272:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、イオノファラー切断
さて、二人だけになった。
「――店主ドノ、ココでワレは何をすれば良いのだ?――」
「ん――ぅ? リオレイニア……岩……白ぃのとか、斬……赤ぃのとか、黄緑色のがあつまって間取りを詰めてるから、ソレを聞いて――」
カシャ――『(Θ_Θ)』
「そうわねー。出来る範囲でイーからさ、ダンジョンの模様替えをお願いしたいわぁーねぇー♪」
ヴォォォォン♪
お前さまも居たか。
飯の支度時に、かまどに張りついてなくて良いのかぁー?
ふぉふぉふぉふぉふぉぉん♪
ヴユパァァッ――――!
光る美の女神が、絵で板をひろげた。
「グギャゥォォォォゥッ――――!?」
どすどすと起きあがる火龍……名前なんだっけ?
ふぉん♪
『>火龍ゲートルブです。龍の口形状により彼が発音するとゲートルーブとなるようですが、共用語の表記上は〝ゲートルブ〟となります』
「〝牙江戸瑠伏〟……呼びづれぇな」
「ゲートルブどノ、コレは攻撃魔法ではアりまセん。言うなれば建築魔法デす」
お前もいたな。
「――ゴギャーァ……建築魔法とな。ではワレのダンジョンスキルとおなじ、土の魔法に似たモノか?――」
「ゲートルブちゃんわぁー、エリアボスなぁのぉよぉねぇー。ならそー考えてもらってー、構わないわよおぉーん♪」
わからんが、やっぱり言いづれぇ。
「〝牙江戸瑠伏〟は呼びづれぇんだが、もうすこし短くならんかぁ?」
「そーお? じゃぁねぇー、ゲールってどう? 強い風って意味だけど……」
「――強い風……ふむ、気に入った。ゲートルーブでもゲールでも好きに呼ぶが良い――」
しゅるる――――ヴォォン♪
髪に挿しといた簪が、自分でほどけて浮かびあがった。
「火龍ゲールどノ、私ハ美の女神イオノファラーノ眷属にシて、このシガミーに仕エるアーティファクト迅雷でス。以後お見知りおキを」
「――飛ぶ棒が、しゃべった!?――」
飛ぶ大蜥蜴がしゃべるよりは、珍しくねぇと思うが。
「ところでさー、話は変わるんだけどさーぁ?」
ヴォォォンッとゲールに詰めよる、美の女神。
「おい、あんまり話をややこしくするなよ」
「うふふ、このダンジョンにはさ――アレないのアレ?」
美の女神が下卑た笑いを浮かべて、まるで小銭をもてあそぶような仕草をした。
その柄の悪さは、お前さまの人……神となりを正しく伝えてるけど、「(それ、やめろ)」。
どこぞの食客か、無宿人にしかみえん。
「――アレとハ?――」
「アレはアレよ――ダンジョンって言ったらさー、一番下に住んでるでっかいのを倒したらさっ、出るじゃんかぁ――おっ宝ちゃんがさぁっ♪」
例のおにぎりそっくりの小躍りが、また始まった。
うん、そっちの方がまだ良い。
お前さまの神となりも、新入りに良ぉーく伝わるだろうよ。
「――お宝……ダンジョン内で採れた、希少な鉱石のコトか?――」
「そう! それよっ!」
「――たしかにレア度の高い鉱石は強者の証として、下の階層に運ばれてくる。そして今はワレが溜めている――」
「だして、だして! もうねゲールちゃんもさ、我が猪蟹屋の社員なんだからさっ! スベテのお宝わぁー、まず一度、あたくしさまが徴収しまぁぁすぅ♪」
「おいやめろっ――――ゴガンッ!」
おれは腰の皮ベルトに差しといた小太刀で、浮かぶ球をひっぱたいてやった!
「鞘打ちなのは、せめてもの情けだ。お前さまは食い意地張った惡神だが、悪党じゃあねぇだろうがっ!」
これは譲れねぇ。
おれもひとの事は言えねぇ。
破戒無慙で酒も女も博打も、お手のもんだ。
いくさで首級を取ったのも、一度や二度じゃきかん。
それでも、従えた雑兵から物をかすめ取るようなマネだけは、やっちゃいねぇ。
僧侶……破戒僧ってのをなしにしても、これは駄目だぜ。
「痛ったいわねぇー! 何てコトすんのよ、プロジェクションBOTの筐体が凹んじゃったじゃないっ!」
やっぱり、こいつぁードコか幼い。
神々の中には、そー言うヤツも五万と居るが――
「喝ぁっっっーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!! やかーしぃーやぁっ、これは人としての誠意の話だぁ!」
今生で最大の発をくれてやった!
ビリビリと震える子供の体。
自分で耳が痛ぇが、どーにか耐えた。
「っちが――j☆fj∮んkぇb、――ブッツンッ!」
けど――浮かぶなんたらいう球は、一喝に耐えられなかったらしく。
ゴチンッ!
地に落ちて――動かなくなった。
「――シガミー、イオノファラーとの接続が切断されまシた――」
ふぉん♪
『>復旧するには女神像なら500メートル、超女神像なら約5㎞の強電界圏内へ移動する必要があります』
「あぁー? なんでぇい軟弱な! けどいまのは、アイツが悪ぃ。たとえ魔物でも一度、主従の契りを結んだからには――」
ふりかえると――
火龍がひっくり返ってた。
おれの剣幕に服従の意を示した――わけじゃなくて。
本当に……目を回してやがる。
「何奴も此奴も鍛え方が、なっちゃいねぇっ! その点、おれの迅雷はピンピンしてて、偉いぞ!」
「イえシガミー、私も電磁ノイズヲ相サイするタめ、EMSシールドに全デン力を……ショウ費しテ……シ――」
ヴゥゥゥ――――カラランッ!
おれは迅雷の飯、神力棒を取りに――仮の拠点へ掛けこんだ。
破戒無慙/定められた戒律を破ってなお恥じず、良心が咎めないこと。




