359:龍脈の回廊、活気と殺気
「おおおおおぅわぁ!? お、大人しくしねぇか!」
シュルルルル、カチ――シュルルルルルッ、カチカチャ――――!
つかんだ独古杵が、どこまでも伸びていきやがる。
こんなに長ぇのを持ってたら、重さで潰されちま――わねぇな?
どうなってる?
いつもみたいに、伸びても重さは変わらん。
ただ、あまりの長さで、ほんの少し傾けただけで地面にぶち当たる。
ゴガガガガッ――ギャリギャリガギャリィィンッ♪
あぶねっ、水平に戻せ戻せ!
っていうかこれ、手に持ってねぇ方が良いか?
けど――――シュルルルル、カチ――シュルルルルルッ、カチカチャ――――!
放りだすのも、なんか怖ぇし!
巻物に覆われた地面は、この世のものにゃぁ見えねぇ。
こんどこそ、正真正銘の地獄か?
ボッゴガバァァァァンッ――――「いかん、なんかに突き刺さった!」
振りかえる。
山の稜線が砕かれ、その向こうにある赤い月(巻物に巻かれて色は今、見えねぇが)まで砕けた!
解けた巻物の隙間から、四散した月の欠片がこぼれだす。
天と地を貫いて、この世だか地獄だかの理を――駄目にしちまった。
罪悪感が押しよせる。
あまりの恐ろしさに、手を開いたが。
なんでか手から、離れない。
どうすりゃぁ良い?
誰か助けてくれよ。
大食らいの根菜でも、小言を言う棒でも良いからよう。
仕方なく独古杵を、力一杯引いた!
ボッゴガァァァァァァァァンッ――――月ってのはこんなに脆かったか?
巨大な、空一面の満月が、ボロボロと欠けていく。
「やっちまった!」
粉々に砕けた、青い破片が――巻物に巻かれた大地に、降り注ぐ!
ドガンボゴガァン、ズドドドドゴゴゴッゴォオォオォォオオオオッ――――!
「うわぁ!」
落ちた月の衝撃で、大地が揺れる。
足下の巻物が、シュルシュルルルッ!
解れた巻物の隙間から――漆黒が覗く。
「地面がねぇっ!? 落ちる!」
ががぁん――――すんでの所で、棒が巻物に引っかかってくれた。
独古杵をつかむ手に、力を込めるが――シュルルル、じゃきいん♪
ソイツは勝手に元の、巻物くれぇの長さに戻った。
「うわぁぁぁぁぁぁっ――――!!!」
漆黒に落ちていく。
顔のまえ。隅に見えていた、積み重なった地図が現れては消える。
地獄の下には、何があるって言うんだ?
やがて巻物で出来た一面の地面が、見えなくなったころ。
化け猫の体に書かれた文字が、また光った。
右手首から左足まで。
つなげて読んだら――
『いまです。唱えるのです。もう一度、「滅せよ」と』
このまま落ちるだけなら、なんでもやるさ。
「滅せよっ!」
ばがん、ごどん!
「ぎゃ!? 底が抜けた!?」
なんかのソコが開いて、おれはソコから転びでた。
ごろろろおろろっ――――ぽぎゅりん♪
「いってーなっ――ニャン!」
辺りは薄暗いが――――がやがやがや。
なんでか、活気があった。
§
「たのむよぅ、まださっきの怪我のせいか、本調子じゃないんだよー。一時間、いや30分でも良いからさぁ、寝ぇかぁせぇてぇよぉ――ニャン?」
猫の魔物のようなソレに、懇願する黒づくめの制服姿の青年。
猫の魔物への敬意を表したつもりなのか――
彼の頭には、猫耳の飾りが乗せられている。
「みゃにゃごにゃぎゃやー、みゃにゃんやーみゃみゃみゃにゃ♪」
ふぉん♪
『おにぎり>たまたま今ちょうど、間断期にはいったから少しなら寝てても良いんだもの♪』
「ありが――すやぁ――ニャァン♪」
自分にしなだれかかり、即寝落ちした青年を。
猫の魔物は優しく、抱きかかえる。
ひょっとしたら、仲間意識が芽生えたのかも知れない。
♪
♪
♪
「ふみゃにゃごぉー、みゃにゃごにゃや――♪」
♪
♪
♪
「ふみゃにゃごぉー、みゃにゃごにゃや――♪」
猫の魔物に抱きかかえられ眠る、猫耳を乗せた青年。
猫の魔物は、青年の体に魔法を掛ける。
「ふにゃみゃー♪」
どばっしゃぁぁん♪
全身を濡らされても、彼が起きる様子はない――
とても疲れているのだ。
「みゃみゃみゃー♪」
ぼぼわぁぁパチパチ♪
全身を暖められても、彼が起きる様子はない。
とても疲れているのだ。
「みゃにゃみゃー、みゃにゃやみゃー♪」
ぼっふぁぼふぁぁん♪
全身を乾かされても、彼が起きる様子はない。
とても疲れているのだ。
そんな様子を誰かが見たら、ソレは仲むつまじく見え――
「ぎゃぁあっぁっ! て、てぇへんだぁー! 猫の魔物が人を襲ってるだぁー!!!」
背中には大きな籠。
手には小さな枝切り包丁。
山菜か角ウサギでも取りに来た、近隣の村人と思われる。
それから10分もしないうちに――
農具を構えた村人たちに、猫の魔物と青年は取り囲まれた。




