38:魔剣イヤーイ使い(幼女)、だまる迅雷
「シガミー、ひょっとして、どこかに逃げようとした?」
魔法の杖を向けるんじゃねえよ、怖えだろうが。
「シガミィイちゃぁん、そおなのぉ~~?」
だからその、月の光のギラギラした目を、昼間から向けるんじゃねえよ。怖えだろうが!
「迅雷、なんとかしろ!」
ヴッ――――カシャカシャ、カチン!
迅雷が、独古杵の長さにもどった。
「やい、あきらめんな!」
棒がウンともスンとも言わなくなった。
がしり。
おれは両わきから、しっかりとつかまれる。
おれぁ子供だからな。
こうなっちまうと、うごけねえ。
つかまれた腕がいたくで、涙がながれた。
「えいっ!」
――ぽすん♪
狐耳の片手でかるがると、やわらけえ寝床にもどされた。
「わぁーかった。幽閉すんならせめて――」
あがめ奉るために、どこかに押し込められるとしてもだ。
おれと迅雷が物置小屋に落ちたとき、画策した〝目論見〟がある。
「――物置小屋にしてくれ!」
おれは〝物置小屋〟を要求する。
金属棒がしまわれてた場所が、迅雷に必要らしいからだ。
「え、なにそれ!? ひと聞きの悪い!」
おどろいた狐耳が、おれから手をはなした。
§
「こんな業物を開発提供してくれた、」
――――ザッギィィン!
「女神の使いに、そんな仕打ちをするわけないでしょう」
――――スゥゥゥゥ、ガキン!
おれの小太刀とは柄の木目が、ちがう刀。
狐耳が、伯爵みたいな手つきで、刀を抜いたり納めたりしている。
鍛冶工房では4、5本同時に作ってたから、献上されたか買い占めてきたかしたんだろう。
工房長には、おれの一本以外は好きにして良いと言ってある。
ちなみに使い古したオリハルコンは何百年か放置されると、もとに戻るとか迅雷が言ってた。
「そうだよ。シガミーはわたしのパーティーの一員なんだから……あの爆発力をあてにしてるんだからね!」
むぎゅっ――つきだしたレイダの指が、おれの鼻に当たる。
伯爵やギルド長、まわりに居た連中は狐耳に追い出されたから、いまここに居るのは三人だけだ。
「うふふぅ――――」
ザッギィィン――――スゥゥゥゥ、ガキン!
ザッギィィン――――スゥゥゥゥ、ガキン!
曲がった刀を扱うのは初めてだろうに、なかなか堂に入っている。
「何でも切れる」と豪語するだけのことは、あるんだろうな。
やっぱり、おれの見立てはただしかった。
まだ手合わせすらしてねえけど、そんときゃどっちかぶった切れるときだ。
「うふうふ、うふふふぅ――――」
ザッギィィン――くるん――スゥゥゥゥ、ガキン!
ザッギィィン――くるくるん――スゥゥゥゥ、ガキン!
ザッギィィン――くるくるくるるん――スゥゥゥゥ、ガキン!
ありゃ? この一瞬で納刀は、おれよかうまくなってねえか?
なあ、迅雷?
「――――シィガァミィーちゃぁぁん?」
音もなく忍びよる戦闘狂。
「な、なんでい、猫なで声なんかだしやがって。おれぁ立ちあわねえぞ!」
「それはあとの、お楽しみにとっておきましょう――」
とっとくのかよ。
「――それよりも大事なことがあるから――よく聞いて」
切れ長の目が細められる。
「へ、へぇ、なんでごぜえ……ございましょうか?」
仮にもこいつぁ、ここの藩主の娘だ。
前世よか穏便なお国柄らしいが、へたを打ったらまた来世だ。
五百乃大角みてえなもの好きが、そう都合よく何度もあらわれるとは限らねえからな。
ここは、慎重に――っつうか迅雷、てめえ寝てんのか!?
「シガミーちゃんと迅雷には自発的に、このガムラン町にできるだけながぁく――できることなら定住してほしいというのが、お父さまと私のかんがえです」
「へ、へぇ? まあ、女神の使いだか聖女(?)だかで、しちめんどうなことにならねえってんならこっちは、なれてきたここに住むのは、やぶさかじゃねえが」
「やぶ……?」「さか……?」
「願ったり叶ったりってこった……おい迅雷、こまけえ話は、てめえがいねえと始まらねえだろうが」
おれはずっとつかんでた棒を、振ってみた。
「やい、迅雷!?」
へんじがねえ。
「どうしたの、シガミー?」
レイダがよってきた。
「さっきから迅雷のヤツが、ひと言も話しやがらねえ。まえにもすねて黙りを、きめ込んだことがあったが……」
「んぅ~~? ……迅雷のここの所って、さっきまで光ってなかった?」
レイダの指のさき。
そこには、なんかちいせえまるい石が、埋め込まれてた。
幽閉/閉じ込めて外に出さないこと。
業物/名工による、鋭い切れ味の刀剣。




