309:仙果到達ルートC、ご神木のひみつ
ヒュヒュヒュヒュボオオゴゴゴゴォォォォォォォワァァァァァァァァァァァァァァァァァッ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!
「――――、――!?」
「――――!」
ぅわ熱ぃっ――死ぬるっ。
迅雷迅雷迅雷ぃ――――五百乃大角ぁ!
ヴッ――――錫杖を取りだし――ぐるるるっ、じゃりぃぃぃぃん♪
「喝ァァァァッ――――――――!」
迫り来る光が、止まる気配はない。
フゥゥゥウッ――――あたりが急に、暗くなった。
こりゃおわった!
いちかばちか滅の太刀でも、放ってみりゃぁ良かった――!!
悔やんでいたら――ふあぁー♪
とおくの方に、花畑なんかが見えやがる。
「シガミー、これそこのシガミーやぁぃ」
今際の際に、やかましぃやい!
ふりかえると、ソコに居たのは――――
白髪の老人のようでもあり――
眉目麗しい若い女のようでもあり――
槍や刀や酒瓶のようでもあり――
「なんだっ、おまえさまわぁ――!?」
怒鳴りつけると、白髪の老人の姿をした若い女が――
手にした槍を振って剣に変え、自分の姿を大きな酒瓶に変えた。
「わしゃぁ、なんでもないただの、神じゃて」
酒瓶は腕もないのに、頭を掻いて大あくびをした。
「やい酒瓶、ここは――!?」
気づけば川が流れてる。
川の向こうには――城壁(城はねぇけど)に囲まれた町。
町の上には、小さな星が浮かんでる――ガムラン町だ。
「ひょっとして、おれぁ死んだのか?」
おれがおにぎりに、うかつな指図をしたもんだから――
おれと第一王女の命が終わっちまった。
「けど、それにしちゃ、王女の野郎が……見当たらねぇぞ?」
のどかな花畑にいるのは、おれと酒瓶だけだ。
「死んだのは爆発に巻き込まれた、おまえさんだけじゃわい」
爆発だとぅ……じゃぁ浮かぶ球がぶっ壊れたのは、間違いねぇんだとしても――
「なんでそんな事がわかる? 神や菩薩じゃ有るめぇし」
「いやだからわしゃぁ、神じゃ」
「はぁ? そんなみずぼらしい、ヒビの入った酒瓶が生意気を言うんじゃねぇやい」
「隠り世に生を受けて……生を受けてってのも変じゃが~ぁ、実時間で622,037,462秒、体感時間で414,276,949,692秒、年でいうならぁ~13,128年弱、神をやっとるわい」
ぬぅ?
「一万三千年たぁ、穏やかじゃねぇな……すまねぇ、酒瓶だってソレだけながく生きてりゃ、神ぐらいやれらぁな」
おれぁ四十の享年と、この体の十年を足したとて、せいぜい五十だ。
生意気を言ったのぁ、おれの方だぜ。
「それでのう、じつはのう――」
「隠り世なぁ。なんだかもう、いろいろ良いような気がしてきたな。町のみんなにゃ悪ぃけど……前世と御負けの今世でも、そこそこ楽しい仲間も出来て面白おかしくやれたしなぁー」
ヴッ――――っじゃっりぃぃぃぃぃぃん♪
おれは錫杖を出して、杖のようについた。
「いぉよぉぉしっ――――思い残すことはねぇぜ! とっとと浄土でもどこでも、連れてってくれやぁ!」
心残りはねぇが、あの子供みてぇな美の女神を、ひとり残して来ちまったことが――
「いやじゃから、話を聞いてくれんかのう?」
酒瓶が今度は、おにぎり……身の丈も有る、でけぇおにぎりに姿を変えた。
そういやアイツらは――どうしたかなぁ。
さすがに細切れに、なっちまったかもなぁ。
中に入れておいたマンドラゴーラだけでも、女将さんに渡したかったが。
「おう、そうだぜ。てめぇで念仏でも唱えてぇところだが、郷に入っては郷に従わねぇとな、おまえさまの仕来りで送ってくれやぁ――♪」
「ふぅ、話を聞けと言うに。この……おまえさんにわかるように言うなら〝彼岸〟にきたのは、シガミーがはじめてなんじゃよ」
「へぁ? はじめて? そりゃ、おかしいじゃねぇーか!」
誰も死んでねぇ?
そんな事が、有るわけねぇ!
「けどな……そういや町で葬式をしてた様子はなかった……蘇生薬も有るしな」
「そういうことでも、ないんじゃがなぁ」
神が、また姿を変える。
「じゃぁ、どういうわけでぇい! おれぁもうっ、浄土へ行くって決めたんだ! さっさと話を切り上げてぇくれやぁ!?」
「そうじゃなぁ――、一言で言うならわしゃぁ、ここで神をするのに……飽きてしもうてのう――」
飽きた?
たしかに一万年も、誰も来ねぇところで突っ立ってりゃぁ…………鉄瓶だって飽きるだろうよ。
鉄瓶は黒光りする体をよじり、上蓋をカタカタと鳴らす。
「つきましてはのぅ、シガミーにお役目を変わってもらおうかと思ってのぅ」
「はぁ!? お役目ってのはっ――――神のことか!?」
よせやい、おれは破門されちゃあいるが――仏門に帰依した身だぜ。
がらん――――鉄瓶が花畑に転がった。
「この棒、黄泉の星までの道行きに使えそうじゃから、もらっていくぞぉい♪」
すぽん♪
うをっ!? 錫杖を取られた!?
鉄瓶が、まるで磁器のように割れる。
うろたえるしか出来ないおれを、例えようのない――
乾いた風が――吹き抜けていく。
ふぁぁっ――――♪
風に吹かれた割れ鉄瓶が、砂のように吹き飛ばされていく。
たのしげに――ユラユラと――キラキラキラァ。
どこか――とおいところへと旅立つ鉄瓶。
「やい、おまえさまよぉ! こんな所におれひとり、残していくんじゃねぇやぁ!」
まてまてまて、迅雷――!?
五百乃大角――!?
誰でも良いぃ、答えろやぁぁ――!
おれは花畑に、突っ伏した。
いまおれが使えるのは――手持ちの武器数本と、迅雷式隠れ蓑。
それと、飯の支度が三週間分と、机椅子。
なんとかして、船でも作れりゃぁ――向こう岸に戻れるんじゃ?
なんて考えたとき――――
おれのからだが崩れ、土になった。
ぽこん――芽が出たと思ったら――一瞬で大木へと成長する。
「うをわぁ――――すげぇなぁ♪」
こりゃおもしろい物を見たぜ。
迅雷が居りゃぁ、あとでみんなにも見せてやれたんだがなぁ。
迅雷ってのぁ――なんだったかなぁ。
ふにゃぁ――――――――♪
良い陽気だ。
本日はお日柄も良く……へへへっ♪
へへっ……♪
ふぉふぉふぉふぉっふぉおふぉふぉふぉぉぉぉぉん♪♪♪
『緊急時戦術プロトコル作動
>WetWareID#44Ga3
対象アドレス:生体デバイス個体シガミー内/不随意記憶領域内/……/……
>Forced reboot with bootstrap
>Access to room #44Ga3
>Initiating spiritcontrol
>なんかでた
>付けっぱなしだった耳栓
>そこから伸びた棒
>目尻に照らされる赤い光
>画面を、とんでもねぇ勢いで流れていく、なんかの知らせ
>それは赤くて、良い意味じゃねぇ事だけが分かった




