283:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、川下りおわり
ふぉん♪
『>ルートBには川を逆行できる強力な推進力が、
必要なようです』
じゃあ、はやくソイツを出せやぁ!
「――推進力ぅ? ないよ?――」
はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?
ぽっぎゅ、ぽぽぎゅむ、ぎゅむ、ぼっごん――♪
シシガニャン特撃型は、背中をまるめてて――なんていうか。
浮かべたタライだ。
むっぎゅむ、ぽぎゅぽぎゅ、ぼぼぽん――♪
どういうわけか離れず、ひしめき合い――ぶつかる音が、うるせぇ。
けど、さぁぁぁぁぁぁぁ――――♪
ながれる景色。清々しく吹く風。
吹く風?
まて、この服は――外の風も感じるのか?
ふぉん♪
『>プロダクトアームのアブソーバーを任意稼働することにより、
センシング・ワン程度の触感を再現しています』
わからーん。
けど、わるくねぇ。
ふわさぁぁぁぁぁあぁぁ。
上から見ていたのとは、まるで違う景色。
遠くの空を、でけぇ蝙蝠みてぇなのが飛んでるけど――
川遊びでもしてる気分だぜ。
「意外と楽しいですわね♪」
「お嬢さま、立ちあがらないでください!」
そういう自分は、立ちあがってるけどな。
魔法杖に乗る腕前を見りゃ、落ちることもないだろうが。
「シガミー、もう一回! 落っこちる所からやりたい♪」
なんて言ってられたのは、ほんの5分くらいで。
ざざざざざざぁぁぁああぁぁああぁぁあ――――――
川の流れはしだいに勢いを増して――
阿鼻叫喚の音声チャンネルは絞られ、幽かにしか聞こえてこなくなった。
みんな許せ、あとで五百乃大角は小突いとくから。
ふぉん♪
地図が切りかわる。
山岳地帯まで、この流れがずっと続いてる。
このままだと、魔物勢力地のど真ん中まで一直線だ。
§
「ぷはっ、きゃっ、きゃははははははははっ――♪」
「ウヌォォ、ぐぬぬおぉぉォ――――!?」
子供達の声。生きてる証拠だ。
ドドドドドドドドォ、ドパァァァァァァァンッ――――!!
ときおり襲いくる落差、凄まじい急流。
ただただ流され、すべり落ちていく。
みんなはシシガニャンたちに抱えられ、荒れ狂う波の中で息をするのも大変そうだ。
どぼどぼどぼどぼぉぉん――♪
ぽぎゅぽぎゅぽぎゅぎゅむ――♪
たとえひっくり返ろうとも――――ぽっぎゅるるんっ♪
かならず上を向く。
濡れはするが、生活魔法で体は乾かせる。
二号を着てるおれは、どんな姿勢でも関係ねぇけど――
こう激しいと――辛ぇ。
帰りたい、一刻も早く町に帰りたい。
「――ふう、もう私、覚悟を決めましたわ――」
「――そうですね、なんどか通った道に通じているようですし――」
「――盾を鎧に仕舞います。魔物が襲ってくる気配もありませんので――」
〝盾を鎧に〟てのは、エクレアの盾を鎧の手甲に収納できるように――
烏天狗が手甲に細工したヤツだ。
荷物を収納魔法に仕舞うことに無頓着な冒険者連中も、生活の中で長かったり重かったりする武器を背中に担いで行動するのに――
多少の不便は、感じていたらしくて。
工房長から、まとまった数の仕事も頼まれてる。
町に戻ってもやることが、いつまでもなくならねぇ。
フェスタ後に、ひとまずだらけるはずが――
おれはいまこうして――
――なぜか魔王城へ向かっているし。
廃棄された女神像をさがす旅に出られるのは、いつになるのか。
ゴゴゴゴォォォォォォォォォォォォ――――――――!!!
また突発的な急流か?
揺られつづけること――何時間でぇい?
ふぉん♪
『>火山を出発してから3時間19分。
平均河床勾配1/10の急流を、
平均18ノットで2時間34分、流されました』
わからん。
もう流れるのには飽きた、そろそろどっかの岸から陸にあがろうぜ。
なんて言ってた矢先――――▼▼▼♪
「――1㎞先ニ断崖ヲ検出、衝撃に備えてくだサい!――」
先頭を行く、五百乃大角を抱えたゲールを初っ切りに。
すぽーん、ぽぱーん、ぽすーん、ぽすぽーん――!
すぽーん、ぽぱーん、ぽすーん、ぽすぽーん――!
小気味よく投げだされる、八連星。
滝だ。
先世でも今世でも、お目にかかったことのないほどの。
下から見上げたら、さぞかし荘厳だろう。
落ちていく。
生身だったらまず助からねぇ程度、高いところから。
ひゅるるるるるぅぅぅぅっ――――――――!!
やべぇ――――最初の断崖とココまでの急流で、少しくらいの滝じゃ動じなくなっちまってる。
これは駄目なやつだ。
この気のゆるみは、全滅につながる。
ごごおごっごおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ――――――――!!
水しぶきの一粒一粒が、おれと一緒に落ちていく。
どぱぁーん、どぼぉーん、ごぼぉーん、ぱごぉーん――!
もきゅーん、ろりゅーん、にゃりーん、めぎゅひゃぁーん――!
なんかおかしな音を立てて、滝壺に飛びこむ八つの星。
ごぼがばごぼがば――――二号の中に居るおれ以外は、滝壺のうねりに飲まれて大変だ。
しかも滝の落差は、最初の断崖ほどじゃなくても相当で。
それ相当にふかく沈みこむわけで。
「(おい、みんなは大丈夫か!?)」
ふぉん♪
『>バイタルに異常値は見られません。
空中での自動制御により、互いにぶつかる心配もありません』
どおっぷんっごぉわぉぉぉぉっ――――んぁ?
『▼▼▼――――♪』
「(接触までゼロ秒、直上から来ます!)」
むっぎゅごっつん――痛ぇ、ぶつかってんじゃねーか!
また猫の模様だ。危なくてしゃーねぇーんだが!?
ふぉん♪
『>シガミーの〝水泳上達〟ならびに〝潜水術〟による、
水中での挙動に特撃型のオートクルーズ機能で、
対処するのは困難です』
前のヤツを追いかけるヤツな。
おれは滝壺をススイと泳ぎ、十号から離れてやった。
ごぼぼぼぼぼごごごおぉおぉぉっ――泡の視界。
(う゛ぉぎゅう゛ぉぎゅう゛ぉぎゅう゛ぉぎゅぎゅむむむっ――――――――)♪
不気味な音が、どこかでしてる。
すこし離れたところに、一筋の泡柱が立った。
それは神域惑星で見た――――ぼぎゅぼこぴゅぅーん♪
巨大な河鱒だかを一撃でノシた――――あの勢い。
(ぼぎゅぼこぴゅぅーん)♪
(ぼぎゅぼこぴゅぅーん)♪
(ぼぎゅぼこぴゅぅーん)♪
つぎつぎと立つ、泡柱。
ぼこみゅぎゅ――――!?
一瞬、体が二号に締め付けられた。
つぎはおれの番か――――――――!!
ぼぎゅごぽぽこぴゅぎゅりゅぼこぎゅっごぼがぼごぉぉぉぉぴゅぅーん♪
――――ざっぱぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!
水面からとびだした。
まわる視界。とおくなる滝壺。
三号から九号までが――我先へと落ちていく。
「「ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくなれ、ふわふわうかべかるくな……るかも――――!」」
大小の魔法杖。
二刀流のリオレイニア。
生活魔法お化けの元給仕長にして、おれの生活魔法の師。
修行中は涼しい顔で、いろんな魔法を披露してくれる彼女。
その顔が、険しい。
ぽきゅり、ぽきゅる、ぽきゅら、ぽきゅれ、ぽきゅろ、ぽきゅん、ぽきゅどたり――――♪
全員無事に着地した。
滝の正面には地面があり、川は横に抜ける大穴へ流れこんでいる。
なるほど、川の途中に出来た段差が……滝になってるんだな。
ぐるぐるぐるるるるっ。
まわる視界、揺られつづけた最後に――――これは。
酔った、吐きそうだ。
ふぉん♪
『>着用者の随意評価が低下、一時的な酩酊状態と判定。
緊急姿勢制御――ジャイロマスター作動します』
ぽぎゅっきゅきゅん――――うぇぇぇぇーぃ!
ゆらすなぁぁぁぁ――――さっき覚えた空中で足を蹴る動き。
あの何倍も鋭いのが、二号の足から繰りだされた。
キュルュリュンッ、ぎゅるるるるうぇっぷるっるっ――――ぽきゅわぁんっ♪
二号の着地。それはそれは見事だったらしい。
きゅるゅりゅんっ、ぎゅるるるるるっるっ――――ぽきゅにゃ♪
寸分違わぬ動きで二号の、うしろ頭に着地する――十号。
険しい山岳地帯の裾野に空いた、巨大な穴。
滝壺から飛びだして、華麗に着地した先は――
またもや地下洞窟。
「うっぷっ、うげぇぇぇぇぇぇぇぇっ――――――――!!!!」
おれは吐き、気を失った。




