34:大道芸人(幼女)、魔剣(居合抜き)を放つ
剣術に多少の心得があって、いくさ場に身をおいたならぁ――居合のまねごとなら、できるようになる。
できねえやつぁ、生きちゃいねえ。
ましてやおれぁ、前世で錫杖に仕込んだ日本刀で、酒代をかせいでた。
「さぁて、おたちあい。とりだしましたる、この魔剣。ひとたび抜きゃあ電光石火の一刀両断――――」
街道にある茶店や、めし処の客あいてに披露してきたのは、つまるところ大道芸だ。
「――――カカンッ!」
拍子木はおれの合図で迅雷に打たせる。
そら飛ぶ柝のほうが珍しそうなもんだが、〝宛鋳符悪党〟をおもしろがるやつぁ――――ひとりしか居ねえ。
横にわたした角材に、ならべられたのは鋳鍋や酒瓶。
鋳物は切れるやつと切れねえやつがあるが、この鍋は切れるやつだ。念入りにたしかめた。
瓶も割れづれぇのを迅雷にえらばせた。
割れやすいやつだと、かたちが残らなくて、芸にならねえからな。
――――がやがやがやがや。
「(満員御礼ですね、シガミー)」
横一文字にするだけなら、ガキのおれにでもできらぁな――できねえと、こまる。
ふぅーーーーっ、息をととのえる。
型にはまらねえ、もとは手習いの居合。
つまり零の太刀だ。
「七天抜刀根術、零の太刀。」
しずかに吸気。
酒瓶のひとつに、ちかよる。
――くすくすくす。
腰をおとした足さばきが面白かったのか、小さなわらいがおこった。
しかたねえだろ、靴ってのは地をつかむのに向いてねえんだよ。
排気。
みる。目標までの距離と、カタナの長さを確認。
吸気。
もういちどみる。目標までの距離と、カタナの長さを再確認
――くすくすくす。
「チィェェェェ――――」
まあたらしい鞘のなかを、刃先がすべる。
こつりとつたわる、はじめての感触。
前世じゃ、刃先が鞘にあたる事はねぇ。
だがここは来世だ。しかたがねえ。
いきなり曲がった剣を作らせて、それを収められる鞘まで用意してくれたんだ。
こりゃ、むしろ上等の部類だ。
薬指にちからを込め、
刃先をうかす。
「――――ェェェェイ!。」
からだごとぶつかるように、切先をふりぬいた!
――;――――ザッギィィィィィッン!
切先がいつまでも鳴っている。
まっぷたつにした酒瓶が宙に浮いている。
迅雷が内緒話をしてるわけじゃねえ。
これは、仏門に入るまえにならった、剣術の修行の成果だ。
「っぷぅーー!」
息をととのえる。切れた酒瓶が――地に落ちた!
ヒュヒュッ――振り抜いた刀の向きをもとにもどす。
鞘口にあてた刃はうごかさず、鞘をもちあげ納めていく。
スゥゥゥゥゥゥゥ――チャキ!
納めたカタナを腰の革紐におしこむ。
ちょっと長めでも、せいぜい一呼吸だ。
見せもんとしちゃ、ちと趣がねえ。
「(おい、やっぱり地味だったか?)」
「(はい、元和元年の日の本の国より、この世界の剣術のほうが身近なようですので――)」
ならいっきにやって、煙にまくとするかぁ。
腰をおとしたまま、つぎの標的に正対する。
「チィェェェェェェェェイ!。」
小さめの壺。ガキュ!
「チィェェェェェェェェイ!。」
大きめの壺。ザッシュ!
足さばきで、笑うヤツが居なくなった。
「チィェェェェェェェェイ!。」
鋳物の鍋。ザギィィィン!
よし、ちゃんと切れた!
「チィェェェェェェェェイ!。」
さいごはまた酒瓶。シュギィン!
かららん、がちゃがちゃん!
切ったモンの上半分だけが、地面におちる。
よーし。もんだいねえ、切れた切れた。
「(お見事です、シガミー)」
おう、刀の仕上がりは上々だぜ。
そして、やっぱりこの体の切れはすげえな。
体力がねえからなにやってもすぐ疲れちまうけど、こと〝体現〟することにかんしちゃ前世のおれよか――――なんでもできる。
チャキ!
刀を完全に鞘におさめた。
割れたやつが散乱し、角材の上には、その半分がきれいな切り口のまま並んでる。
「な、なにがおきたのだ?」
「まほう? 風のまほうなの?」
「シガミー、また驚かせてくれたな」
お? ちいとはうけたか?
おれはレイダをみた。
さっきのおれのしゃらあしゃらした仕草を見たときと、おんなじ顔をしてやがる。
「(おい、どう思う? あのジットリした目は、どういう意味だ?)」
「(判断材料が不足しています。それでも見世物として、華がたりてないと推測できます)」
おなじ武器なら、大筒とかのが見栄えがすっからなあ。
「いょおぉーし! じゃあ、さいごの大一番は、派手にやるかぁ!」
どかっ――――ぐわらららっ、がっしゃ、ごしゃぱりぱりぃーん!
自慢げにならぶ両断された鋳物や瓶を、角材ごと蹴りとばした!
最後にのこったのは一番かてえらしい、盾だ。
ふつうに切っても、切れねえかもしれねえ。
おれは、とおまからかまえる――――カッカッカッカッ、カカカカカカカカッ、カカンッ!
「いくぞおらぁ、七天抜刀根術、零の型。」
〝全部入り〟で、たたっ切ってやる!
とおくでレイダが、なんか言ってたらしいんだが、集中してたおれにゃぁ、聞こえなかった。
電光石火/ごく短時間。動作が素早いこと。
一刀両断/一太刀で二つに切ること。
拍子木/うちあわせて鳴らす二本の柱木のこと。柝(たく)。
鋳物/溶かした金属を型に流し込んで作ったもの。
仏門/仏の説く道。出家。
鞘口/刀の鞘のつばが付いてるところ。
大筒/戦国時代の大砲。または、竹で出来た大きな酒筒。




