307:仙果到達ルートC、ラプトル王女との対話(非公式)
「と、とととととと、とにかくダメぇ――」
む、コッチが譲歩してるのに、ダメだという理由の説明すらしねぇ――すぅぅぅぅっ。
「喝ぁっーーーーっ!!!」
また五百乃大角が壊れるといけねぇから、小さくだが――
発をくれてやった!
震える子供の体。
瓦礫がすこし落ちてきたが、崩れるほどじゃねぇ。
五百乃大角ばりの仁王立ちで――睨み付けてやる。
「ぴゃぎゃらんっ――!?」
二号の背中に隠れる王女殿下。
「まアまあ、シガミー。仮にモ一国ノ王女相手ニ――」
ふぉん♪
『>ガムラン町を含むコントゥル伯爵領と、
央都自治領一大勢力との戦争になりかねません』
「やかましい迅雷! 王女さまも良く聞け! ニゲルはおれの友達だ!」
おれの怒声に身をすくめる、二号と王女。
「ニゲルのためにならねぇことなら、たとえ相手が央都まるごとでもおれぁ引かねぇって言ってるんだっあ!」
「ぴゃぁぁぁっ――そ、そんなのっ――わ、わたたたたた、わたくしも、ニゲルさまのためを思っていますらぁん!」
んぅ? やっと話が進んだような、気がしないでもねぇ。
ふぉん♪
『>シガミーには詳細を伝えていませんでしたが、
彼女はゴーレムを使って、ニゲルを襲撃した嫌疑があります』
はぁ?
それじゃぁ、やっぱり話は進んでねぇじゃねーか!
「ぴゃぁぁ、ぴゃぁぁ、ぴゃらぁらぁぁぁぁん!」
あぁ、いけねぇや。泣き出しちまったぜ。
「(ニゲルがこの杓子王女さんを、相当嫌ってるのは確からしいが――どうしたもんだぜこりゃあ)」
ガリガリと頭をかいて、二号の木板を見る。
「……迅雷、音だせ音!」
せめて、あいつらの様子を声だけでも聞いて、気を落ち着ける。
ちょうど書き換わった、木板の絵には――美しい女性の姿。
とても大きな……桃?
そんな何かをかかえ、涎を垂らす……美し……い?
「――なにこの大きさっ! さすがにコレじゃぁ、あたくしさまでもぉ、おひとつで十分わよっ!?――」
その木の実(?)の大きさは――五百乃大角の映し身と同じくらいあった。
「絵と音がまちがってんぞ!」
こりゃ五百乃大角の、様子だろーが!
ぽたきゅりと、たおれる二号。
「おいこら迅雷、なにやってる?」
王女まで一緒に、ひっくりかえっちまっただろーが。
ふぉふぉん♪
『>同一エリア内で女神像#0が検出されました
同期を開始しますか? Y/N』
§
「ひっく、くすんくすらん」
「あー、わるかったよわぜ。ひとまず泣き止んでくれて助かるぞわ」
コクリと頷く、第一王女。
「まず、聞いておきてぇことがいくつも有るんだが――答えちゃくれねぇか? とても大事なことなんだぜ」
瓦礫をどけて、椅子とテーブルを出した。
動かなくなった二号も、椅子に座らせてやる。
「わ、わかりました。私も央都ラスクトール自治領を代表する者ですらん。何なりと聞いてください、ケットーシィガミー」
涙を指先で拭い――おれを真っ直ぐに見据える第一王女。
「決闘死……決闘して死ぬみたいに聞こえるから、ぜひシガミーと呼んでくれ。ガムラン町のシガミーだぜ」
木の葉のような、ちいさな手を差しだす。
「それは失礼いたしました、シガミー。私は央都のラプトル・ラスクトールですらん」
きゅっと手を握りあう。
いろんな不運に見舞われた、不幸な出会いだった。
ここから、仕切り直す。
「まず、最初から聞くが……魔王城で何をしてたんだ?」
「ゴーレムの素材集めですらん。ケット……シガミーたちは何をしていたらん?」
「火龍の寝床を攻略したついでに、この大木のある丘を目指したら……川に流されてな」
「この場所は、王家の転移魔方陣を通らなければ、たどり着くことは出来ません。その転移先も明後日には、別の土地に切り替わりますらぁん」
「切り替わる?」
「はい。この神聖な召喚の塔を守る為の、術式ですらん」
わからん。
「じゃぁ、ここに来るまえの、焦げ臭い……工房があった場所は何だ?」
「じつはあの〝中間の場所〟については、まだ良くわかっていません」
「わからねぇ所に、大事な工房を構えたってのか?」
「はい。私にとって大事なのは、ゴーレムの素材となる魔物の生息地へ〝どうやってたどり着くか〟ですからん」
「たどりつく? 転移魔法で行き来、できるんだろう?」
「ええ、けれど……私か自由に歩けるのは、央都の城壁の中だけですものらん」
「城壁……内堀の中か? おれぁ一度、央都に出向いたことがある。飯屋や宿屋や道具屋なんかが、そこそこ立ち並んでたな」
「ええ、私にあたえられた自由は、その中だけですもの――とても魔物が居る所へなんて……」
すこし、込み入ってきたぞ?
「んうううううん? 魔王城と、この塔の場所をつなぐ――間の工房があった場所は、姫さん……ラプトル姫さん以外には、知られてねぇってワケだな?」
「はい、つまりはそういうことですらん。王城地下にある秘密の転移陣ではなく――私が複写した転移陣から転移すると、あの赤く焼けた土地へと転移するのですらん」
「うーんぅ、そりゃ言ってみりゃ事故だろ? そのとき護衛は? 良く生きてたな?」
「そうらぁん、まさに私の、ゴーレム最強伝説の始まりでしたらん♪」
「なんか長くなりそうだな……一言で言うなら?」
「襲い来る魔物の襲撃を必死に防いでくれた、小さな人形型ゴーレムの……残骸……」
やっぱり長く、なりそうだなー。
椅子に座る、二号の顔を見る。
顔に浮かび出た○が、ほんのすこし欠けた。
この○が全部消えると、龍脈だかが繋がって――
なんだっけ?
女神像の何かが、使えるようになって――
色々便利になる。
五百乃大角がこの場に居ねぇからか、ちょっと欠けたきり、まるで減らねぇ。
ってことは、まるで進んでねぇってコトだ。
どうせ、それまで出来ることもねぇし。
もうすこしだけ、聞いてやるか。
「私の、この万能工具――伝説の職人が使用したと言われる――」
取り出した杓子をかるく振ると――杓子が鋏にかわった!
「うを――!? そいつぁ、杓子じゃなかったのか!?」
「百徳ロッド――私の相棒ですらぁん♪」
鋏がこんどは、金槌に変わった。
かなり上等なアーティファクトだ。
話をする気配はねぇけど、迅雷みたいな物か?
「ふぅ、驚かされちまったぜ。けどそれひとつで、どーやって生きのびた?」
「最強の戦闘用ゴーレムを、作りあげたに決まってるじゃありませんらぁん♪」
やめろ、杓子を舐めあげるな。
けどこれで、だいたいの話が聞けた――かぁ?
「じゃあ最後だ。もう一回聞くぞ? ニゲルが婿殿ってのは、どーいう話なんだぜ?」
肘を突きだし、顔を寄せてみせた。
ぎゅっ――とん!
握った拳をテーブルに置き、意を決した王女殿下ラプトル。
「ゆ――、勇者召喚を行えるのは――私のお父様と私だけですのらぁん♪」
脇目もふらずに話しはじめ、頬やおでこや耳の先までが赤く染まっていく。
「はぁ?」
「この世界を救ってくださった、ゆ、勇者様にぃ! 身もっ心もさヒゃげるノわぁ――と、とおぜんらのれすらぁぁん!!!」
また杓子にもどったソイツを、振りまわすんじゃねぇやい!
危ねぇだろうが!
「きゃぁぁ言っちゃったぁぁらぁぁん! あぁぁあぁぁ、ニゲルさまっ!」
んぅ? ニゲルさま……なぁ?
人との出会いは、一期に一度の会だ。
けどやっぱり、なんか……さまって柄じゃねぇよな。
「念のため聞くが、ニゲルに会ったことは?」
「も、もちろん何度も、お会いしましたらぁん♪」
だーよーなーぁ。




