２９６：ゴーレム製造工場にて、収納魔法具箱と転移魔方陣
「ちょっと、こっち来い」
王女から離れて、若草色を呼びつけた。
「みゃがぁー？」
おにぎりが、特撃型を引きつれてやってくる。
もう、いいやな。
央都ゆかりのお偉方らしいし、無下にも出来ねぇからってんで――
なりゆきのまま、相手をしちまったけど。
おれぁ、暇じゃねぇんだったぜ。
大樹で果物だかを採って、いそいで町に戻って――
家宝を作って、お納めしなきゃならねぇんだ。
「おまえは、どっから連れてこられた？」
まさか、女将さんのところを抜けだして、魔王城くんだりまでノコノコやってきたわけじゃねぇだろう。
そもそも檻を飛びだして、ドコに行くつもりだったんだ？
「にゃんにゃぁーみゃん♪」
うん、何言ってるかわからねぇ。
けど、ぽきゅりと、若草色が指さしたのは――真上？
んぁん？ 上の階になんかあんのか？
階段は――見当たらねぇ。
ソコの通路の先にでも行きゃ、みつかるか？
王女様の様子を、そっとうかがう。
作業台にかじり付いて、図面と戦ってる。
服にぶら下がる、〝布で出来た馬とか人の人形〟――
スグ呼びだせるゴーレムが、数を切らしてる。
向こうの武器はせいぜい、杓子ひとつ切りだ。
「（逃げるにしても、この工房を調べるにしても）――いましかない！」
ぽきゅ……ぽきゅ……ぽきゅ――ぅぅぅん。
うるせぇ、この服は本当にうるせぇ！
けどどうにか、通路に入り込めた。
ぽきゅ……ぽきゅ……ぽきゅ……ぽきゅ……ぽきゅ――――。
まだ、十号は――王女の目に入るところを歩いているだろうが。
かまうか。もう知らん。とっととずらかる。
けどなんか気になるから、通路に並ぶドアを開けて、中をのぞき見しとく。
ガチャリ――最初のドアは、開けるんじゃなかったぜ。
人形のゴーレム……しかも人の服を着せられたヤツが、５０匹くらい居やがった。
なんてぇ、気色の悪ぃ。
気を取りなおして、さぁ次だ。
ふたつ目のドアは、床が掘ってあって――そうとう広い。
ここは資材倉庫だな。
めずらしそうな物が、所せましと並んでる。
突然拐かされた埋め合わせに、何かをもらっていきてぇ所だが――
いまのおれは二号を脱ぐことも、迅雷の収納魔法をつかうことも出来ねぇ。
ぽきゅ――ぽこん♪
痛ぇ、痛くはねぇが――ぶつかるんじゃねぇやい！
おにぎりを振りかえる。
おれの真似をして、特撃型三号を振りかえったりしてる。
背中の箱を、こっちに向けて――気楽なもんだな。
まったく……背中の箱？
「あっ!? おにぎり……これ仕舞ってみろ？」
入り口そばに積んであった、木箱のひとつを――ポンと叩く。
ヴッ――すぽん♪
「収納魔法、使えるじゃねぇーかっ！」
仕舞えるってことは、取りだせるってことだ。
迅雷ほどじゃなくても、おにぎりの収納魔法具箱には、結構な種類の物を入れてあるのを思い出した。
「あー、今さらだけど――黒板の一枚でも入ってねぇか？」
猫語を訳せりゃ、話も出来らぁ。
そうすりゃ、おれがガムラン町の子供で、伯爵令嬢の知りあいだってことも伝えられる。
ぽこぎゅにゅ――!?
あーあー、もー狭ぇ！
こんな狭ぇ所で、つぎからつぎへとグルグルグルグル踊りやがって。
邪魔にも程があんだろが！
「いっそのこと全部、仕舞っちまうか？」
「にゃみゃぎゃぁー♪」
三号に抱きつき、首を横に振る一号。
「あれ？ 仕舞えねぇ？」
そうか――おれの言うことを聞いたおにぎりが、収納魔法を使ってる。
つまり、おにぎりが嫌だと言えば――収納魔法は使えねぇ。
迅雷が居りゃ、この辺の細かいこたぁ、気にする必要がねぇんだが。
ぽぎゅぽぎゅぽぎゅむぎゅ――♪
蠢くな、うるせぇ。
§
黒板はなかったが前に作った、シシガニャンの猫語を共用語の文字にして見せる木板をみつけた。
よーし、これを一号の首にさげておこう。
ん、もう一枚出てきやがった。
じゃあ、こっちは二号にさげとくか。
「なんか言えや」
ふぉん♪
板を持ちあげ、読む。
『＞何か話してみてよ』
まぁ、意味はわかる。
「みゃにゃがぁ、ひゃにゃ♪」
ふぉん♪
『＞いやだよ。ソレは出来ないよ』
って話してるじゃねーか。
「ひとまず、これで良いぜ♪」
さて折角だから、突きあたりの階段を上がってみるか。
ここから出られそうなら、そのまま逃げりゃ良いしな。
階段を上がる。
猫耳をさきに突き出し、左右に向ける。
音はしない。つぎに首を出す。
ソコは何もなくて、ただ広いだけの場所だった。
床には――転移魔法の曼荼羅みたいなのが描かれてる。
「なんだぜここわぁ、下手に足を踏み入れたら――どこに飛ばされるか、わかったもんじゃねぇぜ」
戻れ戻れやぁ――――ぽぎゅりん♪
あーばかめ。つぎからつぎへと階段を上ってくるんじゃねぇやい！
ぼこぽぎゅ、すてころりん♪
ころぶ一号、おにぎり。
ころぶ三号。ころぶ四号。
ころぶ五号。ころぶ六号――ぽっぎゅむっ！
七号からさきが、いっせいになだれころんだ。
ぽぽぽぽぽぉぉぉぉぉぉん♪
この音、聞いたことがあるぞ。
「白線のぉ～内側にさがってぇ～、お待ぁちぃ～くだぁ――――――」
足下をなにか白い物――白線が走り抜けた。
キラキラキラキラキラキラ――――光の奔流。
ああもう、曼荼羅が光り始めちまったじゃねぇーか！
「うわぉわひゃ？」
魔法の神髄が、カラダを幾重にも縁取っていく。
シュゴォォォォォォォ――――――――ン♪
これは、転移魔法だ。
建物の外からじゃ、大きな女神像なんて見えなかったんだが。
地下にでも、埋まってたのかもなっ！
こうなりゃ、腹をくくるしかねぇ。
案外、もとの魔王城か――下手したらガムラン町の超女神像に戻れるかも知れねぇしな。
「ぎゃっ――ネコチャーン！ どこいくのーっ!?」
涙目の第一王女が、人ゴーレムにおぶられ、階段を上がってくる。
ちっ、見つかっちまったか！
ゴーレムは片足だけ、魔方陣に踏みこんでいる。
ソコで、止まるんじゃねぇー！
輪切りになったら、どーする！
おれは錫杖を取りだし――ヴッ！
じゃりぃぃん――ゴーレムに差し出した♪
「みゃにゃぁー、みゃにゃがみゃぁー♪」
ふぉん♪
『＞ソコに居ると、危ないよ？
＞この棒を、しっかりとつかんで！』
つかんだらゴーレムごと、引っぱってやる！
ゴーレムは何を思ったのか――バッキュゥン！
口から火を噴き――錫杖を、ぶち折りやがった。
