366:龍脈の回廊、巨大茸あらわる
ガラララッ――ドシャァ!
壊滅状態の集会所。
屋根の穴も、さらに大きく広がった。
「ご、ごめんなさぁいぃー!」
平謝りの、御使いの従者。
「にゃみゃごや、みゃにゃにゃぁー♪」
その隣で平伏する、猫の魔物。
ふぉん♪
『おにぎり>ウチの若いのが、ごめんなさいだもの♪』
「んぁ!? なに言ってるんだ! オマエが始めたんだろー!」
「みゃにゃご!? みゃんやーにゃみゃんやー!」
平伏しつつも、再燃する気配。
「や、やめて下され! これ以上壊されたら、村はおしまいじゃぁー!」
懇願のレイド村村長。
「ざ、財政が、ますます逼迫――」
ふらつく神官女性。
「……いや、ここはあえて言いますまい。こうして御使いさまたちが、訓練に励んでくださっておるのじゃ――如何様な変異種が相手でも、必ずや討ち取ってくださるに違いありますまい!」
村長の涙に濡れた眼差しが、従者を御使いを射貫く。
「そ、そうですね。九体目の変異種は魚の形――」
手にした紙には、彼女が描いたらしき『魚の絵』。
「こんな陸地に一体どこから魚が襲いかかってくるのか、皆目見当も付きませんし、最終決戦の十体目に至っては――その全てが謎のままでしたが」
例の古文書の写しの最後。
滲んで見えなくなっていた部分に重ねられたのは――大きな『疑問符』。
「形在る物はいつか、壊れるものじゃて――ふぅ」
遠い目をし出す村長。
彼にも若かりし頃はあり、おそらくは言い伝えを成就し――レイド村を大陸随一の恵まれた村にしたいという、野望くらいはあったのだろう。
どたどたどたたたっ!
「村長! うひゃ! どうしたんだこりゃぁ!?」
若い衆が飛びこんできて、集会所の惨状に驚く。
「どうしたのじゃ?」
我に返った村長が、普通に対応する。
「茸が見つかっただやぁ!」
「なにぃ、茸じゃとぅ!? 次から次へと、やっぱりレイド村は呪われとるんじゃなーかーろーうーかぁー!」
走り去ってしまう、村長と若い衆。
「茸ぉ?」
「にゃぎゃ?」
「この近くに生える大ぶりな茸のことです。村の食料として重宝されています。大量に採れるので余剰分は出荷し、貴重な収入源にもなっています」
テーブルの上を、片付け始める神官ナーフ。
「そんな良い事づくめのが見つかったにしては、村長の様子がおかしいよね?」
「にゃやー?」
訝しむ珍客二名。
「どうぞ、ついてきてください。じきに始まりますので、見て頂いた方が早いかと」
意を決した様子の神官が立ちあがる。
そして神妙な面持ちで、槍を手に取った。
§
「お嬢さま、ただいま戻りました!」
なんだぁ!? また新しいのが来たと思ったら――
こいつも、給仕服を着てやがる。
さっき一斉に出てったうちの一人が、戻ってきたのかとも思ったが、違った。
あんな面を付けたヤツは、見たことがない。
「レーニア! 見えないイオノファラーさまは、見つかりまして!?」
面の女に駆けよる、派手な女。
「はい、少しまえに猪蟹屋本店で見かけ――見てはいないのですが、たしかにレイダが一度、捕まえました」
面が、小さなテーブルの上を。
オロオロする根菜みてぇなのを見つめた。
「「カヤノヒメちゃん!」」
根菜と狐狸妖怪が――
芽が伸びた竹の子みたいになっちまった童に、声を掛けている。
「シガミーが見つかったって――本当ぅー!!」
ぽっきゅらぽっきゅら、どががぁん――「ひひひぃぃぃぃん?」
止めようとする給仕服たちを蹴散らし、若草色の馬が飛びこんできた!
この童には、みおぼえがある気がするぞ。
「ま、まってくださぁい! またカフスがひっかかっちゃってまぁすぅー!」
『監督不行き届き』なんて描かれた襷を、袈裟懸けにした給仕服が――
図体のでけぇ馬の尻にくっついてやがる。
「ぎゃっ!? か、カヤノヒメさまっ!?」
部屋の真ん中へ、馬に乗ったまま駆けよる童。
その姿は淡い青色で、とても似合っていた。
「ひひひぃぃん!?」
竹の子みたいになった童に――
でかい頭を、すり寄せる馬。
「レイダさん、こんにちわぁ……このお馬さんは、どなた?」
竹の子には、小さな花が咲き乱れ――
息を荒くしている。
§
「うっわ、こりゃたしかに大きい!」
ニゲル青年を1とするなら、茸の平均全長は0・7ニゲル程度。
直径にして0・5ニゲル。
「みゃにゃごにゃやーみゃ♪」
ふぉん♪
『おにぎり>おみやげにするもの♪』
「ソレどころじゃないだろ――いた、あそこだっ!」
シッ――ザギィィン♪
振り払われる鍵剣セキュア。
ぼとぼとぼとぼと、ごろごろごろろり。
一振りで、茸三個と――紫色の大根がひとつ、採れた。
「みゃにゃみゃにゃやー♪」
ふぉん♪
『おにぎり>おかみさんが、よろこんでくれるもの♪』
「たしかに女将さんなら、喜ぶだろうけど――――おぼおぼおぼぉげぇぇ……スッタァァァン!」
奇声を発した青年が、神速で距離を取った。
逃げる為には使えないその俊足を、通り抜けるために使う。
それを彼は、先の低警戒度変異種との戦いの中で会得した。
「この数を、相手にするのはヤバイ!」
この不気味な音響は、マンドラゴーラが発する会話である。
神々の言葉で言うなら、指向性の超音波通信。
振動により内耳に直接、音像をむすぶため、耳をふさいでも効果はなく。
彼のように、一瞬で長距離を移動できなければ――
「シュッゴボヴォヴォヴォヴォヴォヴォゴゴバビャビャビャビャオボオヴォボヴォボヴォヴォヴォ――――!!!」
二匹の大根にはさまれた村長が、崩れ落ちた。
「「「「「「「「ギュボヴォッバゴボッヴァヴァヴァヴァリャギっピギッピャギュゴリュビャヴァヴァヴォヴォヴォゴヴォゴッヴァバヴァ――――!!!」」」」」」」」
大根たちの会話に巻き込まれていく、若い衆たち。
「ヴァヴァッバッパビリャッタユヴァリャルアッパオヴォヴォヴォヴォヴォオッヴォヴォヴォッヴォヴォヴォヴォヴォヴォボヴァ――――!?!」
神官ナーフ・アリゲッタ。
その頬が羞恥に、染まっていく。
「――――ッキュドッン! だいじょうぶですか!?」
見かねた青年が、神官女性を抱きかかえ、物陰に隠れた。
「あ、ありがとうございます」
頬を押さえる神官女性。
「なるほどねぇー、この茸はマンドラゴーラの好物って訳かー」
「は、ははははははい! もしも捕まえられたら、茸よりも、収入が増えるのですが――ヴァヘェ♪」
体内に残っていた振幅が、口をついて出た。
「はは、気にしないで。ガムラン町でも、たまに出るからさー」
そう言って、顔を覆った神官を、放してやる好青年。
「「「「「「「「オヴォボヴォヴォゴゴボボボゲゲゲゲボヴォヴォヴォガビャビャビャ――――!!!」」」」」」」」
奇声を発し逃げまどう、為す術のない村人たち。
「けどこれは変異種より、厄介かも知れないなー」
腕組みの、従者ニゲル。
「にゃみゃがにゃみゃにゃんぎゃにゃ!」
ふぉん♪
『おにぎり>おにぎりにまかせるもの♪』
そういうがはやいか猫の魔物、美の女神の御使いさまが――
ぽっきゅぽぽぉぉぉぉぉぉぉぉんっ――――――――♪
天高く弾んだ!




