314:惑星ヒース神(シガミー)、ニャミカと鑑定機
戦利品は、ぜんぶで八つ。
1:未鑑定の箱
2:未鑑定の曲がった長剣
3:未鑑定の小物
4:未鑑定のちいさな茸
5:未鑑定のおおきな茸
6:未鑑定のマジック・スクロール
7:未鑑定のマジック・スクロール
8:未鑑定のマジック・スクロール
「じゃあ一回、1キーヌになりますニャ♪」
指先をこすりあわせてから、てのひらを差し出す――
『喫茶店ノーナノルン店員』
「ふぅ、いいですわ。私のポケットマネーから出します――」
ぺたり――手のひらに金貨が一枚、乗せられた。
「1キーヌなら……ぼそり……ぼくも鑑定してもらおうかな?」
腰の剣に手をのばす、制服姿の青年。
『猪蟹屋二号店店長/ニゲル』
立て札によれば、この会議室の有る店舗の責任者のようである。
会議が始まってから、ずっと床を見つめていた彼が興味をしめすほどには――破格の鑑定料金らしい。
「――そのかわり! これ厳守な・さ・い・ね?」
立て札をつかんで――くるり。
『※私はココで見聞きしたことを、口外しないことを誓います。』
注意書きの部分を、目のまえにかざされる喫茶店店員。
「にゃーぅ?」
じっと見つめ合う、狐耳議長と猫耳店員。
チャリ♪
重ねられる金貨。
「にゃやーぅー?」
チャリリ――さらにもう一枚♪
「まいどありニャァーン♪ 誠心誠意、鑑定させていただきますミャ!」
ビードロのついた調度品越しに――チーン!
未鑑定の箱を見つめたと思ったら――
――――かしゃん♪
調度品の上の隙間から、板が飛びだした。
板は強くひっぱると、スポンと抜けて――シュゴッ♪
映し出されていた文字が、焦げ目になって焼き付いた。
それによれば、この未鑑定の箱は――
『積王の研箱【亡】
詳細不明だが、希代の役立たず(アーティファクト)。
装備条件/LV100』
「んなっ!?」「役ただず?」
「ふぅ、やはりギルド長を、お連れしなくて正解でしたわー」
「そうだなぁー、ギルド長は……こういうゴミに目がねぇからなぁ」
「そういえばコレと似たヤツをカラテェーが、隣町のギルドでもらってったニャ♪」
「カラテェーが?」「とすると、なにか使い道があるのかも――」
「使い道なんて無いミャ、きっと呪いのアイテムだって話ニャ!」
「「「「「呪いのアイテムっ!?」」」」」
逃げる、会議参加者たち。
逃げずに座ったままなのは、ニゲル青年に第一王女の二人きり。
ニゲル青年の顔を見た、第一王女の口がひらい――――
「ボクぅ、仕事がぁあるぅからぁー!」
椅子から立ち上がりもせずに、姿を消し――
ザッギィィン――――ゴガッ、ゴドォン!
店側の壁を一刀両断。
ホコリひとつたてずに穴を開けて――逃げて行ってしまった。
「に、ニゲルさまがぁ、にげたらぁん、ぴ、ぴゃぁぁらぁぁ♪」
泣き出してしまう一国の王女。
「ラプトル姫さまはまるで、お変わりありませんのねぇ? タター、王女さまを当家のゲストルームへ、ご案内して差しあげて?」
「かしこましました、お嬢さま――ラプトル王女殿下、大変お疲れのことと存じます。まずは部屋着にお着替えなさいませんか?」
「ふゃららぁぁー、ぐすん――着替えるらぁん」
形だけだった拘束を解かれた第一王女が、『ネネルド村のタター』によって連れられていく。
青年があけた穴は、そのままドアをはめ込めるほどに垂直水平に断ち切られていた。
「王女さま、お手をどうぞ」
「ありがとうらあぁん、ぐすん」
侍女と王女がとおり抜け、店内へ通じる通路へ消えていく。
半透明の美の女神が――ため息をつきながら、パチリと指を鳴らす。
穴にはドアがはめ込まれ、仮眠室側と厨房側へ通じる壁にもドアが設置された。
「この先は、内緒にするような話でもないでしょぉぉん?」
「そうですわね、ではこの呪いの……いえ、つかい道のない箱は、引きつづき迅雷が預かってくれますか?」
「はい了解しました。カラテェーがもどり次第、確認を取りマす」
「それじゃ、どんどん鑑定するみゃぁ――――!」
――チーン!
折れた剣を見つめ――かしゃん♪
調度品は鑑定するための機械、つまり鑑定機であるらしく――
飛びでた板を、スポンと引っこぬき――シュゴッ♪
鑑定結果が、板に焼きついた。
『結び目の長剣【――】
攻撃力1326/――――
――――――
――――――、――――』
「結び目ってなぁ、なんだぁ?」
「わっ、これ――この剣、折れ曲がっているのではなくって、固結びにされていますわぁ!?」
「さっきの箱に続いてぇ、大はずれみたいですわねぇ? くすくすくす、くつくつくつ、ココォォォン♪」
わらう伯爵夫人。
「ガラクタばっかり……ねぇん」
肩を落とす美の女神。
「さぁ、お次ニャ――あれ? 板がなくなったミャ?」
「ニャミカ、これ使ってコォン」
狐耳の少年が、カバンから取り出したのは――
紙に包まれた――四角いもの。
猫の耳の喫茶店店員が、ソレをバリバリと破くと――
出てきたのは、十枚程度の薄板。
板の束には、ちいさな値札が貼られていた――
『十枚/30パケタ』
「ギニャッ!? この板は、こんなに高いのミャッ!?」
猫耳女性の落ちた顎が、いつまでも戻らない。
その目尻に、涙が浮かんだ。
「こ、これじゃ、割に合わないミャっ!」
ポケットから取りだしたのは、さっきうけとった金貨三枚。
「はいはい、じゃあその板の代金わぁー、美の女神であるあたくしさまがぁー、持ちますぅーよぉー♪」
半透明のあたまが、空飛ぶ棒に向けられる。
「本当ミャッ!?」
耳をピンと立て、よろこぶ喫茶店店員。
「女神に二言はありませんよ、ウケケケケッ♪」
銀色の棒が、ちいさな革袋を――ガチャリとぶらさげ、飛んで行く。
「毎度ありにゃ――じゃぁ、のこりを鑑定するミャ!」
革袋を受けとった彼女が、板束をカシャカシャとセットしていく。




