264:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、胡蝶の夢
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
なんかが光って、消える。
俺の居合いが鬼岩をぶった切った――証らしい。
「ぜぇーはぁー、ぜぇーはぁぁぁ――――斬れてねぇじゃねぇかよ」
巻き戻るだぁ?
死んでも生きかえるなんざ、卑怯ココに極まれりだぜ。
「(卑怯というならシガミー……猪蟹殿も一度、死んで生きかえりましたが)」
やかましい。
謀ろうたって、そうはいかねぇ。
「(反魂の術なんて使ったら、とんでもねぇ業を背負うに決まってらぁな)」
「(惑星ヒースに〝業〟と呼ばれるプレイヤー初期化パラメータは……輪廻転生システムは実装……生まれ変わりは存在しません)」
「ははっ、襤褸を出しやがったなっ! さっき眷属さまは、ここが来世と抜かしたが――――ギャッリィィィィィィンッ!!」
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
ふぅふぅへぇはぁ、ふぅぅぅぅぅぅっ――――っ!
どれだけ長ぇ角が生えようが、どれだけ鬼岩が走り回ろうが、全部を渾身の居合いで斬れるようになってきたぞ。
う、現じゃ鳥を一匹切っただけだったが、やってみるもんだぜ。
いやぁ……この夢の中の小せぇ体が、きびきびと動くから出来る芸当か。
この研ぎ澄まされた体を、現に持って行けるなら――――いくさ場で首級、香味庵庭先の大道芸なら浄財がいくらでも、稼げちまう。
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
「はぁはぁ、しかしさすがは夢だ、ちきしょうめ。お、おわりがねぇ――」
もう何回居合いを放ったかわからん。
息も絶え絶えに、鬼岩を斬る。
ぐわららららん、
落ちる角。
「どうせならあの巻き戻る卑怯な手口を、コッチが使うこたぁ出来ねぇのか?」
「(コッチが使うとは?)」
ふぉふぉん♪
『>処理落ちによる間断のない攻撃
>それを補正する偶発的なリスポーンを、術クラスとして再定義
>構造化による判読性の向上』
なんかわらわらと出たが、スグに消えちまった。
眷属さまの言うことは鬼岩にばかり都合が良くて、毛ほども合点が行かねぇ。
「(巻き戻る手口を使って、俺が巻き戻しゃぁ――――鬼岩が斬れたままになるのは道理だろう?)」
「――シガミー、そノ慧眼ハ賞賛に値しまス――」
おい、脅かすな。死神なんてどこにも居ねぇ。
「(猪蟹殿。状況を打破する糸口をつかみました)」
そいつぁドコに有る!?
鬼はまた、元に戻っちまって――――大角を根元から落とし、新しいのを生やしやがる。
「ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、!」
そして、名乗りを上げると、落ちた角が消えてなくなる。
「(いまから猪蟹殿にだけ見える、目録を出します)」
ヴォォン♪
ズラリと並んだのは、和菓子みてぇな。
その中のひとつが光って、大角が描かれた巻物が――目の中に見えた。
「こりゃ、鬼岩の角だな? 膨らんだ根元から綺麗に切られてる」
それがなんだってんだ。邪魔だから退かしてくれ。
巻物がかき消える。
「(つぎに足下を、よく見てください)」
がららら、がららららん――――目のまえに角が二本転がった。
どっから落ちやがった!?
上を見るが、高さがある洞には穴なんてあいてねぇ。
「(つぎに正面の鬼岩を、よく見てください)」
メキョメキョガギュバキョ――――――――ピタリ!?
んぁ? グネグネ蠢いてた大角が、ピタリと止まった。
「(いまです、切ってください。ただし角を、鬼岩と切り離してください)」
切り離せだぁ!?
「簡単に言ってくれるな! 鬼岩が伏せると綺麗に切りわけるのは至難だぜ!」
「(でしたらば、どんな形でも良いので、角を粉砕してください)」
ぶっ壊すんなら、錫杖の方が楽だが――
「(角の切断面による演算負荷割合の解析は終了しましたので、〝滅の太刀〟……居合いでなくても構いません)」
わからねぇ、わからねぇ。
よぉうし――ぶっこわしてやる。
「――――――この錫杖は定めて当たる。生者必滅一発必中!」
敵の総大将を遠閒から何度もうちぬいた、おれの錫杖が唸りをあげ――
ふんぬぉりりりゃやぁぁぁぁぁぁ――――ギャリリィン――――どんっ!
放たれた錫杖が――ゴバキャッバキャキャキャキャキャキャキャギャガッァァァァァ――――ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴッドズズズゥン!
曲がりくねった角を粉砕し、眉間にぶち当たる。
勢いは止まらず、鬼岩を奥の壁まで押しやった。
「(どうぞ、つぎの錫杖です)」
ヴッ――――ジャリィィィン♪
おう、この錫杖は定めて――ふんぬぉりりりゃやぁぁぁぁぁぁ!
グワララララララン、ガラララランッ!
粉砕したはずの角が、近くに積みあがった。
「(どうぞ、つぎの――)」
ヴッ――――ジャリィィィン♪
おう、この――ふんぬぉりりりゃやぁぁぁぁぁぁ!
そこからは一瞬だった。
「ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、ヴォギュ――――――――」
名乗りをあげられるより先に、どんどん積みあがっていく角。
それが茨のついた生け垣、みてぇになった頃。
岩みてぇだった鬼の体が、ぶるりと震え。
地に倒れた。
「やったかっ!?」
「(はい、そのようです)」
「ずいぶん拍子抜けだが、まあいいやなぁ。なかなか面白れぇ夢だったぜ」
夢だ夢。けど、コレだけ立て続けに居合いと錫杖を放つと――
バタリと倒れる。
なんでか、おれの寝息が聞こえる。
「シガミー、イえ猪蟹殿、私ノ名前ハ――」
因照減簾だぁ?
長ぇんでやんの、もっと短ぇのはねぇのか?
「デは、迅雷とオ呼び下サい」
迅雷か、疾風迅雷の迅雷だな。
覚えた覚えた、目が覚めたら夢の話は忘れちまうだろうがなぁ――――すやぁ♪
胡蝶の夢/夢と現実の区別が付かない状態。または世のはかなさ。




