374:龍脈の回廊、ジンライ鋼製巨大プラモVSニゲル
「シガミーこそ、どうして斬りかかってくるんだ!?」
姿は見えねぇ。
ピピピピピ、ピピピピピプゥ――――――――♪
耳元で鳥の声。
ふぉふぉふぉふぉふぉぉぉぉぉぉん♪
『▼▼▼』『▲▲▲』『◄◄◄』『►►►』
四方八方から次々と迫る、赤い三角印が――
血をたぎらせやがる!
「わかりきっタことを聞くんじゃネぇやい! 敵わァっ、斬ル――ニャ!」
なんせ誰だか忘れたが、もうすぐ戻るって誓った――気がするからな。
なにより、折角作った鎧武者の体だ――試したくて仕方がねぇ!
「――あー、ニゲルー? その巨大なシガミー(?)ですけどぉ、ぶっちゃけ変異種ですので――斬れる物なら斬り捨てて見せなさいな」
なんだか聞き覚えがある。
さっき部屋の中に居た女じゃねぇーか?
あんまり敵に回したくねぇ感じの声。
「なに言ってるんだよ、リカルルさまぁ! あんなロボット相手に、どうしろって言うんだよぉ!」
見えねぇ敵が、泣き言を言いやがる!
だからぁ、お前さんわぁ――好いた女の手を握ることもぉー、出来ねぇんじゃねーのかぁ?
「――ニゲルー! その大きいのに勝てたら、イオノファラーさまたちがどうにかしてくれるらしいからっ、存分に立ち合いな!」
こっちも、聞き覚えがある。
やっぱり、いくさ場では会いたくねぇ感じの声だ。
「その声――女将さんまで、無茶言わないでよーぉ!」
見えねぇ敵が、泣き言を続ける!
だからぁ、お前さんわぁ――野菜の下ごしらえをサボっては、木さじで殴られてるんじゃねーのかぁ?
鉄棍は割られちまったが、手応えはあった。
なら、やるこたぁひとつ。
腰に付いた太刀を抜いて、飛んでくる気配を叩っ斬る。
けど、いくら鉄で出来た武者の体を手に入れたって、これだけ長ぇ太刀を抜くニャァ――コツが居る。
右手で柄。左手で鞘。
右手は添えるだけ。
長刀を抜き放つ、居合いの絶技は――
太刀の重さの真ん中。
鍔にちかい辺りを弾く――押し手にある。
すでに開けた太刀は――鎺の端に乗せてあるだけ。
鞘を突き出せば――まえに飛んで行く。
最大の間合いへ通じる、最速の抜刀術。
鯉口を切り――
放り投げた刀をつかんで――
鞘(腰)を引く。
長刀の切っ先を、いかに早く――
鞘から抜き放つかに、尽きる。
一言で言うなら、まさに大道芸。
飛ぶ鳥を斬るのとは、またちがう話だが。
長刀の長ぇ間合いは、ソレだけで十分に強ぇ!
ふぉん♪
『ヒント>太刀風の太刀/全長2・7メートル。刀身2・4メートル。刀身幅22センチメートル。ジンライ鋼製総重量90キログラム』
わからんが、数字は読めるな……結構な重さで、とても生身じゃ担げん。
「んぅニャ? 鯉口に〝押しこめる引き金〟がある――ニャッ?」
押せるものは押す。
チキッ――――ビィィィィィッ!
なんだ鳥め、うるせぇ――――!?
ギュルルルルルルッ――――――――――――――――ガリリリリリリリリィィィィィンッ!!!
鞘についた歯車がまわって――散る火花!
あらわれる太刀の棟には、のこぎりみてぇな溝。
「こイつぁ――ニャァ!」
ものすげぇ勢いで、刀が打ち出される!
おれがやろうとしてた、長刀抜きの大道芸を――太刀がやってくれやがった!
一瞬で切っ先まで抜けた太刀が、すっ飛んでいく!
やべぇー、太刀を無くしたら、敵に太刀打ちできるわけがねぇ!
必死に体をまえに進める。
伸ばした腕を、さらに伸ばした。
ふぉふぉん♪
『スラスター点火:2秒』
シュゴ――ォォォォォッ、ガァァァァァァンッ!
背中を大筒で、撃たれたぁ!?
吹き飛ばされた体が、打ち出された太刀に追いついた。
痛くはねぇが――すこし熱い。
いまは兎に角、太刀をつかめっ!
ギュギゴゴッ――――ガチィン!
手甲についた鋏が、勝手に太刀を挟んだ。
ガシィィンッ!
引き寄せられたソレを、ちゃんと鉄の腕でつかむと――
ギュギゴゴッ――鋏が太刀を放した!
先に手甲が柄を挟んで、くれなかったら――
おれぁ、寸鉄も帯びず、二つにされてた所だぜ!
いや、小刀は体のあちこちに埋め込まれてるが――
小刀がバシャバシャバシャと、開いちまうから――
余計なことを、考えるな。
いまは太刀を、勢いに任せて振り抜け!
切っ先が、前を向く。
パッコォォォォォォォッォンッ――――なんだこの音ぁ!?
奇っ怪な音。
勢いあまって剣筋が乱れ――
ゴギャギャギャ、ガッチャ、ガシィィンッ!
まわる景色。
見えねぇ敵にゃ、かすりもしなかったが――
ニゲルの体が一瞬、止まって見えた!
この居合いは――いろいろ使える!
バキバキィ――甲冑がまた割れ落ち。
バチバチィ――体のあちこちから、電が迸る。
こんな脆い鎧で敵の刀を防げるのか、不安になるが――
鉄の体は、そうそう斬れね――
いや、さっき立派な鉄棍を、割りやがったっけなぁ!
慌ててつかんだ柄にも、鯉口と同じような〝引き金〟があって――
「引け引け、引けるものは全部、引いちまぇ――ニャァ♪」
チキッ――――ピプゥゥゥゥゥッ!
鳴く鳥。
水平に構えた刀身が――ビタリッ!!!!!!!!!!
どういうわけか――――空中に留まった!
ゴガガガガッガァァァァン!
引っぱられてた上半身が、太刀の棟にぶち当たった!
ギシギシギシギシィィィッ、ドガガガガァァァンッ!
痛ぇ痛ぇ、太刀を打ち出した鋸歯が鎧に食い込む。
「痛ぇ――――――――ニャン!?」
おれはずるりと、崩れ落ちた。
ドズズズズゥゥゥンッ!
見あげりゃぁ、空中に浮かぶ太刀。
ガッチン――!
押しこまれていた引き金が、ひとりでに戻り――
ズド――ゴン!
倒れたおれの鼻先に、太刀が落ちた!
「あっブねぇーなっ、どうなってンだぜぇ――ニャン!」
ニャンとか言ってる場合じゃねぇ――起きろ、起きやがれ!
ギシギシ、バキパキッ、ガッチャンガチャ、バラララバララララッ!
体から落ちる、余分な鎧板や鉢金の細工。
かみ合わせが悪い、肘や膝のつなぎ目。
大丈夫か、この鎧?
このままバラバラに、なっちまわぁねーだろぉなぁ?
その時、太刀が刺さった地面の、すこし先。
ドッゴォォォォォォォォォォッゥン――――♪
木々や土砂が、一直線に吹っ飛んだ。
なんだぁ――!?
もしたまたま自分の刀に当たって、這いつくばってなかったら――
「ちきしょうめっ、見えねぇニゲルの見えねぇ太刀かっ――ニャァ!?」
おれは太刀をひろい腰を引く。
手甲にも手伝ってもらって、必死に鞘に納める。
鞘にさし込むと今度は、ギュルルルルッ――――ガガァンッ!!!
歯車が逆回転し、太刀が勝手に納まり――ズシャッ!
納刀の勢いで半身程度、体が回転した。
この歯車太刀――自抜刀わぁ、相当使える!
けど、それにしても――
やる気のねぇ見た目に反して、あんニャろう!
「質の悪ぃ野郎だぜ――ニャァ♪」
おれは――ガッチャガチャ、ガシガシィィンッ!
鉄の体に鞭打って、敵の様子を必死に探る。
鎺/はばき金。刀の鍔の先、刀身側に付けられる金具。納刀時に刀が鞘に当たらないように固定するための物。
鯉口/鞘の口に付けられた金具。親指で鍔を押し臨戦態勢に入る様を「鯉口を切る」と言う。
寸鉄/小さな刃物。小刀。または急所を突く、短い言葉。




