274:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、イオノファラー復旧
「良く来たわねぇ――ぐひひひへへへっ♪」
なんだその下卑た笑い。
おもちに御神体を持たせた五百乃大角に会ったのは、こっそりダンジョンを抜け出してすぐ。
ぽこふぉん♪
『>イオノファラーとの接続が、復旧しました』
すぐと言っても、30分くらいは本気で走って――町とはちょうど半分くらい。
「お前さま、ひょっとして相当前から……こっちに向かってやがったな?」
ガムラン町から火山までは、パーティーの足で二日だ。
レイダが強化服二号を着てるし、おれぁ背中の荷物が自分で走ってくれたし――
なによりリオレイニアの風の魔法で、ずっと追い風で走り続けられた。
それでも深い森の中だ。木の根や大岩を避けて曲がりくねる道を行くのは、それなりに難儀した。
「――町まデは直線距離でしタら、約110㎞ほドです――」
うん、わからん。
ふぉん♪
『>約846シガミーになります』
うん、余計わからん。
「おぉーっと、話わぁソコまでだぁっ!」
御神体をうやうやしく抱えた、おもちが横にズレる。
「先生、やっちゃって下さい!」
はぁ? 先生だぁ?
おもちのうしろ。
隠れていた姿があらわになる。
「やぁ、シガミー。なんだか良くわからないんだけどさ――」
見ていた小さな黒板を、大事そうに懐にしまう。
そいつは、また錆びちまった剣を――――ザギィィィンッ!
「ニゲルッ――どうしてここに!?」
それは頭に猫耳を付けたままの、ニゲル店長だった。
おれたちが出払ってる間、2号店を任せていたはずだけど。
「本当に申し訳ないんだけどさ――一太刀入れさせてもらう!」
無造作で雑な。
まるで素人の構え。
青年の場合は――そっちのが怖ぇ。
「はぁぁっ!?――――「もうやらない。本気の戦いは、一生死ぬまでしない」って、その安物の聖……(鍵剣セキュアでス)――鍵剣だかに誓ったはずじゃ!?」
「ワケは言えない! けどさっ――リ、リカルル様の手作りランチがさ、食べられるらしいんだよ……ねー?」
おい、勇ましい2号店店主。目が泳いでんぞ。
コッチを見て、物を言え。
「くぅおるぁ――惡神めっ! ニゲルを巻きこむんじゃねぇやい!」
悪気はなかったみてぇだから、こうして向かえに来てやったってのに!
「ひっ――――!? 坊主怖っ、袈裟まで五月っ蠅い!」
怒鳴られた御神体が、おもちの操り方を間違えて――ふふっすん♪
気の抜けた音を立てて、尻餅をついた。
ふぉん♪
『イオノ>ふふふふーんだ♪
あたくしさまも言い方が酷かったですから、
叱咤激励やお説教は、甘んじて受けましょう』
「(ふん、その殊勝な心がけや良し。それで、なんでニゲルを引っ張ってきたぁ?)」
毛先ほども、甘んじてねぇじゃねーか。
「あー、それわねぇー。一式装備ご依頼人とぉ話を付けてきたからぁ、いそいでアンタたちと合流しなきゃと思ってさぁ――」
ご依頼人って、ルリーロだろぉ?
陸でもねぇコトに決まってる。
「えーとね、名目上は出張扱いになってるよ。業務内容はイオノファラーさまの護衛――――」
フォフォフォオ、フォフォォォォンッ!
あれ? 見たことがねぇ――刀の振り回し方をしてやがる。
「まてぇ――――――――――――ぃいっ!」
ヴッ――――ジャッリィィィィン♪
下手すると、また斬られる。
「(やい、五百乃大角め――護衛のニゲルを、なんでけしかける!?)」
ふぉん♪
『イオノ>せめてもの腹いせです(キッパリ)』
はぁぁぁぁっ!? この立て込んでるときに――――だが、ご託を並べ立てられるよか億劫マシだぜ。
いまはシシガニャンを着てない、生身の姿だ。
迅雷がどーにかして、おれの命と体を繋いでくれるとしても。
死ぬほど痛ぇのわぁ、御免蒙りてぇところだが――
「良ーぃだろう! その勝負うけたっ!」
ひゅひゅひゅひゅひゅん――がごん!
錫杖を地に付け、構える。
「(それと五百乃大角ぁー。洞窟の奥に、お宝はねぇぞ)」
ふぉん♪
『イオノ>え? それ普通に困るんだけど』
ふぉん♪
『>かわりに火龍の抜け殻を発見しました。
状態はそれほど良くありませんが、
頭から尻尾の先まで繋がっています』
ふぉん♪
『イオノ>ソレを先に、お言いなさい。
ビックリするじゃぁないの。
なんとか火龍の皮一枚で、つながりました』
「突然ですがぁ――――史上最美味祭りを開催しまぁーす♪」
本当に突然だな。
「ほら、なにグズグズしてんのっ!? いそいでダンジョンに戻るわよ♪」
我先にと、おもちを走らせる御神体。
まてまて、お前さま一人じゃ、この森は危ねぇ!
「へっ? リカルル様の手作りランチはっ!?」
錆びた剣の切っ先が、おもちへ向いた。
「あー、それねー……先に洞窟にたどり着いた方がぁー、食べられるってコトで❤」
ドゴゴゴゴォォォォ――――ン!
ニゲルの神速。
深い森の中で使うと――こうなんのか。
錆び剣がうなり、
暴風が木々をなぎとばし、
青年が通ったあとには、切り株が――ドコまでも続いている。
「おれぁ、リカルルの手料理なんぞ………一回食ったことがあったな」
「そうわねー。普通においしかったわよねー♪」
はぁ――すぽん♪
おもちを仕舞い、落ちてきた御神体を片手でうける。
「一時休戦ってことで、良いな?」
「いいわよ。どーせあたくしさまたちわぁ一蓮托生なんだからねぇぇ――ぐひひへへっ♪」
だからその、下卑た顔やめろ。
ふぉん♪
『>美の女神とは?』
ふぉん♪
『イオノ>うるさいですわよ、迅雷。
ダンジョンで見つけた素材、全部リストにだして」
ふぉふぉん――ヴュワワワワッ♪
『キャラメイクエディター 00:19:56』
火山にもどる道すがら、神々どもがなんか始めた。




