304:仙果到達ルートC、軍用全天球レンズとウィルオウィスプ・レーザー
「このケットーシィちゃんは……お話が出来るのらぁん?」
二号に抱きかかえられた王女が、二号の鼻のあたりを――ぽきゅ♪
いぶかしげに、つかんでいる。
「――中身のシガミーちゃんが、外に出ちゃってるのにぃぃ~!?」
あー、なまじっか神々の知恵に通じてるせいか、変な所で引っかかってるらしい。
「いまソイツの中には……五百乃大角の眷属が、取り付いてるぜわよ」
ひっほっへっはっ、上り坂なのが地味にきつい。
「イオノファラーさまの、眷属らん?」
「はイ、迅雷とオ呼びくだサい、王女殿下」
ぽきゅぽきゅぽきゅ♪
「じゃぁ、ジンライさまん」
「私はアーティファクトでス。様は要りまセん、王女殿下」
ぽきゅぽきゅぽきゅ♪
「では私のことも、ラプトルとお呼びくださいらぁん」
「でハ――ラプトルさマと」
「はい、ジンライさまん」
ぽきゅぽきゅぽきゅ♪
「おっとと、置いていかれちまうぜ」
珍しい食い物をまえにして早足になる球。
迅雷が操る二号も、駆け足でついていく。
おれぁ、金剛力がなきゃ、せいぜいが二人並みだ。
それだって、LV100の恩恵あってのことなんだが。
ヴッ――がさりっ。
おれは仕舞っておいた荷物袋を取り出した。
この大荷物は背負うと、自分で走ってくれるから――
金剛力ほどじゃないけど、速さと体力の足しになる。
ただうしろから見ると、荷物袋から生えた足が――
「(迅雷、この荷物袋の足なんだが、うちのパーティーメンバーたちから気持ち悪いって評判が悪かったから――シシガニャンほどじゃなくても、なんか柔こい感じにできんかなぁ?)」
ふぉん♪
『>なるほど。でしたら荷馬か荷馬車のように、
設計しなおすのはいかがでしょうか?
強化服のように本式とまではいきませんが、
アシストするパワーも上げられます』
じゃあ合流できたら、それ頼むわ。
おれがスキルで作っても良いが、寸分たがわぬ物をあとで作るときに二度手間になるからな。
ふぉん♪
『>はい、了解しました』
いまのところは、二号の走りについて行けりゃ十分だ。
ぽきゅぽきゅぽきゅ♪
しかし、シシガニャンの頭は……でけぇなぁ。
薄桜色……薄桃色の毛皮の色は、かわいらしい気もするし……不気味な気もする。
「(あ、いっそのこと二号は着てもらった方が良かったか?)」
ふぉん♪
『>いいえ。下手をすると、強化服シシガニャンを再現する知識を、
お持ちですので、あまり内部構造を公開しない方がよろしいかと』
ぬー、なぁー、そういうのもあんのか。
「なら……ひそひそ……ちいとマズいことを……ひそひそ……しちまったかも知れねぇ」
ふぉん♪
『>マズいこととは?』
「いやな……ひそひそ……些細なことしかしてねぇけど――」
おれは、ご神木よりいくらか手前にある〝召喚の塔〟に着くまで――
ゴーレム作りの手伝いをしちまったことを、説明した。
特に〝前もうしろも同時に見える、飛び出てない目玉〟に関しては――
ふぉん♪
『>その光学的に高度な知見は、
兵器転用可能な技術が含まれています。
焦点距離に画角、作成した個数は?』
えらく詳しく聞かれたから、真面目に答えておいた。
§
「こぉんこぉぉぉん、こぉぉん、こぉぉっぉん、こぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん♪」
リカルル姫の声がする。
五百乃大角が見てる、リカルルとニゲルの小競り合い。
召喚の塔に着いたが、腕を組み仁王立ちの五百乃大角。
「ちょっとまって、いまちょぉぉぉぉっとぉ――良い所みたいなのねん♪」
映し出されている画面には、厚みがあった。
奥行きがあってまるで、ソコに寸足らずなニゲルたちが居るみたいにみえる。
ぼごごぉうわ、ぼごごごぉぉっぅわぁぁっ――――揺らめく狐火。
目くらましにしか使ってなかった狐火に、変化が現れた。
チチュィィィン――――――――ぼごぉんっ!
なんだったか、アレだアレ。
目に見えないほど、細くはねぇし――
ぶち当たった威力も、ソコまでじゃねぇんだけど――
ふぉん♪
『>ウィルオウィスプ・レーザー、
ルリーロの必殺技〝狐火・仙花〟です』
そうだぜ、鬼火怪光線だぜ!
ヴォヴヴォヴヴォォォォォォォゥン――――!
ニゲルの神速の剣が振り回され――〝勇者の歩み〟が止まった。
ぼごぉ、ぼごごぉ、ぼぼぼぼごごぉぉぉん――!
爆煙にのみこまれる青年。
「やるもんだぜ、急に狐火の扱いが――本家ばりに化けやがった」
ん? リカルル側の近く――レイダとゲールが陣取ってやがる。
迅雷の本体も、かたわらに浮かんで――なにやってんだ?
ふぉん♪
『>高輝度ライト付きヘッドセットを介し、
リカルルに助言をしています』
「一時はどうなることかと思ったが、なんとかなりそうじゃぁねぇか……」
けどそれは、逆に言えば――
二号を着たおれが、手も足も出なかった相手に――
届きつつあるってことで――
レイダとゲールは、どんな入れ知恵をしやがったんだ!?




