382:龍脈の回廊、ホーミング滅の太刀
ズゴゴォォォォォォ――――!
錫杖は鎧武者より長さがあった。
引っ張ると、勢いよく飛び出してきやがる。
グルグルグルグルルン――――ジャッリィィィィィン♪
手甲の上を渡らせ、錫杖をつかむ。
「よぉーし、こいつぁおれがまえに使ってたのと、寸分たがわねぇ――ニャァ!」
鉄鎧の体で、寸分たがわねぇってこたぁ――
相当に重く長く、太さがある。
それでもニゲルの剣を、止められなかったわけだがなぁ。
ズシャッ、ガッキュゥゥゥン――足をひらく。
敵が目のまえに居やがる。
じっとしててくれりゃ、世話がねぇんだがなぁ!
ガキュゥン――――チキリ、スラァァァァッ!
直刀は、いまさっき研いだみてぇに、研ぎ澄まされてる。
鉄の柱の色が白みがかってて、最初に持ってたのとは違う。
そして本当に長ぇ。
太刀みてぇな歯車が付いてねぇから、自分で直刀を投げねぇと――
抜くことも出来ん。
スゥゥゥゥ――直刀の鎺を、鞘の端に乗せる。
鞘を突き出せば、まえに飛んで行く。
野郎のお陰で鉄鎧の体にも、大分馴れた。
ガッシィン、ガキュィィッィン!
腰を落とす。
いきなり〝滅の太刀〟ってのも、芸がねぇが――
大道芸じゃ、まるで届かなかったしなぁ!
「(おい、おれはどうすりゃぁ良いんだぜ? このまま普通に、飛ぶ鳥を斬るときみてぇに、斬っちまって良いのか?)」
ふぉふぉふぉん♪
『ガイダンスシーケンス>ロックオンして下さい』
わからん。
ふぉふぉん♪
『ヒント>見えない物を斬り、斬れない物を見て下さい』
「(なんだぁその、禅問答わぁ!)」
だがなぁ、おれぁ腐っても坊主だ。
「(色、すなわち空なり――――流れる風しか実在はねぇ)」
ってことだろう?
ふぉふぉん♪
『ガイダンスシーケンス>視線入力による多重ロックオンが可能です』
わからんが。
「(見えねぇ物を、見つめろと?)」
そりゃつまり、こういうこったろぉ?
ニゲルの、ジリジリとした足音。
『◇』――影の中から現れる、ひし形。
ニゲルの息づかい、上下する肩。
『◇』――重なっていく二つ目の、ひし形。
ニゲルをよける風。
『◇』――風の流れから三つ目の、ひし形。
ニゲルの心のあり方を、光る剣と視線から感じとる。
『◇』――切っ先から四つ目の、ひし形。
おれの中の敵の気配を、感じ取る。
『□』――ニゲルの顔から五つ目の、ひし形じゃねぇな……四角だ。
奴を見るな。流れる風で、奴を捕えろ!
ふぉふぉぉぉぉん♪
『>多重ロックオン完了。いつでも切断できます。
>滅モード:ON』
ビキピピピッピィィィィイィッ――――♪
鳥が、鳴き止まなくなった。
鉄の柱も易々と割るあの剣相手に、真っ向から斬り結ぶってんならぁ。
「拙僧わァ、妙竹林山朧月寺がぁ虎鶫衆弐番隊隊長、猪蟹ィ――ニャァ!」
せいぜい見得を切っておく。
「なんだいソレ? じゃあ、僕も言っておこうかな」
光る剣を構える敵。
ひし形や顔の四角が、動くニゲルを追いかける。
§
「迅雷クンさぁー。あれ、何やってるか分かるぅ?」
手に汗握る勝負の行方。
「はイ、赤鬼ノ各種アンテナと光学素子デロックオン。ニゲルノ速度ニ、電波にヨる索敵と、予測演算にヨる自動追尾ヲ行うようデす」
「うぷぷぷぷぷっ、坊主たいがいにして欲しいんですけどぉー(笑)♪ けど、お侍が持ってるのってぇさぁ――錫杖よねん?」
「仕込み直刀のようデす――確かニ、姿勢制御可能ナ推進装置付キ砲弾ではありマせん」
「――僕は、八つ橋高校2年β組清掃委員兼帰宅部部長、西計三十六!」
僧兵赤鬼鉄鎧の啖呵に対し、見得を切るニゲル。
「に、ニゲルさまぁらぁん❤」
思い人であるニゲル。その決死の表情に、釘付けのラプトル王女。
「ありゃぁ、本気でシガミーを斬るつもりだねー」
人類最高LV(シガミー除く)を誇る女将が、木さじを手に汗握っている。
「カヤノヒメちゃぁん? ほ、ほんとぉにー大丈夫なのぉー!?」
コントゥル家名代も、手に汗握ってる。
見上げるほど巨大な鉄鬼相手に、一歩も引かない。
それはガムラン町住人が初めて目にする、精悍な顔。
「に、ニゲルってば、本当に随分とぉー。なーまーいーきーでーすぅーわぁーねぇ――――――ココォォン♪」
ぼごごぉうわー♪
戦闘狂リカルルが、眼から口から狐火を噴き出した。
「心配はいりませんが、そろそろ決着が付きそうなので、私はこの場所へ赴かなければなりません」
星神カヤノヒメが、映像を指差した。
「えっ、いまぁ良いところぉなのぉにっていうかぁ――」
御神体が、シガミーの体を見つめ――
「――行かぁなぁいとおぉー駄目なぁのぉーん?」
浮かぶ球と実物大女神映像も駆け寄ってきた。
「レイド村まデの距離ハ408キロメートル。今かラでは決着に間にあいまセん」
飛ぶ独鈷杵が、目的地までの正確な距離を告げる。
「レイド村ぁ? 私がぁ――杖にぃ乗せてぇあげましょおーかぁー?」
椅子がわりにしてた巨大杖を、ヴォォォォンと唸らせる伯爵夫人。
「ソレでは間に合いませんので、超女神像を使いますわ、くすくす♪」
抱えていた果実を、ポケットにしまう星神。
「なら地下の転移陣まで、テンプーラゴウに乗ってけば良いよ!」
急に、そんな事を言い出す子供。
大きな子馬の首を、ぽむぽむんしている。
それは暗に「私も行きたい!」と言っているのであり。
『監督不行届』の襷を袈裟懸けにしたメイド・タターとラプトル王女殿下が――
「「いけません。レイダちゃん!」」
全力で引き留める、反省中の二人。
叱る声に驚いた子馬が、走り出す。
子馬へ、よじ登ろうとしていたカヤノヒメと、どういうわけか――
またもや尻尾にカフスを囓られた、メイド・タターを伴って。
「ありゃりゃ、走り出しちゃったから、仕方が無いよねぇ♪」
宣う子供。そう、彼女はまだ子供なのだ。
この暴走(2回目)が巻き起こす惨状を、まえもって知ることは出来ないのだ。
ぽっきゅぽっきゅぽっきゅむらっ♪
一瞬の隙に姿を消した、子馬と子供二人とメイド。
「前回同様、準待機中の者を向かわせて!」
リカルルの号令が、邸宅に響き渡った。
§
パッコォォォォォオォンッ!
ふざけた音の太刀筋。
ニゲルの姿を辛うじて止められる、唯一の足がかりだ。
しかも、おれの具足の鱗みてぇな、鎧板総出で――――
太刀筋を、ニゲルに沿わせてくれやがる。
ギュギィギャギョォォォォンッ――――パッコォォオォォォォッォォォォォンッ!
捉えたのはおれだが、追いかけるのは仕込み直刀だ。
「(こいつぁ、意味がわからねぇにもほどがあるぜ!)」
刀が剣士を操るなんざ、妖刀そのもので――
そんな物は生まれてこの方、見たことがねぇぞ!
ピピピピピピピピッ、プポーン♪
この升目が重なったときに放つと、良い感じに――ニゲルを追いかけてくれるのがわかった。
ギュギィギャギョォォォォンッ――――パッコォォオォォォォッォォォォォンッ!
回る景色。
うまく体を、さばかねぇと――
ギャギュギギャッ――――!
バゴォボゴォォンッ!!!
手甲やヒジが、体にぶち当たる。
ギュヴォォォオォン、ギョヴォォォォォン♪
まるで稲妻のような。
燕返しなら――5、6匹分の往復。
振ってるおれにもつかめねぇ、太刀筋。
それでニゲルを取り囲んでやったら――
ニゲルが居なくなった。
「(どこ行きやがった!?)」
ピピピピピピピピッ♪
升目が一箇所に集まっていく。
「七天抜刀根術、零ノ太刀。――ニャァ♪」
スウゥゥゥゥッ――ブッシュゴハァァァッ!
排気を整える。
プポーーン♪
ニゲルは見えねぇが、ソコに居る。
「チィェェェェェェェェイ!。――ニャァ♪」
カラダごとぶつかるように、切先をふりぬいた!
ふぉん♪
『>悪鬼羅刹(仮)のパラメーターセットに〝滅の太刀〟反応を検出』
ッイィィィィィィィィィィンッ!
ッイィィィィィィィィィィンッ!
ッイィィィィィィィィィィンッ!
切先がいつまでも鳴り、鉄輪を震わせやがる。
ヴォォォォオンヴォォオヴォォオヴォヴォォォォン――――!
自分で放った刃が、見えねぇ。
まさに疾風迅雷、電光石火だ。
どっちが疾風で、どっちが電光だかわかりゃしねぇがぁ!
ガァァァン――ギャリイィィィィン♪
ボガァァン――ギャリイィィィィン♪
ガッチャ、ガチャンッ!
切結ぶ度に、コッチの仕込み直刀が短くなる。
カカカカカカッカカカッァァァァ――――!
ニゲルの剣に付いた、かすかな錆びみたいなのが飛んで――
光を増していく。
――――ッチッ!
よぉし、ニゲルの腹をかすめた――――!
――が、この手応え。
黒い服の下に、革鎧でも着込んでやがったなぁ!
「ちきしょうめぇっ――ニャァ!!」
それでも、たしかに斬った。
もう二度と捉えられねぇ気がしたから――
真言でも何でもねぇアレを――唱えとく。
「滅せよ《・》――ニャァ!」




