295:ゴーレム製造工場にて、眼鏡姫VS解析指南(シガミー)
「ららぁーん!? ちょっと、そこのピンク色の猫の魔物ん! 何をしているのかしらぁーん!?」
「ばかやろーう、だまってみてやがれやぁー♪」
ぐふふふふっ――ぐへへへっへっ♪
迅雷なしだと、くわしい画面は出ない。
案内も、ひとつも出ねぇ。
けど、何をどうすりゃどーなるのかが、頭の中でチカチカピカピカしてやがる。
おにぎりの腹ん中に詰まってる酢蛸と、同じような作りになってるはずで――
へぇへぇ、ほぉほぉ、なるほどなぁ――
頭の中がどこまでも、研ぎ澄まされていく。
作りは簡単。
やられたらやり返すだけ。
芸ですらない、見よう見まね。
幼い心のあり方に、馬の形の動き方を――
その全部を――必要な分だけ――
何度も何度も線を引いて、重みを付けていく。
頭で作った光の線の束を。
いまあるゴーレム馬の形に、押し込める。
要らぬ形と動きを、そぎ落とし――
近くにあった紙に、書き留める。
黒板の一枚でも使えりゃ、こんな面倒なことはする必要ねぇのに。
もどかしいが、もうできてる。
悩むところはねぇ。
あたらしい図面がどこまでも、研ぎ澄まされていく。
「できたぜっ♪」
骨組みになる四つ足の形。
見た目に関わる所だけ、引っ張り出して――かんがえる。
そうだな……五百乃大角の御神体みてぇな按配で――
丸っこくて寸足らずで、つぶらな瞳に牙のない口。
馬で言うなら……子馬か。子馬を作りゃ良いんだな。
子供の時分は、どんな豪傑だって――可愛げがあるもんだ。
その出来上がりの寸法だけ――元服の大きさにすりゃぁ良い。
ふう。ここまで考えてようやく――
馬の見た目が、研ぎ澄まされていく。
ただ形を変えただけじゃ、ダメらしくて――解析指南に何度も、やり直させられた。
終いには馬人形のあり方から作りなおさなけりゃ、ならなくなっちまったが――ようやく目処が立った。
思ったより大変だったが、なんとかなりそうだ。
研ぎ澄まされた、二号の視界。
シガミーの体、強化服二号の猫耳頭。
ソレが透きとおり、まえを見ていても、うしろまで同時に見える。
ひゅぉぉおぉぉっ――
胸の辺りを、風が吹き抜けていく。
その全天の景色に、あたらしい物が加わった。
ひゅろろろろぉっ――――おれのうしろ頭めがけて、なんかが飛んでくる。
第一王女が自分の服にくくりつけてた、布で出来た馬の人形。
その最後の一匹がむしり取られ、放り投げられた。
グワワワグワワワッと元のおおきくて無骨で、可愛げのない形に変わっていく。
こりゃ、恐ろしく性能が悪ぃが――収納魔法か?
魔法具操作術スキルが、馬人形が馬のゴーレムに変わる理を――伝えてきた。
どうしても服にぶら下げたいなら、もっと小さくできる。
「こぉーらぁーん! ピーンークー色ぉーぉ!」
うしろに居る杓子王女が、叫んでる。
その動きが――手に取るようにわかる。
死角から手刀を振りおろす一号の――毛皮の流れすら、よーく見えている。
これはおれが前世で培った――手習いの剣術修行の賜ってだけじゃねぇぞ?
まるで、迅雷が言ってたアレだ。
滅の太刀反応とか言うヤツ。
飛ぶ鳥を切れる、研ぎ澄まされた剣筋。
いつのまにか、いつでもソレを打てるようになってる。
馬の新しい図面を引くのに、研ぎ澄まされた――明鏡止水の心もち。
ソレが――ヴッ――ぱしり♪
小太刀を取りださせ。
シュカン――ガギンがしり、ゴゴォンかちゃかちゃ!
馬を見ずに馬から。
目をふたつと、しっぽを拝借する。
ごとん、ことことり。
図面の上、置いた材料を見つめる。
研ぎ澄まされる――解析指南。
美の女神イオノファラーの下っ腹。
あのふくよかさ。
あの憎めない、たたずまいを。
馬ゴーレムに――落とし込んだ。
一番大変だったのは――飛び出た尖り目。
伝説の職人と基礎光学と研ぎ師と超感覚で――つぶらな瞳へと作りかえた。
飛び出なくてもまえを見りゃ、うしろも同時に見渡せる筈だ。
付け根にネジ切りが付いた目玉を見つめると――ヴォォンッ♪
『◎』丸い印がみえた。
解析指南が――死角がないことを、裏付ける。
「どうでぇい? おそらくアンタがやりたかった馬の動きと、かわいらしい形を両立してやったぜ!」
会心の出来だ――――っ!?
ばしんっ――痛ぇ!
おにぎりが、おれのうしろ頭を叩きやがった。
ここでやり返すと、引いた図面や作った部品を駄目にされかねぇえから――甘んじて受けた。
「なにしやがるっ――おにぎり!」
けどやっぱり腹が立ったから、にらみ返してやったら。
むうっぎゅぼぎゅぎゅむっ――♪
おれが流れる仕事に割り込んだから――おにぎりのうしろが、大混雑を起こしてぎゅうぎゅう詰めになってた。
「わるい、すまん。じゃ、コレ組み立て頼まぁ――」
組み立ての工程順に、新しい部品を置いて――おれは第一王女の横まで下がった。
また馬の人形を投げつけられるかと思ったけど、本当にさっきので最後だったらしく。
ものすごい顔で睨み付けられるだけで、済んだ。
§
「みゃにゃっ――♪」
新しい馬ゴーレムが組みあがると――おにぎりが動きをとめた。
それは丸々と太った子馬だった。
けれど、その大きさは――いままでの馬と変わらぬ寸法で。
ようし、かわいいかわいい♪
この出来なら、レイダに見せたら飛びつくぞ。
第一王女が――口を半開きにしたまま――新型馬に駆け寄った!
馬の胸元に手を当て――「超自然の力よ、起動チェック開始。彼の地に棲まう同胞に、エコノミーモードで自己診断結果を告げたまぇーぇ」
なんか五百乃大角たちが使う、呪文みたいなことを言ってる。
やっぱり酢蛸に似たことを、してるのはまちがいねぇ。
「ポポポーン、ピピピピッププンッ――ブッツン♪」
その場で、足踏みをはじめた馬が――崩れ落ちた。
「ああっ!? そんなはずはねぇ!」
迅雷なしでも、おれのスキルはちゃんと使えただろーが!?
「ふぅー、私としたことが。いくら器用でも、猫の魔物はしょせん猫の魔物ですわらぁーん♪」
崩れ落ちた馬を、ドガンと蹴り飛ばし――その場で新しい図面を引き始める第一王女。
それでも、おれが引いた図面の一部が取り入れられていて。
リカルルにも通じる、無私無偏。
筋の通った公平さ……分け隔てのなさを感じた。
なんせ、いまおれぁ――猫の魔物だからな。
ガリガリガリ――図面を見ていたら。
ふたたび尖り目が、天を衝いた。
おい、ソレ止めろ。
ゴーレムの恐ろしさの八割方は、その目のせいだろうが。
おれは――蹴飛ばされ、うち捨てられた新型馬から――つぶらな瞳の低い目玉をキュリキュリキュリリッと外した。
ごとん――「悪いことは言わねぇから、コレを使えやぁ!」
まだ正しい繋ぎ方が、わからねぇだけで――この部品自体は、ちゃんと出来てるはず。
解析指南スキルは、この世を作ったヤツも認めてる。
眼鏡の奥、キッと吊り上がるまなじり。
ぺちぃぃん――♪
二号の広い猫の額を、力一杯ひっぱたかれた。
元服/成人した証。成体とみなされる期間を経たこと。
無私無偏/私的な利益を計らず、偏らずに公平なこと。




