31:E級冒険者(幼女)、そらを飛ぶ
「シガミー、気をつケてくださイ」
「問題ねえ。そんなことよか、ちゃんとそれ持ってろよ」
ギルドのとんがり屋根。そのてっぺんには、とがった棒が取りつけてあって、コイツのおかげで町中にカミナリが落ちねえんだそうだ。
「こレは希少金属のオリハルコンです。魔術特性が付与されテいて、とテも軽量です」
金属棒をもった迅雷が、なんか言ってる。
いいから落とすなよ?
「シガミー、あわてなくていーよー」
開いた天窓からレイダの声も聞こえる。
とんがり屋根の話をしてたら、その先に付いた棒の取りかえ時期だってんで、身軽なおれが2パケタで引き受けたのだ。
「ふう……地獄にしちゃ、綺麗なところだよなー」
町の中心にそびえ立つ冒険者ギルド。
その一番うえからのながめは、なかなかよかった。
町をとりかこむ草原、森、岩場……とおくに川とみずうみ。
あの岩場は、おれが最初に落ちてきた場所だ。
えらくとおくには、火山なんかもみえてるが、おおむね平らでひとが暮らすのに良い場所だった。
くるくるくる――すぽん!
元から付いてた、すすけた金属棒をはずす。
迅雷にそれを渡し、真新しい金属棒を受けとる。
根元にはきざみが入っていて、穴にさしこんで捻れば、しっかりと取りつけられるようになっている。
くるくるくる――がちり!
「よし、おわった! ひきあげるぞ迅雷――――おろっ?」
踏んだ〝うろこみたいな木の瓦〟がすべり落ちた。
すとん――――足を取られたおれは、ななめの屋根に尻もちをついちまった。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」
レイダの声がうるせえ。そんなに心配すんな。
「(さてどうする、迅雷――――どうすりゃいい?)」
この内緒話をはじめりゃ、おれはゆっくりと考えをめぐらせられる。
「(はい、シガミー。近くの〝瓦〟は強度的に信頼できません)」
視線のすこし先、さっき抜けた〝木の瓦〟が空に浮いてる。
「(おう、それでどうすりゃいー?)」
「(錆びついた導線……荒縄がみえますか?)」
「(おう目のまえにあるぞ?)」
屋根から、ななめ下の地面に向かって荒縄が突きでている。
「(それに私を引っかけてください)」
「――よぉし、わかったぜ!」
止まっていたからだが――――急激に自由をとりもどした。
回転する周囲。
おれはいまにも、とんがり屋根の上から転げ落ちようとしている。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーーー!」
だからレイダ、うるせえ。
とっさに迅雷を、荒縄にひっかけた。
飛べる迅雷さえつかんでりゃ、地面にまっすぐ落ちることはねえ。
けど子供のからだじゃ、大けがしねえとも限らねえから――――すなおに迅雷の言うことを聞いておく。
がちゃんっ――――――シャァァァァァァァァァァァァァァッ!
「うぉわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――っ!」
ななめに張られた荒縄を、おれと迅雷はすべり落ちていく。
「怖え――――けど、ちょっとおもしれえー!」
迅雷から、ほそい腕がたくさん生えて、おれの小せえ体をつつみこむ。
「(シガミー、衝撃にそなえてください)」
気づけば、ぼろい屋根が目のまえに迫ってた。
――――――――ドゴガラッシャァン!!!
おれは、ぼろ小屋に突っこんだ。
§
「いってててててぇーー!」
「(大丈夫ですか、シガミー?)」
「怪我はねえけど――あちこち痛ぇ!!」
「よいせっと――――!」
こわれた屋根や柱をどかすと、そこは棚がならぶ書庫のような部屋だった。
「えれぇ目にあったぜ……それでここはなんだ? ――ひかりのたま《・・・・・・》!」
うすぐらい中を照らすのに〝灯り〟の魔法をとなえる。
ボォァ――――光のたまが周囲を照らす。
キラキラキラッ!
――――おれをかこむ剣先の光。
一瞬身がまえたが、それは突き出された剣ではなかった。
「(この〝避雷針〟……〝オリハルコン製の棒〟を保管しておく場所のようです)」
棚に並べられてるのは、本や図鑑ではなく、さっきおれが交換したのとおなじ金属棒だった。
避雷針/落雷から建物を守るための金属棒。つないだ導線で電気を地中に逃がすための構造。