3:輪廻転生、怒られた
「ちっ、僧兵の死にざま、とくと味わえやぁ――――!」
酒瓶は割れちまった。
手につかむものはない。
こんな背格好じゃ、素手もつかえない。
だが、印はむすべる。
「ON」
ふん。〝真言〟が発火しねえ。
そりゃそうだ。この地の理どころか、土地神の名すらわからねえ。
きれいな顔の一本角が、からだをビクリとさせる。
「え、ちょっとまって? この子供……まさか魔術師!?」
なんだそいつぁ?
〝魔〟の〝術〟?
そんな訳わからんモンといっしょにすんな。
こちとら〝有言実行〟を体現するために普通なら死んじまうばかみてえな修行を生きぬいたんだぜ。
いや……ここが地獄なら死んでるのか――ええいややこしい!
たとえここが地獄でも、自前の回廊で〝口上を練る〟ことはできるだろ。
ザシュッ――足もとの破片をおもいきり踏みつけた!
いてえ、さすが地獄だ。死んでても、ちゃんと痛えんでやんの。
「いきはよいよい帰りは怖いってな」
切った足のうらからながれだす血を、両手ですばやくぬぐう。
もう〝帰り〟のことなんてしらねえ。
あかく染まったちいさな手で、空中に輪をえがく。
全方位、全法位。
三千世界はムリでも、この手がとどく範囲を――おれごと浄化してやる!
「ON」
ぎちり――――――――シュッボゥ!
よし、発火した!
「っきゃぁぁぁぁぁ、な、なんて事してるの!」
「て、てえへんでさぁ!」
「おい、だれか鐘ならせ!」
おれの行動にひるんでいた百鬼夜行どもが、いっせいにあわてふためいた。
雑兵には、この〝浄化の炎〟は見えねえはずなんだが……まあいい。
鬼の形相で、間合いをつめる鬼ども。
いまさらあわてても、もうおせえ――――おれの両手は空いてる。
「キリキリ――」
一発しかうてねえ花火だ。さいこうに派手なのを!
半径三丈をいっしゅんで焦土にかえる〝瀑布火炎の印〟をむすんで――――
――――どばっしゃぁぁぁぁぁぁぁん!
ぷしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……ぷすん。
「な、なんだこりゃ!? 水ぅー!?」
ただの水で〝浄化の炎〟が、かき消された!
おい、どうなってる!
よく見りゃ、おれのひじから先とあたり一面が、まっ黒に焦げてた。
「あんたたち! こいつぁ一体なんの騒ぎだい?」
よくとおる凜としたこえ。
路地のつきあたりから姿をあらわしたのは、おおきな鉄鍋をかついだ大女だった。
「おかみさん」「女将」「あねさん」「へへへ」
かけよる鬼どもが、巨大な木さじでなぎ倒された。
どっすん!
おろされる鍋。
「お嬢ちゃんがやったのかい?」
仁王立ちの給仕服が、鬼の形相でにらんでくる。
いまの一閃、おれでも見えなかったぞ?
角こそ生えてなかったが、いくさ場でもっとも出会いたくないたぐいの相手だった。
「か……かたじけない」
謝罪の意味だと、わからなかったのかもしれない。
さいごにみえたのは、木さじの木目だった。
1丈/約3メートル。