308:仙果到達ルートC、ニゲルVSリカルル(ノーコンテスト)
ラプトル王女は、じつに女らしい。
侠客まがいの冒険者稼業をひた走るリカルルとは、比べるべくもない。
いや、リカルルもギルドの受付に座ってるときは大人し……くもなかったか。
揉めてる冒険者がいれば、真っ先に飛びこんでったからな。
しかしだぜ。
好みってモンもあるにしても――
中身と外見を天秤に掛けたら――
そこまで違いがあるとは、思えねぇ。
んんんぅ?
なんか、腑に落ちねぇ。
まあ、「ゴーレムに襲われて愛想が尽きた」ってのは、本当なんだろうが。
なんか、見落としてる?
「ウケケケケケケケケケッ、キャッホォォォォィ♪」
絵に描かれた女が――巨大桃にかじり付いてる。
やっかましーやい!
仮にも美の女神さまがぁ――身の丈もある桃ぐれぇで、はしゃぐんじゃねぇやい。
こんな面倒な状況じゃなかったら、おれも一緒になってはしゃいでたかも知れねぇけど。
桃なんざ食ったのは、生まれてこの方、前世で一切れだけだからな。
「こうしてても暇だし、五百乃大角の様子でも見に行くか――」
二号の顔に張り付いた○。
切り欠けた隙間が、いくらか広がったけど――
まだまだ時間が、掛かりそうだ。
「オマエ……大丈夫か?」
ぽきゅふぽきゅふ♪
二号の鼻っ面を、手のひらで叩いてみるも、返事はない。
「ラプトル姫さんは、どうする?」
みれば腰のベルトにならぶ小箱を、ごそごそと探っている。
釘とか魔法具の部品とか、ゴーブリン石でも詰まってるんだろうな。
一段落したら、収納魔法具のひとつも作ってやるか。
「そうですらぁん?」
細顎に手を当て、あたりを見回すようすは、やはりどこか高貴で。
「おれぁ、魔王城の様子を知りてぇから、外においてきた〝画面〟ってぇやつを見に戻るぞ? できたら一緒に来てくれ、ここは危ねぇからな」
崩れはしねぇと思うが、イザって時に守ってやれるヤツがいねぇ。
「わかりましたらぁん、私もご一緒に。ケットー……ジンライさんはこのままで平気ですらん?」
「ああ、かまわねぇ。もし埋まったら、あとで〝おにぎり〟に掘り出させる」
おれは、椅子を引いて王女の手を取った。
「あら、ありがとうらぁん♪」
ガチャガチャラン♪
手にさっき拾った太鼓の片側を持ち、王女がついてくる。
§
「こりゃ!? どーなったぁ!?」
コッチの声は、二号が居ねぇと届かねぇのか――返事はねぇ。
「きゃぁぁぁっ!」
「ウヌゥゥ、ウヌゥゥッ!」
ぼっごぉぉぉおぉぉぉぉっぅん!
大筒を一斉に放ったような、大きな爆発。
子供たちの声がする。
「おじょうさまぁぁぁぁっ!」
「リカルルッ――!」
爆発は続き――狐火の導火線が、爆煙から一筋。
ィィィンッ――――ばがぁぁぁあんっ、ぼごごぉぉぉおぉん!
仕えるべき主を心配する、男女の声。
「ぐぅわぅるるるるうるぅぅぅうぅ――――ふっしゅるるるるるっ!!!」
どがんごがん――ぼっごがぁぁぁぁん!
倒れた赤い甲冑姿が、浜に打ちあげられた魚のように――跳びはねる。
「リカルルッ――!?」
跳びはねる赤い甲冑を抱きしめる、青年の悲痛な声!
ィィィィィイィィィンッ――――ばっがぁぁあぁぁんっ!!
導火線を肩に食らい、吹き飛ばされる青年。
「店員さん――!」
フッカがただひとり、彼の心配をしてくれている。
「に、ニゲルさま!? な、なんですらぁん――リカルルさまもっ!」
もう一人いた。
ニゲルを心配してくれるヤツが。
画面にしがみ付こうとして――向こうへすり抜けてしまう王女。
「んぅ?」
画面の隅にチカチカと光る、和菓子を見つけた。
おれはソレを指先で弾く。
ふぉん♪
『>シガミー。ようやく、戻りましたね』
「(コッチのオマエは、大丈夫か?)」
ふぉん♪
『>はい。強化服二号には、女神像同期処理をおこなう、
バッチプログラムを走らせました』
走る? 椅子に座らせてきたが……わからん、ほっとく。
「ソッチは、どーなってんだ!?」
引き分けにする――んじゃなかったのか!?
ふぉん♪
『>いえソレが。リカルルの暴走を押さえていた指輪が、
高負荷に耐えきれず壊れたようです』
「指輪だぁ!?」
ふぉん♪
あらわれた小窓には――朱色地に金色の、縁取りと文様。
「(こいつぁ、あのときに――奥方さまが、持ってきたやつだな!?)」
深紅の手甲内側、キツく握られる指。
大映しになった指輪には、ヒビが入っていて――
金色の縁取りと文様には、暗く影が差している。
ふぉん♪
『>はい。シガミーの収納魔法具か、
イオノファラーがあれば修理は可能です』
五百乃大角はソッチにも、何個も有るだろうが!?
「そレが、心ここにあらズで――」
あっのっ飯神さまわぁっ!
仕方ねぇや、ひとっ走り行ってくらぁ!
頂上に居る五百乃大角をひっぱたいて――向こうの指輪を直させる。
はぁひぃひぃはぁはぁ!
走り出したは良いが――
上り坂が、キツい。
「みゃにゃっ、にゃみゃぁん?」
ぽっきゅぽっきゅぽっきゅぽっきゅ――――♪
草地より鮮やかな黄緑色――――「おにぎりオマエ、どこ行ってやがった!?」
いつのまにか隣を走る、極所作業用汎用強化服自律型一号。
「みゃにゃにゃぎゃみゃやー♪」
やかましい、わからん!
「いいから五百乃大角――あの浮かぶ球のうしろ頭を、思いっ切りひっぱたいてやれぇ――――!!!」
べちゃっ――――あしがもつれ、すっ転ぶおれ。
その横を――ぽっきゅぽきゅぽっきゅぽきゅ♪
一列になった、三号から十号までが走り去っていく。
「あーっ!? まてコラ、待てやぁ――やっぱり、叩くのなしっ!」
やめろ!
ただでさえ五百乃大角たちとは面倒な繋がり方で、ギリギリ繋がってるってのに!
ぽっきゅむごぉん――♪
やめろ、その楽しげな音。
――ぽきゅぽんぽきゅぽんぽきゅきゅぽんぽぽきゅごきゃん♪
何回ひっぱたいてんだぜ!
「接続とやらが切れちま――――!?」
ご神木の麓に――突風が流れ込む。
カカッ――――――――――――――――――――ボボボボボォォゴゴゴゴッガガガガッガアァァァンッ!!!!!!!!!!
リオレイニアが迅雷を魔法杖がわりにして放った、特大の火球。
はたまた火龍が放った、火炎弾。
そんなのとは比べものにならない――
ギラギラと強く大きな光――
それは、とんでもなくでけぇ――――ああああああああっ!?




