛んでいますね?」
仮面が見つめる先。
巨大な翼を駆る鳥、いや、巨大な蜥蜴が飛んでいた。
「ド、ドラーゴンコォン?」
展望窓へ、へばりつく少年。
「あ、こらっ、今のうちに逃げるニャァ!」
少年をつかみ、引っ張ろうとするも――
「こぉら、アナタたち! この緊急時に小銭稼ぎとは――商売人の風上にも置けませんねぇ――――!!」
ごちんごちん!
「フッギャッ――!?」
「ケケーン――!?」
一撃ずつ拳骨をくらい、崩れ落ちる喫茶店組。
彼女たちは隣町で、喫茶店を営んでいたが――
アーティファクト仲介の目利きを買われ、今ココに居る。
「ここだと女神像の情報が、きちんと収得できますね――よいしょっと」
気絶した二人を、椅子に重ねて座らせる、鳥の仮面。
エプロンのポケットから、ヘッドセットを取り出し耳へ装着。
「イオノファラーさま。展望台南側ですと、ちゃんと更新されました――はい、はい、いえ――それと今しがた巨大な龍……恐らく火龍ゲールと思われますが、西へ向かって飛んでいきました――は、はい。そういうことでしたか、では後ほど――」
ヘッドセットを外し、ポケットへしまう。
彼女の口元は、かすかに震えていた。
§
ふぉん♪
『>極所作業用汎用強化服を一件作成しました
>運搬中
>120秒後に〝シガミー〟1番コンテナ搬出口より、お届けします』
「1番コンテナ搬出口てなぁ、どこでぇい――ニャァ?」
ここは、レイド村ギルド支部。
女神像へつづく階段前。
ガッキュゥゥン――ズガゴゥン♪
腹にも肩にも、箱は無ぇ。
ゴッキャガチャコ――ゴン♪
かるく立ちあがったら天井から吊されてた、灯りの魔法具にぶち当たった。
ゴカカンッ――ガチャンッ!
「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」」
新米メイド・タターと、白い服の神官が――
落ちてきた魔法具から、飛びのき逃げていく。
この図体であちこちぶつかりまくってたら、女子どもからしたら――
恐ろしいかもなぁ。
画面に描かれてる鉄鎧鬼の絵。
顔が鬼みてぇだし、角みてぇなアンテナもやたらと生えてるしな。
「マぁ、まとわりツかれるよかぁ、良いやナぁ――ニャァ♪」
胡座をかいて座る、おれの周りを――
ニゲルとレイダが、ウロチョロする。
「これさ、プラモだよプラモ! ロボットアニメ主役級の♪」
やかましい。だれが麩羅猛だ。
「なんだかわからないけど、大丈夫だよ。例えずっと、このままでもシガミーに変わりは無いんだから!」
危ねぇから、あまり近寄るなよ。
踏ん付けちまう。
「変りがねぇのは、たしかにそうだがぁ――猪蟹屋に入れねぇのは、厄介だぜ――ニャァ?」
この図体じゃ、仕事にならんし――
家にも入れん。
「はいはいはいはい。大丈夫、大丈夫ですよ、くすくす?」
うるせぇ惡神め。
はいは二回までにしとけ。
「ひひひぃぃん? ひんひひん?」
うるせぇ、でけぇ子馬め。
ひひひんは二回までだから――よし。
ぽぽぉーん♪
「んぁ? 出来たみたいだぜ――ニャァ?」
背中の大筒腰の角が――ガッシャッ♪
蓋がひとりでに開いて――ごろごろろ、どさささっ♪
猫の頭とツナギてぇな毛皮の服が、ころがり落ちた。
「(シガミーのクラフト能力に、変りはないようですね)――デは私ハ自律型強化服おにぎり一号ノ復旧ヲ行いマす」
「じゃぁ、私も手伝うー♪」
迅雷に巻き付かれたまま、はしゃぐレイダ。
「おう、たのむわ。おにぎりが居ると、便利は便利だからなぁ――ニャァ♪」
レイダが異様に高く跳びはねて、たぶん、〝おにぎりの卵〟を探しに行った……頭ぶつけるなよ?
「さて、星神さまよぉ――ニャァ!」
ガチャコ、ギッチャゴン♪
短くなった大角を指さす。
とててて、くすくす?
ちゃんとおれの、可憐な姿をしている。
ぽきゅぽきゅむ、ひひひぃん?
ずいぶんとまぬけだがぁ、王女のゴーレム馬よか――
だいぶマシだな。
「そうだ、シガミー。色々あるんだろうけどさ――」
おれの鉄鎧の膝を、ゴカンゴカン叩きながら青年が口を開いた。
「なんでぇい、ニゲル――ニャァ?」
ギッチャゴ♪
ニゲルを見つめると――キュキュィ♪
ふぉふぉん♪
『ニゲル LV:38
勇者見習い★★★★☆ /聖なる剣/全属性無効/勇者の歩み
追加スキル /多重ロックオン/可変レンジ/クリティカル100%/女神の神託
所属:なし』
ニゲルの鑑定結果が出た。
いままでどうしてか、見ようと思わなかったが。
リオレイニアのに似た、強ぇスキルを持ってやがるな。
しかしこれは、見えちまって……良いもんなのか?
スキル隠蔽もLV詐称もねぇなら――
上級鑑定者に見られたら一発で、【勇者(見習い)】ってバレちまうぜ。
「カヤノヒメは、シガミーが居ない間、ずっと二号店の手伝いや、イオノファラーさまたちの手助けをしてくれてたんだよ。もし、本気で退治するっていうなら、もう一度、相手になるよ?」
ザギザギザギザギ――!
「まてまてい。抜くな抜くな! こんな形でも折角、生きかえったんだ、もう勘弁してくれやぁ――ニャァ!」
ガッチャチャゴゴッ――――手のひらをニゲルに向けて、盾代わりにした
「なに言ってるんだよ。さっきの真剣勝負、勝ったのはシガミーじゃんか?」
ザギザギザギザギ――!
抜くな抜くな。
「わかった! 星神とは仲良くするぜ。二号店の戦力だってんなら、なおさらだぜ――ニャァ!?」
ガッチャチャゴゴッ♪
「ならいいけど、仲良くするんだよ?」
ザギザギザギ――――ガキン!
閉じられる鍵剣セキュア。
その後、しばらくおれたち(厳つくて巨大な鉄鎧と、可憐な生身の童女と、間抜けたでけぇ子馬)を見張っていたが――
それにも飽きたのか、女神像へつづく階段を、降りていった。
「よし、星神さまよぅ、そーいうわけだからぁ――(ミノタウをさっさと取ってくれやぁ!)――ニャァ♪」
子馬を引きつれた、おれの体を問いただす。
「では、ミノタウロース伐採のための、ニッパーを作成して頂けますか?」
うふふ?
二八ってなぁ、なんだぜ?
ふぉふぉん♪
『解析指南>ミノタウロース伐採のための、
ニッパーを作成しますか?
<Y/N>』
わからん。
この鉄鎧の体がなじんでからは、いろいろとわかることが増えたが、それでも、わからんことが時々ある。
ふぉん♪
『ヒント>ニッパー/鉄線などを切断するための工具』
わからん……が、要るってんならやってくれや。




