328:惑星ヒース神(シガミー)、仮想化シシガニャン起動
「一体何をしたのっ――――!?」
神としての神格を目の当たりにして、ひるむ丸茸。
「くすくす、二号さんの内装をそっくり、稼働中の十号に換装しただけですわ」
「その心わぁ――――!?」
「シシガニャンの内装があれば、シガミーちゃんの様子がわかりますでしょう? くすくす♪」
説明する少女。
「十号ってぇ吹き飛んだはずじゃ!? どういうことっ!?」
おののく御神体。
「驚くべきことデすが、仮想実行環境にテ――特撃型十号が再起動しマした」
一号に投げ捨てられたINTタレットが、ヴォヴヴォンと戻ってくる。
ふぉふぉふぉぉん♪
『<仮想シシガニャン接続>』
猫の置物の画面を流れる文字は、とても大きく読みやすい。
「では、おにぎりさん。お願いいたしますわ♪」
フライングディスクのように――――ジャラララッン♪
ヒュルリと投げられた、女神像付属品。
うしろも見ずに――すぱんっと受けとる、強化服一号。
ジャララララッ、タタタタァン――チャリィン♪
ぽっきゅきゅきゅむ――ぽきゅぽん♪
複雑な演奏に、奇怪な舞踏。
「なんだぁぁっ――!?」
「足っ長いっ――変なのっ♪」
「まさか、女将さん直伝の古代魔術!?」
驚くギャラリー。
「迅雷クーン、たしか古代魔術ってさぁ。カブキーフェスタでぇ女将さんが腕を振るった……大道芸よねぇーん?」
目を皿のようにする御神体。
「はイ。攻略本に寄レば、文様魔術ト呼ばレる旧式ノ生活魔法でス――が、魔方陣が出現してイないので……単にコイン投入後、ボタンヲ押しただけと思わレます」
同業他社であるカヤノヒメの神格を、推しはかるのに余念のない、女神の眷属。
ピロピロピロロロッ――猫の置物がきらめき。
黒板の真ん中に――ヴォポコォヴン♪
現れたのは――『(^10^)』
「猫の形ぃー? かわいい♪」
「10って書いてありますね?」
「ガハハハハッ――さっぱりわかりゃしねぇ、誰か説明してくれや」
ふぉふぉん♪
『(^10^)>>>』
猫マークが震え、通話中をあらわす波模様が出る。
「みゃにゃにゃぁーご? みゃにゃぁー♪」
聞こえてきたのは、猫の共用語だった。
§
「(■■み■さぁん)」
なんか、聞こえた気がしないでもない。
「だぁかぁらぁ、おれぁ、死神じゃねぇって言ってんだろうがぁ」
ぽっきゅぽきゅぽきゅぽきゅ――ぽぎゅぽぎゅ♪
たちどまると――カカカカカァァァァッ!!!
化け猫の手が、光りだした。
固結びにした方だ。
あまりにも眩しいから――腕を背中に隠し、目を閉じた!
「おさまったかな?」
手を戻すと――なんでかしらねぇけど。
白い腕が、くっ付いてた。
結び目もなくなってて、両腕の長さが同じになった。
「どういうこったぁ!?」
その手には、文字が書かれていて――
『アナタの名前はシガミー。』とか『美しい女神さま、イオノファラー。』とか、訳のわからねぇことが書いてある。
「けどこれで、走りやすくなるな♪」
腕を振ってみる。
「(■■み■さぁん)」
またなんか、聞こえた気がしないでもない。
カカカカカカカカッカカカカカァァァァッ!!!
今度はまえぶれもなく、全身が光り出した!
化け猫の中も外も、まばゆい光で満たされる!
体まで光られちゃぁ――隠す手だてがない!
ぐわぁくるしい!
くるしいくるしい!
お山の修行だって、ここまで酷いことはされなかった!
おやまってのはなんだったか――――まぶしいまぶしい!
「びゃぁっくしょい、へくしょぉーい!」
耐えられなくなり膝をつく――――あ、あの血の池のぬかるみに潜れば、このまぶしさから逃げられるんじゃねぇか?
そう思って走りだしたら――――フッ!!!!!!
こんどは逆に、全てが黒く塗りつぶされた。
ぷぴぽぽーん♪
「ハッ■閉■を■認、■ッチ■鎖を確■――気■保持開■し■す」
耳元から、すっとぼけた女の声がした!?
ヴュパパパパッ!
なんかの絵が顔の前にあらわれ――チチチピピッ♪。
小鳥の鳴き声がしたと同時――
ごごごごおぉぉぉぉごごごごごごごぉぉぉぉぉぉぉうぉおぉっ――――!
「こりゃぁ、そとの風音か!?」
外の音が、よく聞こえるようになった。
というか――
「みゃにゃにゃぁーご? みゃにゃぁー♪」
なんだこりゃ、猫の声までしやがるぞ!?
「どーなってやがる!?」
けどそれでも、腕の先がくっ付いて――
外の音……たとえ風音でも聞こえるようになったのは――
なんだか嬉しかった。
「シガミー■ーん♪ 聞こ■■すかぁー? わたくしでー■、おはつにお目に掛かりま■ー星の神です。コチラでは、カヤノヒメと呼ばれていますーう♪」
目のまえに、光る板があらわれ、その中に小さな人が閉じ込められている!
「ありゃ?」
この鈴の音のような声と、つぶらな瞳の女の童の姿には――
見覚えがあった。
§
テーブルが二つ、くっつけられた。
その片側、並んで座るのは――
金槌を携えた、鍛冶工房工房長。
頭から立派な立木を生やした子供、自称星の神。
仕立ての良い給仕服姿の、女性。
その女性は、鳥の仮面を付けており――
星の神とは別の子供を、膝の上に乗せている。
そしてもう片側に座るのは――
黄緑色で顔のない、猫の魔物。
そのかたわらには、猫形の置物。
「シガミー、大丈夫なのぉ!?」
「ひとまず生きちゃぁ、いるんだろう!?」
心配する少女と男性。
「コレを生きてるってえぇ、言えるのかしらねぇん?」
テーブルの上、仁王立ちの御神体。
猫の魔物一号の腹に浮かぶ――『通話中』。
その文字によるなら、おにぎりの顔の中を――
切り取るように映し出している――
丸い光の向こう側には――
「通話相手でアるシガミーノ魂が、映シ出さレているハズでス」
ふたたび猫の魔物に捕らえられた、女神の眷属棒が解説する。
通話機と化した猫の魔物の穴の中には、何も見当たらない。
うしろ頭を支える構造が、見えているだけだ。
「みゃにゃにゃやーご、みゃにゃやーごにゃ?」
目に見えない通話相手が――猫の鳴き声を発した。




