306:仙果到達ルートC、召喚の女神像
「ひかりのたまららぁん」
灯りを灯し、スルスルと中へ入っていってしまう王女。
「ちょっと待つで、ごぜぇますわぜ」
ちっ――リカルル対ニゲルの行く末が気になるが。
二人の勝負を映す画面は、その場から動こうとしねぇ。
「(迅雷この画面は、コッチじゃみられねぇのか?)」
コッチってのは、耳栓から突きでた棒から映しだされてる、小さめの画面のことだ。
ふぉん♪
『>メディア再生ホスト側であるイオノファラーが、
制御を手放さないので視聴できません』
目のまえのうまそうな果物に、心を奪われたか。
じゃあ、オマエがソッチの様子をこっちに映せ。
ふぉん♪
『>通信環境が良いのはイオノファラーであって、
私がその恩恵を受けるにはイオノファラーが、
操作するデバイスの半径8メートル内、
でなければなりません』
ちっ、ソバに居ねぇと――迅雷は使えねぇなぁ!
五百乃大角の野郎を呼び戻せ!
ふぉんふぉふぉん♪
『>FATSシステム内線#10286を呼び出しています
>呼び出しています
>呼び出しています
>通話が出来ませんでした』
「イオノファラーガ。呼ビ出シに応じマせん」
「あの、飯神め」
「でハ、コレでハどうでしょうか?」
ぽきゅりとコッチを向く二号。
首から下げられた木板。
ソコに描かれていくのは――
墨で描かれた風景画。
長い灯りの魔導具を振り回す――黒ずくめの人?
その頭上から、のど元へ食らいつかんとする――黒い狐?
こりゃ……リカルルか?
じゃ、こっちが……ニゲルっぽい。
「一色しか使用できませんし、遅延は1分以上にもなりますが」
ねえよか良いやな。
「よし、そのままあとからついてこい」
おれはドアの隙間を、通り抜けた。
ぽぎゅむ――――瓦礫でドアがつっかえた。
頭がはさまった二号の腕を、必死に引っ張る。
「さあ、こっちですよ。ケットーシィちゃんたち♪」
瓦礫の隙間から、そんな声が聞こえてきた。
だから決闘死、やめろやぁ。
§
瓦礫に阻まれつつ、ドアをふたつくらい通り抜けた。
「はぁはぁ――!」
ぽっぎゅり――♪
やっと広めの場所に出た。
瓦礫に潰され膝からポキリと、折れちまってるけど――
まちがいなく、こいつは――
「――女神像だぜ」
「たシかに――変わっタ形でスね」
しかもコイツは、ソコソコでけぇ。
顔つきや服装は、ギルドにおいてある女神像とおなじ。
背中の箱もおなじ。
ちがっているのは――
手にした物が箱じゃなくて――
「鳴り物……か?」
太鼓にしちゃぁ、片側しかねぇ。
真ん中と反対側がなくて、どうやって音が鳴るのかわからねぇが――
縁には平たい鐘っぽいのが、やたら付いているし――
音を出す物だってことは、間違いねぇと思う。
「ナリモノ……?」
がっちゃがちゃ、がっちゃらぁん♪
うるさい音を立てて、王女がどこかから引っ張りだしたソレは――
女神像が持っているのと、瓜二つ。
「振るコとで音がスる、楽器のこトです」
二号がそう言う。やっぱりコイツは、鳴り物らしい。
「あら、よくご存じらん。瓦礫をどかせれば一曲、舞ってお見せましたのらぁん」
タンタァン――ガララチャラララン♪
振りあげたソレを、振りおろす。
なかなか腰が入った、良い動きだが――
「コレ、やったのは王女さまなんだろう?」
ちいさな瓦礫を――ゴロリと蹴飛ばしてやる。
「まぁ、そーなのですけれどらん♪」
悪びれもせずに、倒れた棚を漁りはじめる。
「迅雷、王女さまを手伝ってやってくれ」
女神像のことなら、迅雷に任せるに限る。
瓦礫に腰掛け、フゥと息を吐く。
「でハ、少々オ下がりくだサい、ラプトルさマ」
ぽきゅぽきゅ――どがたぁん!
ひっくり返っていた棚が立ち、中に入っていた物が――
ガシャガラララと、うるさい音を立てた。
「おい、乱暴に扱うなよ」
壊れても、おれが直してやれはするけど。
「にゃミゃぎゃぁー♪」
なんだその生返事は。
「うふふらん、なかがよいのですらぁん♪」
ふわさり――王女さまが、おれの隣に腰掛ける。
「良くわからんが、何でまたこんなに、壊しちまったんだ?」
壊したのが誰かは聞いたが、何でかは――まだちゃんと聞けてねぇ。
「だって、魔王が倒されたことを知られたら――――」
悪巧みを切り出すときの、伯爵夫人とか――
リオレイニアに甘えるときの、子供とか――
グネグネグネグネする指先。
ソレが椅子がわりの瓦礫を伝って、おれの膝まで乗りあげてきた。
「にゃひゃぃ――くすぐってぇ! それやめろ――」
ゴーレムをバカみてぇな早さで組み上げる、凄腕の職人とは思えねぇ――たおやかな指先を、キュッとつかんだ。
「別に怒りゃしねぇから、言ってみやが……言ってみて下さいわぜ?」
聞きてぇことは、他にもあるが。
「せ、折角、喚んだお婿さんを元の異世界に、帰さなくちゃならなくなりそうだったから……つい」
「んぁ、婿殿? ……つい?」
婿殿ってなぁ、何のことわぜ?
「全力で――――タンタァン――ガララチャラララン♪」
さっきの壊れた太鼓を、片手で器用に打ち鳴らす。
「手元足下がすべってしまって、この有り様というわけらぁん♪」
いま、足でも何かを、蹴り飛ばしたぞ。
まるで事態は、わからんままだが――
彼女がココで、大暴れしたと言うのは――
良ぉーく、伝わってきた。
「わざとじゃねぇーか……婿殿ってのぁ、なんだぜ?」
二号が、ぽきゅぽきゅ尻を振りながら、邪魔な瓦礫を退けている。
「えっ!? そそそ、それ聞いちゃうらん!? そ、そそそそそそ、そんなこと、淑女たる私の口からはっ、言えませんわぁらぁぁぁん♪」
〝そ〟がおおいな。
暴れだし、杓子に手が掛かったから――つかんでいた指先を放してやった。
すぽん――うしろに、ひっくり返るところを――ぽっきゅぎゅ♪
二号がうしろ足で、やんわりと受け止めてやる。
「(すまん、こんなに慌てるとは、思わなかったぜ)」
ふぉん♪
『>子細わかりませんが、王女がその企てをしなければ、
ニゲルは命を落とした元の場所へ、戻されていた可能性があります』
死んだ場所に戻されてもな――
ふぉん♪
『>はい、瓦礫の下敷きなら直後に圧死。
水中なら、やはり数分後に溺死。
その他の事故死なら場合によっては、
命の危険が無い状態で生き返ることが、
出来たかも知れませんが』
おれならさしずめ、〝めし処香味庵〟の土間か。
ニゲルのヤツぁ戻されなくて、命拾いしたかも知れねぇ……のか?
それで、婿殿てのもよぅ……一体なんだぜ?
言葉通りなら、王様の中の王様の娘の旦那ってこったろう?
ふぉん♪
『>〝お婿さん〟に関しては入力情報が、
少なすぎて類推できません。
女神像の背中の箱にアクセス出来れば、
イベントログの復元が可能です』
はい、わけわからん。
けど、とにかく女神像を元に戻しゃぁ、何かわかるんだな?
ふぉん♪
『>はい、要領を得ない王女の言葉を待たずとも、
おそらく、多くの謎が説破可能かと』
「よぉし、ラプトル王女さまよぅ! この女神像、直しちまっても構わねぇよな?」
いくらかでも金剛力が使えるなら、おれが二号を着て全部片付けちまうぜ。
「だっ、だだだだだだだっだっめぇーーーーーーっ!」
〝だ〟が多いぞ?
「ダメってのは、どういうこったぜ?」
そろそろいい加減、いろいろ煮え切らねぇ王女様に腹が立ってこないでもなくなってきた。




