292:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、一匹おおくね?
「(やい迅雷、居るのかっ!?)」
返事がねぇ。
「(五百乃大角でも良いぞ?)」
やっぱり返事がねぇ。
おれを助けに来たわけじゃ、ねぇのか?
ひょっとしたら神々の知恵を練って、なんかの策を講じてくれたんだと思ったんだが――
こいつら単に柱や壁に突き刺さった所を、とっ捕まっただけじゃね?
「みゃふぅー」
おれはため息をつき、口をとじた。
なぜなら――
文字がビッシリと書かれた、特撃型九号。
その背中の文字が、目に入ったからだ。
書かれていた言葉は――
『謹上 猪蟹殿』
日の本言葉の筆書き。
九号は、おれ宛の書状だ。
『この度、シガミー御一行様等手廻りの者ども――』
『一番合戦の儀を論ずるの間――』
『出陣を待たれたく候。』
はぁ?
なんか『待て』とか言われたが――
馬鹿野郎め、そんなのは言われるまでもねぇや。
もう、おれぁ、ここで〝半年暮らす〟と決めたんでぃ。
迅雷か五百乃大角からの連絡だから、いちおう読んどくけど。
『塩から――』『蛸わさ――』『ポテサラ――』
これはちがう、続きはドコだ!?
むっぎゅぽん♪
やいオマエ、邪魔すんな。
この黄緑色のシシガニャンが押し返してくるもんだから――
続きが探せねぇ――――ぽこむぎゅむっ♪
うぐっ――!?
この遠慮のねぇ――押しかえし!
よくみりゃ、その色――――ぽっきゅりーん♪
「てめぇ――おにぎりじゃねぇーかっ!?」
「にゃぎゃーぁ? ぎゅに♪」
まったくよう、おまえまで。
一体ドコで、とっ捕まった?
ぼぎゅぎゅっぽふーん♪
おにぎりが力一杯押し返して――空いた隙間。
ソコに特撃型が――――ぽぎゅっちり♪
はまり込んで、身動きが取れなくなった。
『前略、シガミーさまへ。』
ん? なんか別の文面も見つけたぞ?
『ソコに居る女性は――』
えーっと?
『央都ラスクトール自治領第一王女ラプトル・ラスクトール姫であらせられるので――』
第一王女?
なーんか、さっきも思ったけど……なんか。
『滅多なことはぜず――』
どーっかで聞いた気もするんだが……どこだったか。
「――、――――。――――、――♪」
件の杓子姫が、なんか言ってるけど――
まわりがぽぎゅぎゅむと、うるさくて聞きとれねぇ。
まあ、この九号からさっするに――
いまは動くときではなく――
動きようもないので――
どうするかな……ぽぎゅぽぎゅ、ぎちぎゅち。
ゆーらゆーらぁ――――すやぁ♪
§
ぼっぎゅぎゅぼっぎゅぎゅぽぽぎゅぼごごぉぉん♪
なんだなんだ――!?
いつの間にか寝てたが――――つよく押されて、目が覚めた!
ギシギシギッシギシ――――ぽごぎゅむっ♪
「っみゃにゃぉぉぉぉん――――♪」
ぎゅっぎゅむぎゅむ――――!
「なんだなんだキツイキツイ、痛くはねぇが潰れるだろーがっ!!」
ユラユラと蠢くだけだった、特撃型たち。
そのなかに一匹まじった――おにぎり一号。
押されたら押しかえす。
女将さんの元で、別の芸を仕込まれてなけりゃ――
おにぎりは――押されたら押しかえす。
それしかしないはず。
「こんにゃろう、あばれんじゃねぇや♪」
ぽぎゅぎし、ぼぎゅぎし、ぼごぼごん♪
ぼっぎゅっぎゅむ、ぼぼっぎゅぎゅむん、ぼぼぼぼごごごごごぎゅぎゅぎゅぎゅっむっ♪
つ、つぶれる。
痛くはねぇけど……形が変わるほど、四方から押されてる!
ぎしぎしぎしぎぎぎぎぎぎししししししっ――――!?
ばっがぁぁぁん!
んぁっ――ついになんか、弾け飛んだ!?
おにぎりは二号よか頑丈だし、特撃型も破いたり切ったり出来るのはニゲルくらいのはずで。
ごっばぁぁぁぁん!
何かが弾け飛んだ方向に、力が抜けていく。
壊れたのが、シシガニャンたちじゃねぇなら――
わらわらと散る、シシガニャンたち。
ガッチャガワランッ――格子が踏みつけられる音がする。
あーあー、書状の話じゃ――待てと言われたんだがなぁ。
「みゃみゃぎゃぁー♪」
へへ、牢を破っちまったならもう、やるしかねぇ!
最後に残る格子を――「おれぁいま力が出ねぇから、おまえがけってくれ♪」
その場で回転する一号。
放たれる、するどい蹴り。
どっごっがぁぁぁぁぁん!!
そんな技、ドコで覚えた?
そりゃ女将さんのところに、決まってるが。
どうせなら魔法とか、芋の下ごしらえでも仕込んでくれよなー。
舞う噴煙――どこかから鳴りひびく、早鐘のけたたましい音。
うるっせぇが、景気が良くていいやな!
「ぴゃらぁーん!?」
ふざけた声。
どさりと何かが、倒れた音。
噴煙が晴れ、辺りを見渡すと――
杓子姫が、ひっくり返ってやがる。
傍らにはバラバラになったゴーレムの、頭胴手足。
身を挺して主人を守るとは、見た目に反して見あげたヤツだ。
波打つ髪をかきわけ、顔を寄せる。
すーっ、すーっ♪
息はしてるから、ヴッ――パキ、ぱちゃり♪
蘇生薬を掛けてやった。
「これで良いだろ――とっととずらかるぞ!」
格子の通路の外に出れば、ソコは広い場所だった。
踏み固めた灰色の土はザラザラしていて、とても硬い。
とおくの方に、大きな窓が開いている。
よし、あそこを蹴破って、外に出るぞ!
ぽきゅぽきゅぽきゅ――はぁはぁはぁ。
なんか、どんどん重くなる。
ひょっとしたら、神力切れを起こしたのかもしれねぇ。
重い二号の体を引きずって、ようやく窓に近づく。
その透明な窓の向こうには――
赤い大地が、ドコまでも続いていた。
あきらかに、魔王城とは別の場所だぜ。
「にゃみゃがぁー♪」
ん、おにぎりおまえ、なに抱えてんだ?
「ふにゃらーん♪」
それはまだ目を回したままの、杓子姫。
書状九号によるなら――えっと、『第一王女』さまだ。
「おまえ、持ってきちまったのか!?」
ぽきゅぽきゅぽきゅる――ぽきゅきゅりゅ♪
特撃型が遅れて、集まってきた。
一号のうしろにならぶ、特撃型たち。
うん、アレはやべぇ。
おれはいま、碌に動けねぇし。
一号を取り押さえられる気が、まるでしねぇ。
すこし離れとく。
ぽきゅ――ぽきゅきゅ?
なんだ、寄ってくるんじゃねぇ。
危ねぇだろうが――ぽきゅぽきゅ。
ぽきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅる?
なんで、ついてくんだぜ?
やべぇ――おれぁ、いま金剛力はおろか――
普通に走ることすら、ままならねぇのに。
ぽきゅぽきゅ――どぉん♪
かるく吹っ飛ばされたおれを――がしり!
第一王女とは反対側。
二号まで小脇に抱えられた。
そして勢いづいた隊列は――
ぽっきゅぽっきゅぽっきゅぽっきゅぽきゅぽきゅぽきゅきゅきゅ――ガッシャァァァン!
窓を突き破った。




