268:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、VS火龍
リオレイニアの高等魔術により、ゆっくりと落ちていく、おれたち御一行様。
おれだけなら飛ぶことも出来るが、ひとりだけ浮いててもしょうがねぇ。
このまま落ちて――倒す。
火龍とやらは、たしかに大きな蜥蜴だった。
「ミノタウと比べると、かなり愛嬌が有りやがるぜ」
その動きは落ちついたもので、じっとコッチを見上げている。
「うふふふふふうっ――――だいぶ手こずらせてくださいましたぁけれぇどぉーもぉー、やぁぁっとぉー見つけましてぇよぉーう?」
剣を抜く戦闘狂。声が弾んでやがる。
「ちょっとまて姫さん!」
ブワッサバササササッ!
隠れ蓑を羽ばたかせ、ご令嬢に近づく。
「心配要りませんわぁ――――相手にとって不足はござぁいぃまぁせぇーんーものぉぉぉぉぉぉぉっぉっ♪」
身を縮め我先にと、落ちていこうとする冒険者筆頭。
ええい、バササササァー――――がしり。
甲冑の肩当てから突き出た取っ手(?)を、あわててひっつかんだ。
なるほど、この取っ手(?)はこうやって使うのか。
だれの手による防具か知らねぇが、おそらく名工とうたわれる者の作品なのだろう。
コントゥル家の家宝にしちゃぁ、実に気が利いてる。
「まてまて、おめぇさまは今、ぶった切りがつかえねぇんだろが!!」
コッチを向いた狐面の口。
そこへ手甲を当てる、狐耳の娘。
本気でおどろいてやがる。
さすがは妖狐の娘か。獲物を見つけて頭に血がのぼって、すっかりわすれてたな。
「しゃぁねぇなぁー、ここはおれが行くかぁ!? リオが魔法をぶっ放してくれても良いけどなっ!」
「そ、そうですわね。私が使えるのは、この何も燃やせない青っちょろい灯火だけ……ですものね」
「姫さま、元気だしてぇー?」
落ち込む伯爵令嬢を気づかう、猫の魔物。
猫共用語が翻訳されても、ずっと大したことは言ってない。
ふぉふぉふぉふぉふぉぉぉぉおぉぉん♪
『<▼>』
ピピピピピビッ――再びの、けたたましい三角印。
これは敵の火弾とかが飛んできたときの――警告だ。
「エクレア、盾を――――!」
元給仕長の給仕服の裾が、ブワッサブワッサと酷くまくれてる。
この世界じゃ腰巻はつけずに、伸び縮む薄っぺらい褌をはいたきりだ。
構ってる場合じゃねぇが、目のやり場に困る。
「リオレイニアさん、見えちゃってるよ♡」
猫もこう言ってる。
「どうぞ、乗ってください!」
黒い騎士が、手にした大盾を真下に向かって構えた!
大盾に降り立った生活魔法のいや……高等魔術をも使いこなす達人が。
「ひかりのたてよ、ひかりのたてよ、ひかりのたてよ、ひかりのたてよ!」
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
『<MAGIC・SHIELD>――ピッ♪』
光る文様が、エクレアの大盾にあらわれた。
その四枚の曼荼羅は、大盾に弾かれ真下へ落ちていく。
「うをわぁっ――――!?」
曼荼羅は先に落ちていた、おれたちを素通りし――――
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――ッ!
下を見る。
ヴォッゴゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――!
そこには灼熱の吹き上がり。
火吐き狼みてぇに、火吐き龍がはいた火弾か!?
と思ったけどそれは――急激に勢いが弱くなってしまった。
こりゃ洞窟が溶けた流れが、上に落ちてきてるみてぇだ。
出し物としちゃ面白ぇけど、本気のリオレイニアにはたぶん届かねぇ。
「なんだか……拍子抜けじゃね?」
まだ下までは遠い。
つまり、あの図体はかなりでけぇ。
なのに、とんできた炎のうねりは大きさこそある物の――
勢いがまるでなく――とうとう止まってしまった。
「ちょっと、アナタ! 前任の火龍の炎はこんな物ではありませんでしてよっ!? 一体どういうおつもりかしるぁ――――!!!」
凄まじい怒声。
こっちの方が火龍の攻撃よりも、恐ろしかった。
「うるせぇ!」
そんな態度に腹を立てたのか、灼熱の吹き上がりが――――
細く鋭く尖り――――キュドッ――――ンッ!
「「うわわわっ!?」」
ヴァチヴァチヴァチヴァチィ――――――――パキィィィィンッ!
一枚目の、ひかりのたてが壊れた。
細くなり勢いが増した火弾には、驚いたけど――それでも。
おれと姫さんの見立て通りというか。
二枚目のひかりのたては、貫かれることなく――
ヴォヴォォ、シュワァァン!
火龍の攻撃を弾き、霧散させた!
「グッギャギャァァギャギャギャァァァグゥゥゥゥォォォォルギュギギギギ――――!」
なんか鳴いた。火龍が。
なーんか、なんとなくだけど。
おれはバッサバッサと羽ばたいて、リオレイニアたちよりも上に出る。
猫のレイダも――「レイダ、つかまれ」――足につかまらせて、一緒に回収した。
「シガミーも、空を飛べるの?」
ほんとうに余計なことにばかり気がつくのは、あのギルド長の血筋を感じる。
「これも烏天狗の隠れ蓑と同じ物だからな。見よう見まねでも真似るくらいは出来らぁ」
「え、そうなの? わたしも飛びたい、羽ばたきたい」とか言い出されそうな気がしたから足を大きく振って、リオレイニアに放り投げた。
「あっぶなっ――ガシリッ」
「にゃみゃごぉー?」
首根っこをつかまれ、小脇に抱えられる猫の魔物。
「ふぃー。なぁおい、姫さんよぉ?」
「なにかしら、シガミー?」
体を振って、大盾に足をのばそうとしてた派手な甲冑姿。
「アイツよう、なーんか調子悪そうじゃね?」
火龍を見たおれと、目が合った。
「火山の活力を一身に受ける火龍が、この場所で体調不良なんてそんな馬鹿なことあるわけが――――?」
同じく下を見る赤い狐面。
「グギャォゥルルルルュギャァギャギュギュリュリュリュグギギギギ――――!?」
なんかなー。どんなに強ぇヤツにだって、いま攻められたらマズいって時はある。
「――あるみたい……ですわね?」
あの燃える大蜥蜴にとっちゃ、いまがその時なんじゃね。
火龍は下に居る。
勢いを乗せるための距離を稼げる、この陣形。
敵の魔法は、リオが防いでくれる。
おれが錫杖ひとつで飛びこめば、火龍がどれだけの難敵だとしても――――
七の型を放つだけで、事足りる。
「なーんか一方的ってぇのわぁ、気が乗らねぇなぁ――倒すけど」
「そうですわねぇー。お互い万全の状態で正々堂々と戦えないのは、確かにいただけませんわね――まぁ結局は、倒しますけれど」
聖剣切り無しの姫さんは全然、万全の状態じゃねーけどな。
「――じゃぁさー……ぱらぱらり……くわしいお話でもさぁー、聞いてみたらさぁー、良いんじゃなぁいーのぉー?――」
五百乃大角が攻略本のページをめくりながら、そんなことを宣った。




