313:惑星ヒース神(シガミー)、王女の謝罪と戦利品
「ららぁぁん!? はい、わ、わたくしもすでに投降した身です、正式にごめんなさいらぁん。まさか猫の魔物たちの中身が、女の子だったなんて知らなかったものだからららぁん!?」
椅子の上で諸手を挙げて降伏する、眼鏡をかけた王女。
いきおいあまって、木製の手桎がパリンと割れてしまう。
拘束は形だけのようだ。
「良いでしょう、正式な謝罪を受け入れます」
「ほんとぉうらん? リカルルさまっ!?」
「イオノファラーさまの大爆発に巻き込まれていた可能性も考慮すれば、妥当な線です。もっとも――すでにコントゥル伯爵と自治領王家との話は、付いていたようですが?」
目線と狐の耳だけが、伯爵夫人の方へ向けられる。
「は、はぁい。ちゃぁんとラウラルと、ルスモンド君、双方のサインをもらってありますぅー!」
伯爵夫人が懐から、取りだした巻紙。
「確認して、いただけるかしら?」と念を押す、狐耳の伯爵令嬢。
その瞳には、月夜の静けさが宿っている。
射すくめられた王女の口が、開かれた。
「は、はい、お父さ……王様のサインに相違ありませんらぁん!」
ひろげられた文書の末尾には、たしかに2名の代表者名が書かれている。
「では、この件もココまでとします。つぎの議題へ移りますが、イオノファラーさま、例のものを――」
「はいはぁい、迅雷♪」
ヴォォオォン♪
銀色の棒がクルクルと、テーブルの上を踊る。
ヴヴッヴッヴッヴッヴッヴッヴッ――――コトコトコトゴトン、ポコン、ぱさ、ぱささっ♪
テーブルに並べられていく、多種多様なガラクタ……箱に曲がった長剣に……大茸に……巻いた紙のような物。
「これがぁ今回のぉ火山ダンジョンクエストのぉー、戦利品でぇすぅ♪ このほかにもぉー、ミノタウロースの素材とか山のように手に入ったからぁ、一部は競売に掛けまぁすぅー。ほらエクレアの結婚祝いも兼ねてるしさぁ♪」
「なに!? ミノタウロースだとぉ――――現存したのかっ!?」
厳つい小柄な職人が、叫ぶ。
「いたんですよねぇー、コレがさぁー♪」
「ハい、シガミーはとても勇敢でシた。やはり一度は死亡しましたが、57回切り結んだ結果、とうとう撃破せしめましタ」
「「「「「「「えっ、死んだぁ!? その話は、聞いてないんだけどぉ!?」」」」」」」
「はイ、シガミーと私の全力を以てしても、ミノタウロースは強敵で――」
「っていうか、あたくしさまも初耳なんですけどぉ――!?」
カシャ――『(lll゜Д゜)』
顔を青くする、浮かぶ球。
「くぅぅ、駄目だぜ! シガミーの嬢ちゃんが、命がけで手に入れた物を――そんな大事なもんを、俺たちが勝手に扱って良いわけがねぇ!!」
『職人組合代表/鍛冶工房長ノヴァド』
そんな札を倒し、興奮する職人代表。
「それじゃぁ、全部ギルドの金庫に保管しておくんですかぁ? シガミーちゃんなら、「それで良い武器をたくさん作れ」って言いそうですよぉう?」
『シガミー担当リオレイニア代理/ネネルド村のタター』
そんな札を小さく持ちあげ意見する、給仕服姿。
「そうねぇー、ひとまず全素材の半分をシガミーにくれないかしら? のこりは別途協議して、そうね――あとで町の全工房へ優先的に安価販売するのでわぁ、どうかしらぁねぇん?」
半透明の女性が、意見をかさねる。
「シガミーの取り分が半分ってのには、賛成だ。けど安くってのは無しだぜ。適正な市場価格でぜひ、買わせてもらう!」
くぅ――目尻に涙を浮かべた、職人装束の男性がテーブルをゴドンと叩いた。
「コントゥル夫人も、それでよろしくて?」
『ガムラン町代表兼冒険者ギルド受付嬢代表/リカルル・リ・コントゥル』
出し忘れていた立て札をコトリと置く、受付嬢代表兼議長。
ゴドガチャン♪
ひとかかえは有る、革袋。
音から察するに、中は金貨だ。
「そちらは?」
「ギルドにぃ渡してぇあるぅ、成功報酬とぉわぁー別にぃー、金貨で250枚! クエスト参加者への追加報酬でぇーすわぁぁん!」
「ヒューゥ♪ 相変わらず豪気なもんだぜ!」
職人代表ノヴァドが口笛を吹いた。
「ただし、クエストの目的だったコントゥル家家宝に匹敵するぅ〝一式装備〟を期限は設けませんがぁ、所望いたしまぁすわぁ!」
狐耳の伯爵夫人が宣言し――
「まあ、装備を作るのはカラテェー君だし――よろしいのではないかしら、イオノファラーさま?」
狐耳の伯爵令嬢である議長が――話を引きつぐ。
「そ、そそそそそそ、そうねぇーん。よ、よよよ、よろしいのではなくて、ねぇ迅雷君?」
目や半透明の体を泳がせ、眷属である空飛ぶ棒へすがりつく。
「はイ、イオノファラー、問題ありません。ですが天狗と烏天狗の両名は――現在、火山ダンジョンおよび、魔王城周辺の念入りな探査に出かけておりますので、もどり次第と言うことになってしまいますが?」
「そう、そーだったわねぇー! 烏天狗君がもどり次第ってことなのだけれどもぉー?」
もみ手をして、伯爵夫人の顔色をうかがう美の女神。
「はぁい、構いませんわぁ。でわぁ、そのように手配おーお願いいたしますねぇー♪」
満足したらしい夫人が、指先で金貨袋を弾くと――――ゴッシャ!
軽々と、まるで紙くずのようにふっとぶ袋。
金貨は、議長兼受付嬢代表のまえに――ゴガッチャリン♪
「ではたしかに、お預かりしますわ――すぽん♪」
収納魔法具らしい、小さな手提げ金庫にソレをしまう。
「ではさいごに、手元に有る物だけでも鑑定して、本日はお開きに――」
金庫を腰のベルトに仕舞う、ガムラン代表にして受付嬢代表。
伯爵令嬢リカルルの、話の腰を折ったのは――
「やっと出番ニャ! 殺ってやるミャー♪」
猫の耳をあたまから生やした、若い女性。
『喫茶店ノーナノルン店員/ニャミカ・ミャニラウ
※私はココで見聞きしたことを、口外しないことを誓います。』
そんな立て札を吹っ飛ばし、満を持して取り出されたのは――
まるいのぞき窓が埋めこまれた調度品だった。




