324:惑星ヒース神(シガミー)、お行儀が悪い方のシガミーと神々のちゃぶ台
「ふぃー、かれこれ三日四日は、走り続けてるんだが――見当も付かねぇなぁー」
ぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅむん♪
霧の中を一直線に走る――猫の魔物。
ぽごぎゅむっ――――!?
ときおり、なにかにぶつかっては――
進む方向がズレてしまい、赤いぬかるみに沈む。
「っつぁ、ごぼがぼっ――いけねぇやぁ! あがれあがれぇ、底なしの血の池地獄だっ!」
ぽきゅぽきゅどさりっ――♪
あおむけになるも、あたまが大きくて――
自然と血の池を見つめてしまう、猫の魔物。
「まったく何に、ぶつかってるんだろうなぁ――影も形もねぇ何かにいちいちぶつかっちまう」
ぬかるんだ赤い水が――すっと乾いていく。
足下までペタペタと続く猫の足跡も、光を散らしてかき消える。
「くそぅ、足跡のひとつでも残っててくれりゃぁ――進む目印に出来るんだがぁなぁぁっ!」
じっと短い毛皮の手を見つめる、猫の魔物。
ぬかるみに沈んだ所は、血色のように赤く染まっている。
「コレ、ひょっとしたら……首から下だけが、赤く染められてんのかぁ? 最初は白っぽい色をしてたからなぁ」
体をよじり背中を見やると――肩口から背中にかけて、白地が残っている。
「だとしたら、いっそのこと頭から突っ込んで――真っ赤に染め上げちまった方がいいかもしれんなぁ……けどそのまま浮かんでこれなかったら、終わりだからなぁ」
頭を抱える、猫の魔物。
「それとコレ、なんとか治らねぇもんかなぁ」
肘を固結びにした部分を、ブルブルと震わせ――
じぃぃっと見つめる、血塗れの魔物。
「おい、治れ。おれの腕め、治りやがれ!」
ぼっぎゅぼっぎゅぼぎゅぎゅぎゅっ――――♪
動く方の手で固結びを、べしべしとひっぱたく。
「治るわけねぇんだが、なーんでか治りそうな気がするんだよなぁ」
ごろぉーんと霧の中に倒れ込み、だらける猫の魔物。
その大きな頭を支えていた腕枕が――ぞぶり。
倒れ込んだ方向が、悪かったらしく――また血の池の底なし地獄へ。
ばっちゃばちゃっ――「ごっぼがっばへ、うひゃへぇーい!」
こんどは頭からぬかるみへ、突っ込んでしまった体をおこし――
またもや走り始める、猫の魔物。
「危なかったけどコレで、全身が赤色に染まっただろ……自分じゃ見られねぇけどなっ♪」
そう思ったとき――――ヴッ♪
魔物がちいさく、跳び上がる。
「うひゃわぁっ――くすぐってぇなっ、指先が何だか震えやがったぞ!? 蜂でも入っちまっ――」
――――――――どっがららぁん!
魔物が大きく、跳び上がる。
「こんどは何でぇいっ、やかましい!? 何か落ちたみてぇだがっ!?」
音のした方を、じっと見つめるも――
「霧が晴れやしねぇから――なにもみえねぇってんだ!」
猫の魔物が、イライラしている。
そぉーっと、音のした方へ進むと――ガチャ!
「んむぅ!? なんか有りやがるぜ?」
足先をそぉっと伸ばし――ぽ――きゅ――り――ん♪
ガチャ、ガチャ、ガリガリガリッ!
足で落ちてる何かを、たぐり寄せ――ぱしん。
つかみ上げたソレは――!
「こいつぁー、小太刀じゃねぇか! 誰んだぁ!?」
あたりを見わたすも、返事はなく。
霧がどこまでも続いている。
§
「爆心地に居た、あたくしさまのぉープロジェクションBOTとおー、決定打を放ったぁ特撃型シシガニャン十号がぁー、跡形もなくなったのねぇん?」
ちゃぶ台の上。大きめの黒板に、映し出されているのは。
『閃光を放つ、まるい球と――
ソレに、手刀をたたき込む――
猫の魔物』
「はイ、そのようデす。ソれと召喚の塔の瓦礫と、仙果とご神木の根の一部を消滅させました」
画像が切りかわり、『丸くえぐれた大穴』を映しだした。
「我ながらぁ、碌でもない破壊力わねぇー。シガミーとか天狗が戦えないときの、変異種討伐に使えそうじゃね?」
超女神像のサンダル履きの、カカト付近。
ちゃぶ台を囲む、車座の顔ぶれは――
美の女神御神体を含め、約四名。
「わたくしは、戦えますわよ? なにせ惑星ヒースの、すべてを司る星神ですので、うふふふ♪」
たおやかな仕草。年の頃は10歳ほど。
自称、星の神――
猪蟹屋オーナー店主にして、美の女神の使いの聖女シガミー(カヤノヒメ)。
派手な色の帽子には、獣の耳の形。
その下には、〝ねじれた小枝のような角〟が生えている。
彼女の弁によるならば、彼女は〝星神〟であるらしい。
「そういやぁ前にシガミーが、この金槌の中にも神さまがいるっていっ
てたな。俺ぁなるほどなぁって思ったぜ♪」
巨大な鉄塊によりかかる、小柄な男性。
彼もしくはシガミーの弁によるなら、鉄塊のような金槌にも神が存在していることになる。
「私も央都の初等魔導学院へ通っていた頃、〝魔神の再来〟なんて呼ばれたことがありましたわね」
白い鳥の仮面を付けた給仕服姿が、とおい目をしている。
彼女の弁によるなら、彼女は〝魔神の再来〟であるらしい。
日も陰りつつある、超女神像の間。
高窓から差し込む日の光が、壁の大時計に影を落とす。
現在時刻は、午後4時すぎ――
ツナギ姿の王女殿下が、超女神像改修を行ってから数時間後。
超女神像のサンダルから引かれた、細いケーブルが――
ちゃぶ台そばに置かれた装置に、繋がっている。
ソレは、木さじ食堂に設置されたのと同型の――ジュークボックスだった。
ふぉふぉん♪
『龍脈通信プロトコル>私はマナにより構成されたネットワーク上に、顕現した神的存在αです。何なりと質問してください。』
その化け猫の、顔の表示部分。
表示された文面によるなら、このジュークボーックスは今――
神格を有す、高次存在と化していることになる。
「んなぁあん? なんだかぁこのちゃぶ台、神さま率がぁ高いわねぇん?」
ソレはちゃぶ台の上、ちいさな座布団に鎮座ましました――
猪蟹屋御神体にして美の女神、イオノファラー神の戯言だったが。
ちゃぶ台はまさに――神々の坩堝と化していた。
美の女神、星神、金槌の神、魔神、神的存在α――「にゃみゃぁご♪」
「あんたわぁ、違うでしょ――ぺちり!」
何気ない一言が――のちのち真実と化すことは、往々にしてあるものだ。
黄緑色の猫の魔物みたいなヤツに、反撃を喰らい――ぽきゅむ!
美の女神御神体が、超女神像のふくらはぎに――ズガァァンッと突き刺さった。




