332:龍脈の回廊、シガミー探索四日目
「それで、シガミー探しは、どーなってんだ?」
「まだ、音沙汰無しなのですわよね? さっき見てきたら、踊り続けていましたわ」
「はい、おにぎりが捜索を始めてからは、シガミーと会話も出来なくなってしまいましたし」
「まさか、このまま帰ってこないなんてことは……うぅ、ぐすん」
「「あー、泣かない泣かなぁい。大丈夫ぅ大丈夫ぅ、なんせ美の女神であるあたくしさまたちがぁ付いているのですからぁ――なんとぉ二匹もぉ♪」」
「イオノファラー、せメて二体、もシくは二柱ト数えてクださい。そレと、同期ロスが発生していマす」
「あら、みなさま。どうなさったのですか、こんな所でニャン♪」
二重に立てた衝立の、上から覗く――猫の耳。
「「ぎゃっ、見つかった!」」
おどろき飛び跳ね、尻餅をつく御神体。
金糸の髪をなびかせ現れたのは、給仕服姿の――
カヤノヒメニャン。
角のように生えてきていた木の枝は――
頭に乗せた猫耳を避けるように、うしろへ折れ曲がっている。
ぎっちりと編み込まれた見た目は、樹皮が白いのもあってまるで――
「お出かけするときの、リカルルさまみたい♪ カワイイっ!!」
はしゃぐ子供。
「そうですわね、木の幹というか角というか、上手に隠せていますわね♪」
「うふふ、くすくす、ありがとうございますニャン♪」
研修中の丸札も取れ、猪蟹屋二号店を店長以上に切り盛りする――やり手美少女である。
ここは猪蟹屋二号店店内に、設えられた区画。
まるで貴族のダイニングか、高層階にあるクェーサー家作りつけのテーブルのような。
やたらと長いテーブルが、二脚並べられている。
「イオノファラーさま方、同期に遅延が生じていますわ。念のためクイックセーブして、同期し直すニャン♪」
「「あー、クイックセーブねぇー、あれさぁーなぁーんかさぁー、キュピキュピって変な感じするからさぁー、また今度で――」」
テーブルから飛びおりる御神体。
その影に、もう一匹……いやもう一柱の姿が、見え隠れしている。
コン、コトン♪
お盆で受け止められる、御神体。
その音は、二つ重なっていた。
「「くそう、さすがはシガミーの体にぃ、星神のぉ中身ねぇん……に、にげられなぁい!」」
スッと持ちあげられた、お盆の上。
ポコポコンと座りこむ、御神体ズ。
「我慢しテください、イオノファラー。シガミー探索のタめの仮想環境ヲ維持しなければなりマせん」
ヴォォォン♪
獲物を逃がすまいとするかのような、飛ぶ棒の機動。
「カヤノヒメ名義でイオノファラーさま方をCTRL+Sニャン♪」
美少女カヤノヒメが――ぱちんっ♪
指を鳴らすと――
「キュピピピッ――!?」
「キュピピピッ――!?」
双子の生きた丸茸がパタリと倒れ――そのうちの一匹が、光る霧に包まれて消えた。
カララララァン――♪
ご来店を知らせる、鈴の音。
くるくるん♪
テーブルの上で軽く回されるお盆――コト、コトリ。
そっと置かれる女神御神体(視認可)と、仮想化女神御神体(視認不可)。
「おかえりなさいませニャ――ン♪」
ご帰宅したお主人を出迎えるため、すべるように姿を消す、超絶美少女カヤノヒメニャン。
「おい、ありゃぁ――リオレイニアよか、板に付いてるんじゃぁねぇのか?」
本日は金槌なしの工房長。
作業着でもなく普通のさっぱりとした服装。
「ふふん♪ まだまだですわよ。本気を出したレーニアニャンの可憐なことときたらもう♪」
血色ばみ、興奮するご令嬢。
「そうだね! ポイントカードが溜まると描いてもらえる、あの小さい絵は、リオレイニアさんと一緒のが一番多いもんねっ♪」
「もう、やめてください、リカルルさまも、レイダもっ!」
ヒラヒラと舞う子供の手を、ギュッと押さえるメイドさん(元侍女長)。
「ガハハハ、〝魔神〟も形なしだぜ、こりゃ――――♪」
「ノヴァド工房長? いつまでもこんな所で油を売っていて、平気なのですか?」
ヒュォォォォ――――!
冷気を受けたレイダが、身を震わせる。
「おっと、いけねぇ。じゃ、じゃぁ、シガミーのことぁ頼んだぜ!」
ピューっと店の通用口から、走り去ってしまう工房長。
店員用の通用口から「ノヴァドはどうしたんだい? あわててたけど……」
と入れちがいに、出てきたのは――
「あら、ニゲル。ちょっとコッチにいらっしゃいな♪」
お嬢さまが、たまたま通りがかったらしい黒い服装。
二号店店長の青年を、気安く呼びつけた。
「り、リカルルさまに、みんなも来てたの?」
うしろ頭をかきながら、やってくるのは――
頭に猫の耳を乗せた、頼りがいのなさそうな。
腰には安そうな剣が、携えられている。
「ええ、シガミー探索の経過報告をしていましたのよ。良ければアナタも参加なさいな」
命令する伯爵令嬢。
やや派手な、裾長で大人じみたドレス。
「はい、仰せのままに」
うやうやしく首を垂れる青年。
自分の分のカップを持ち、着席しようと――
「あら、これはこれは、ルリーロお嬢さま♪ 本日はポグバードとムシュル貝が手に入りましたので、ダイニングへご案内いたしますかニャン?」
カヤノヒメの鈴の音が、店内に響き渡る。
「えぇー、そぉうなぁのぉー? じゃあシェフのお任せコースでぇー、二名様ぁご案内ーっ♪」
そんな舌っ足らずな声に、顔をしかめるご令嬢。
長テーブルのある一画まで、その声が届いたようだ。
衝立の向こうから、姿を現したのは――
「あらぁ、みなさまもぉー、来ていらしたのぉねぇぇー♡」
質素なドレスに、魔法の杖。
ただし、山菜のような形が束になっておらず一本きり。
本日は杖も質素なようだ。
「みなさま、ごきげんようらぁん♪」
おなじく質素なドレスに身を包んだ、連れの女性が現れた。
馬の人形のようなものを、沢山くっつけたb彼女をみるなり――
「――――っ!?」
がたん――――カチャリ。
鳴るカップ、姿を消すニゲル店長。
「あら、ラプトル姫さま、ごきげんよう♪ ニゲル、ちょうど良いですわ、アナタにお話が――――あら?」
キョロキョロと、あたりを見わたすご令嬢。
不意に伯爵夫人の顔が、天井を向く。
一斉に上を向くと――天井に張りついていたのは、黒い制服。
「ちっ――さすがは奥方さまだっ、逃げられない!」
ッチェェェェェィィィィ――――――――ばたん!
天井を逆さまになって駆けぬけ、換気ダクトへ飛びこんでしまう店長。
「ぴゃ、ぴひゃらぁぁぁっ――――ららぁぁん!」
その場に崩れ落ちる、央都自治領第一王女。
「あー、泣いちゃった。王女さま――」
たたたたと、駆けていくレイダ。
「お待ちなさい、ソレは布巾ですよ!」
子供を追いかける給仕服姿。
「まったくもう、ニゲルってば。お二人には一度、きちんと話し合って頂かなければいけませんわねぇー」
お嬢さまが音もなく、紅茶をすすった。




