344:龍脈の回廊、なんか居た!
「シガミーさんの痕跡の解析シーケンスは、自動的に進行するので――わたくしも、極力把握しないように努める必要がありますわ。ソチラもそのようにお願いしたいのですが、おわかり?」
女神像の顔を見あげ、淡々と話す少女。
「――んぅ!? なんか変な言い回しねぇ――まるで積極的に、おにぎりを追跡すると不都合があるぅみたぁいぃよぉねぇー、迅雷クーン?」
しゃべる女神像。
「――はイ、そノように聞こえましタ」
しゃべる女神像。
「そう言いましたわ――おにぎりさんに干渉すればするほど、以前のシガミーさんを掌握することが困難になります」
その表情に「くすくす、うふふ」のニュアンスはない。
「――えぇー、もうニゲルを張りつかせちゃったんだけど――?」
女神像の口が、動いているわけではない。
女神像の持つ箱から飛び出した、光る板。
ソコに描かれた――アイコンの口が動いている。
「あらまぁ、あらまぁまぁ、どうしましょう? ニゲルさんは、シガミーさんの事をよくご存じなのですか?」
やはり、口調に反した真剣な面持ち。
「――まぁ、そうわねぇ――パーティメンバー以外でわぁ、一番のぉーお友達よぉねぇ」
「それは不幸中の幸いでしたわ。以後、おにぎりさんに干渉するのはニゲルさんだけで、お願いいたします……けれど」
思案する、行儀の良いシガミー。
「――けれど?」
「おにぎりさんの近くに居ると、危険かもしれませんですわよ?」
少女が発した警告。
それは星の神からの、神託に他ならない。
「――「「「危険!?」」」」
女神だけでなく、シガミー邸の全員が声を上げた。
§
「カヤノヒメさまとお話は、できまして?」
ふたたび動き出した御神体を――鷲づかみにするご令嬢。
「なーんかねぇー、おにぎりのぉそばにぃ居るとねぇー……危険なんだってさぁー」
鷲づかみにされた御神体が、首を傾げた。
「おにぎりのそばに居ると、危険ですって!? ――きゃはぁ♪」
あからさまに破顔し、クルリと一回転。
ドレスの裾がフワリとたなびく。
「お嬢さま、ニゲルとはいえ彼もガムラン町の住人です。お嬢さまに近づく、冴えない男性のすべては――痛い目に合うべきです♪」
同じくクルリと、一回転。
メイド服の裾がフワリとたなびく。
「いやまぁさぁ、曲がりなりにでも、お姫ちゃんの猛攻を退けたんだからさぁ――並大抵のことじゃ傷一つ負わないとわぁ、思うけどさぁー?」
「はイ。お二人トも随分ナ態度デは、有りませンか?」
やや、あきれ顔の御神体と棒。
「えっ――冗談ですわよ、も、もちろん!」
御神体をテーブルに置き、取り繕う令嬢。
「も、もちろんです――奥方さまか、変異種でもなければ、いまの彼を脅かすことは不可能ですし」
身振り手振りで、場の空気をなごませるメイド。
「ニゲルがぁ!? どうしたんだい急に? 随分とアイツを買ってくれてるんだねぇ?」
怪訝な顔の女将。
「それがさぁ、このあいだのクエストでさぁ――またお姫ちゃんのお目々がぁ暴走したときにさぁ――」
「イ、イオノファラーさま――こ、今晩のお食事ですが、何かお好みは御座いますか?」
ガムラン最高LVの女将。彼女に自分の失態を知られることは、為政者で有る令嬢にとって好ましいことではない。
話をそらすため、食べ物で美の女神を釣る伯爵令嬢。
「ふぅ――そうですね。致し方ないので、なんでもお好きなメニューを作って――くださいますわ、女将さんが」
すべてを丸投げするメイド。
「なんだいなんだい? まぁ別に構わないけど――お代はちゃんと頂くよ?」
かるく振られる木さじ。
「それでしたら――カヤノヒメさまの歓迎会も、兼ねましょうか?」
とご令嬢。
「それはちょうど良いですね。近日中に開催の〝ミノタウロースお披露目会の、予行演習〟という名目で食材も自由に使えますし」
計算が出来る小さな板。
それを指先で弾きながら――室内をクルリと見わたすメイド。
「ええっ――お姫ちゃんのおごり!? やったぁっ♪」
跳ねる御神体。
「いつもの連中を呼ぶんなら――オルコトリアの残念会も兼ねてやったらどうだい?」
女将の提案に、「わかりました。コントゥル家宛で請求書を、お切りください」とメイドが答えた。
§
「だれだったかな、こういうのが得意なヤツが居たんだが――ニャ♪」
手近な石ころを持ち上げ、しげしげと眺める猫の魔物。
「いや、こんな小せぇ人間は居ねぇか――ニャァ♪」
石を投げ捨て、作業に戻る。
右手に持つのは、赤い板。
それには出っ張りや切りかけがあり――
左手でつかんだ、同じく赤い板をくっつける。
「これもあわねぇ――一体どうすりゃいいんだ――ニャ!?」
こういうとき、相談できるヤツが――棒みたいなヤツが居てくれると、助かるんだがなぁ。
どこかから現れた、輪っかが付いた棒――「おい、おまえ――ニャ」
もちろん返事はねぇ。あるわけねぇやな。
この板の色をどうにか並べりゃ、何かの模様にでもなると思ったんだが――
結構難しい。
ふぉん♪
『解析指南>まず各色ごとに分けた中で、出っ張りも切りかけもない縁を持つ板を集めてください』
光る板が、目のまえに現れた。
「なんだ!? 文字が現れやがった――ニャっ!?」
手で叩き落とそうとするも、手をすり抜けちまう。
ふぉん♪
『ヒント>四つ角は四つしか無いので、先に当てはめてください』
「またなんかでたっ――――けど、そりゃぁ道理だな。どれ――ニャ」
四枚の板を探し出して、まず四つ角を埋める。
上の二隅は背が届かねぇから、棒を立てかけてよじ登った。
裏返した板は、近くに持って行くと、どういうわけか壁に吸い寄せられ――
ピッタリとくっ付いた。
「なるほど、つぎは――縁に来るヤツから、適当に置いていけば――ニャ♪」
そこからは、あっという間だった。
壁は色鮮やかに埋まり、完成した模様は――
動物の絵柄だった。
§
ぽぽぽぽぽぽぽぽきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅむむむんっ――――♪
ソレはけたたましい音。
耳障りな、空圧作動音。
掘削される層が、岩盤にでも変わったのか――
ガキィン、ガキュキィン、ガッキュキュキュキュリィィン♪
金属質な音が、響き渡る!
「うるさいよ、おにぎり。もっと静かに掘ってく――――――――!?!?」
どっぼごがばぁぁぁぁんっ――――!!
次の瞬間。
ニゲル青年とおにぎり一号は――天高く、舞い上げられていた。
「にゃみゃがにゃみゃー♪ みゃんみゃやにゃー、にゃんみゃやーにゃ♪」
ふぉふぉん♪
『おにぎり>とうとうやったもの♪ ぼくはほりあてるのが、じょうずだもの♪』
首から下げた木の板には、そんな文字。
空中で踏ん反り返る、猫の魔物。
それは掘り当てたことに対する、達成感によるもの――ではない。
「ひょえわひゃほぉーい!?」
空中で慌てふためく、黒い服の青年。
ぽきゅぽふぅーん――がしり♪
おにぎりが青年を、抱きかかえ――
ギュォワァァァァッ――――!!
二人を狙う、直下からの影を――――ぽきゅガッキュン♪
力一杯、蹴り飛ばした!
ズッシィィィィンッ!!!!
地上へ蹴り落とされたものは、物置小屋なら二軒分程度の大きさ。
「にゃみゃぁーご?」
「か、亀ー!?」
巨大亀だった。




