286:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、魔王城へつづく道
「勢い込んだものの……おかしくね?――ニャン?」
おもちを放ってみたけど、まるで手応えがない。
カチッ――♪
おれはおもちを、迷路の真ん中で立ち止まらせる。
ヴォォン♪
『□□□ □□□□□□□
□□□ □□□□□□
□□□□ □□□□□□
□□□□ ①□□□□□
□□□□□②□□□□□
□□□□□ □□□□
□□□□□□ □□□□』
おれが操るおもち『①』が、小さな地図の真ん中で止まった。
「狼どころか……スライムの一匹すら出てきませんわよ?」
狐の耳がくるくるとまわり、あたりの物音を探る。
高貴な顔に怪訝な色が浮かぶ。
おもちから音は聞こえないが、姫さんの耳がいないと言っているのだから間違いない。
ヴォォン♪
『□□□ □□□□□□□
□□□ □□□□□□
□□□□ □□□□□□
□□□□ ①□□□□□
□□□□□ □□□□□
□□□□□ □□□□
□□□□□□②□□□□』
おもち『②』が離れていく。
おもちをあやつる火縄銃みたいな棒――〝もち魂〟をあやつり、引きかえ返させる姫さん。
横穴からおもちが背中を向けて、うしろ向きに戻ってきた。
クスクス笑う〝シガミー御一行様〟の声が聞こえる。
あまりにも敵が居ないから、ちいさな横穴に使い捨てシシガニャン〝おもち〟を突入させてみたんだが――
「ココは敵の本丸……央都で言やぁ城や大神殿をかこむ大壁の近くってこったろ――にゃん?」
おかしくね?
ガムラン近くのちいさな洞窟にすら、そこそこの数の魔物がいたぞ?
カチカチッン――――♪
おれもおもちを、引きもどした。
ふすふすふすすすっ。
たしかに尻を向けて、身をよじりながら戻ってくるおもちは――みてると吹き出しそうになる。
「くすくふふ……い、いぜんココを通ったときには、それはそれは熾烈で……死を覚悟したのは。このあたりでしたのに――」
「そうですわ、わたくしの瞬きが追いつかないほど、牙角羊がひしめいていましたわっ!」
瞬きてのは、〝見たものを両断する恐ろしい技〟のことだ。
いまは狐火が出せるようになったせいで、使えなくなっちまってるけど。
〝奇抜の羊〟てのは――わからん。
「ゲール君、なにかわかる?」
〝派手なニャン〟に抱きかかえられ、あしをブラブラさせる子供。
特撃型四号の操作は、五百乃大角が担当。
「いや、ワレもココを通るのは久しぶりなので、何もわからぬ」
おなじく派手なニャンに揺られる、元魔王軍火山エリアボス。
三号も操作は、五百乃大角が担当。
神々のなんとか言う、〝色んなことを同時にできる手腕〟をもってすれば、造作もないらしい。
ただ、生やしたしっぽがつながってるから……見た目がへんだけどな。
「あ、魔王軍のエリアボスがいるから、魔物がでてこないのでは?」
姫さんのかたわらに立つ護衛騎士、いつもの黒い甲冑。
「魔物同士のつながりというのは存在せぬから、ソレはない。魔王の命令がなければ、それぞれ好き勝手に戦ったり食べたり食べられたりして――増えるだけだ」
殺生のことだな。
曲がりなりにも元坊主、戒めの言葉が頭をよぎらんでもない。
「じゃあ、こうしていてもしょうがないですし、奥に進みましょうか」
白い悪魔の号令で、一斉にすすんでいく。
おもちを露払いに使っても良いんだが――ゲールに抱えられた御神体を見る。
「シガミー、いいかげん面倒だから、アンタが切り込みなさい――――ウケケケケケッ♪」
ジリジリとすすむのに飽きたらしい、女神の一声。
「大丈夫、心強い味方を付けてあげるから――――ウケケケケッ♪」
大丈夫だったためしは――いままであったか?
ふぉん♪
『>行動ログを横断検索した結果――二件もの該当がありました』
じゃぁ……心配ねぇぜ。
「――はイ、イオノファラーヲ信じましょウ――」
§
「じゃぁ、行くぞ。こいつらを引き連れるなら、先にひろい場所に出ねぇと身動きできなくなる――ニャン♪」
ぽきゅぽきゅ――――ぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅぽきゅむ――むぎゅっ♪
ためしにかるくグルリと、ひとまわり。
ばたばたり、ぽぎゅむ♪
手足がからんでひっくり返る、シシガニャンども。
五号から十号までの六匹。
せっかく作ったシシガニャン特撃型。
コイツらは素材が足りなくて、まだ着ることが出来ない。
それでも、おれのあとを付いてこさせれば、頭数だけは増やせるから――こんなことになった。
「せーのっ――ミャ♪」
ぽきゅぽきゅぽきゅ――――ぽきゅとたたぁぁぁん♪
よし、金剛力におかしな所はない。
画面に表示されてる、ちいさな地図。
『蟹』――『五』『六』『七』『八』『九』『十』。
おれのあとを、すこし遅れて――ちゃんと付いてきてる。
よし、このまますっ飛びゃぁ、魔王城なんざ一瞬でたどり着く!
曲がり角の反対側を狙って、踏み込む。
ぽっきゅぽむ♪
壁を蹴り――うねる通路の先へ飛びこむ。
レイダやフッカが、心配そうな顔をしてたから――ぽきゅ♪
通路に入る間際に――元気よく腕を叩いてみせた。
ぽきゅ、ぽきゅ、ぽきゅ、ぽきゅ、ぽきゅ、ぽきゅ――――♪
あぁあぁ!? うるせぇ!
いつまでもうしろの方で、うるせぇんでやんの!
「――特撃型、⑤かラ⑥マで全六体、正常に追従していマす――」
悪かったな、締まらなくてよ!
格好なんか、付けるんじゃなかったぜ。
気を取りなおして先へすすむと、天井から伸びるつららの数が増えてきた。
あまり上に飛ぶとぶち当たるし、角度によっちゃ突き刺さる。
「――足下にモ、注意ヲ――」
わかってる!
よーく伸びたつららの下には、下からも細岩が生えてて邪魔だった。
ぽっぎゅっ――――どがぁぁぁん!
ためしに一本、蹴とばしてみたら――意外と硬くて、弾きとばされた。
ばぎばぎばぎばぎっ――――!!
折ることは出来たけど、別のつららに突っこんじまった!
痛くはねぇけど、あんまり振り回されるとまた、吐きかね――――ぽっぎゅ!
目のまえの岩壁に頭から突き刺さる――〝派手なニャン、目玉付き〟。
ぎょろりっ――――うへぇ、全部の目と、目が合っちまった。
ぽぽきゅ――どがぁん!
うん?
ぽぽきゅ――どがぁん!
ううん?
ぽぽきゅ――どがぁん!
うううん?
「おい、着弾がどんどんズレてくぞ?」
五号が目のまえ。
六号がその奥。
七号が、さらに奥。
壁に突き刺さる場所が、遠のいていく。
振りかえる。
みれば、八号が一直線に――頭から――どがぁん!。
そして九号が、何もない所を蹴飛ばして――頭から――どがぁん!
「まさか、蹴り飛ばすつららがねぇ分だけ、ズレちまったのか?」
あの空打ちすると、向きが変わる蹴りは――
「(はい、わずかな距離ですが積み重なると、六体総計――7シガミーほどの距離差が生じました)」
やべぇ。
そいつぁ、めんどうだぜ。
「けどこいつぁ、五百乃大角の手落ちじゃねぇんだろ?」
ふぉん♪
『>はい。女神も万能ではありませんので。
オートクルーズ性能の限界を、
シガミーが越えたとも言えます』
「じゃぁ、何も壊さなきゃ良いのか?」
けど今からおれぁ魔王城を……ぶっ壊しに行くわけで。
「(いいえ。何かを壊すときは、ズレを折り込むため0・25シガミー程度、コンパクトに……小さく内側に倒れ込むようにしてください)」
もっと……研ぎ澄ませってことか?
姫さんたちの視線も届かなくなって、念話も遠慮なく使えるようになったことだし――よぅし!
「カカッ――気合いを入れるかぁ!」




