263:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、僧兵猪蟹VSミノタウロース
「(シガミー? ――――――使用者の心肺機能に修復不可能な損傷を検出」
ふぉふぉふぉふぉっふぉおふぉふぉふぉぉぉぉぉん♪♪♪
『緊急時戦術プロトコル作動
>WetWareID#44Ga3
対象アドレス:生体デバイス個体シガミー内/不随意記憶領域内/……/……
>Forced reboot with bootstrap
>Access to room #44Ga3
>Initiating bodycontrol
>シガミー、起きてください。
>んぁ?
>どれでぇい、おめぇさまわぁ?
>ぬぅ? おれぁ香味庵の土間で寝てたはずだぁがぁ?
>香味庵とは、最近、俺がねじろにしてためし処で――
チチチチチチチピッ――♪
>小鳥が鳴いてる。
ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュゥ――ン。
>これは馬か?
どっこぉん、どっごぉぉん――――!!
体の中まで、うるせぇ――――――――!!!
――――ごごごごごぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
――や。
ふぉん♪
『>か』
――ま。
ふぉん♪
『>し』
――い。
「ずっはぁぁぁぁ――――!?」
気づけば、あたりが暗ぇ。
「ザザザッヴュ――以前作成シたバックドアヲ使用シ蘇生薬ヲ服用、強制的ナ循環補助にヨり身体蘇生を行いまシた」
だれでぇ、おめぇさまわぁ?
声がした背後を振り向くが、誰も居ねぇ。
「んあぁ、まだ夜じゃねぇか? 起こすなってんだ、まったくよっ!」
いやまて、俺ぁ香味庵の土間で寝てたはずだぁがぁ?
「(ミノタウロースは健在でス。回避行動ヲ行ってくだサい)」
はぁ? 香味庵の女将は、あそこまで肥えてなかったはずだがぁ――――?
ヴッ――――ジャッリィィィッィン♪
「んぁ? おれの錫杖にしちゃぁ――なんか細くねぇーかぁ?」
まあいいやな。
いま肝心なのは――このキンキンうるせぇ声が自分の声だっていう確信と――
血塗れのおれを、なおも串刺しにせんと唸りを上げる――――なんだこりゃ?
ゴッツン――――ゴバギャギャギャギャギャギャッ――――!!!
おれのからだを貫こうとしやがるから、錫杖で横殴りにしてやった。
「なんかおれの手が――小せぇ?」
キレッキレにちゃんと動くから、いまは気にしねえでおくけどよ。
バッキャァァァァンッ――――!
とんでもなく太くて、とんでもなく長ぇ鹿の角みてぇなの。
弾かれたソレはボギリと折れ、角が生えた岩をひっくり返した。
「(岩ではありません、ミノタウロースと呼ばれる強敵――鬼です!)」
おまえよぅ、俺の考えを読むし、頭の中に話しかけて来やがって。
だから、おめぇは誰なんだぜ?
「――私はインテリジェンス……独古杵……イオノファラー明王が使わシた眷属デす――」
今度は耳の中から――!?
五百乃大角明王だぁ? 聞かねぇなぁ。
それとこの暗さで、コレだけ周りが見えるのは――変だぜ?
狐にでも化かされてるんじゃ……ねぇだろうな。
「(記憶の混濁が見られます、シガミー)」
死神だぁ!? 縁起でもねぇ!
ビギバギゴギャッ――――ヒュゴォォォォッ!
また角が来た――――ヒュヒュヒュンッ、ゴゴガァン!
同じようにひっぱたくと、折れた角が――グワララランと落ちる。
「シガミー……いや猪蟹殿、いまは協力して眼前の敵を屠ることに全力を注ぎましょう)」
一切合切、訳がわからんが――承知したぜ。
とっとと倒さねぇと、角で埋もれちまう。
「それでアレは何だ、鬼って言ってたが――あんな岩みてぇな奴は見たことも聞いたこともねぇぞ」
ギャギィィン――――スラァァリ♪
ふん、抜いてみたが、仕込みの直刀には錆びひとつねぇ。
猪を切ったまま納めちまってから、ずっと錆びたままだったはずだが。
いやおれの錫杖じゃねぇのか。
「(ココは来世です。鬼の系譜も別世界のものと、お考えください)」
こりゃ夢か、夢だな。
近頃じゃ、いくさもねぇし常々大暴れがしてぇと、思ってたんだよ……わぜ?
「(そういうことでしたら、ご存分にお切りください)」
いいな、そういうのはわかりやすくて良い。
ズシャッ――足をひらく。
服が重ぇ。夜目が利くおかげで、それが塗れた血の重さだとわかった。
けど痛ぇところはねぇし、直刀はいまさっき研いだみてぇに研ぎ澄まされてる。
「ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、!」
コッチの気配を感じとったのか、岩野郎が雄叫びをあげやがった。
変に節が付いた鳴き声は一瞬、名乗りでも上げたのかと思ったが――ちがうらしい。
メキュバギュゴギャッ――!
新しい角が生え、折れた古角が――ガランと落ちた。
岩がこころなしか、縮んだ気がする。
「(まだまだ生えてきそうだな、おい)」
「(はい、ですが。体積の減少を確認……角を折ると、岩の体が小さくなります)」
なら、やることはひとつだ、来世の鬼岩め!
「拙僧わぁ妙竹林山朧月寺がぁ虎鶫衆弐番隊隊長、猪が――」
バギョッ――――グサリ。
目のまえに鬼岩の、曲がりくねった角――――ッギャッリィィィィィィィィンッ!!!
とっさに錫杖で止めたが、肘にかるく角先が届いちまった。
屁でもねぇが、痛ぇ。
「(ミノタウロース……鬼岩は小さくなると、凄まじくすばしっこくなります)」
それを先に言えってんだぜ。
角を折ると、体が詰まって速くなるだぁ!?
かといって角を放っときゃ、こうして突かれちまう。
どーすりゃいーってんだ?
「(考えがありますので、ご存分にお切りください)」
とにかく切れと?
それならひとつ、技の持ち合わせがないでもねぇ。
ふぅーーーーっ、息をととのえる。
型にはまらねえ、もとは手習いの居合。
つまり零の太刀だ。
「七天抜刀根術、零の太刀。」
しずかに吸気。
腰をおとし排気。
距離は目のまえ――――ギャギギギギッ!。
変則的だが直刀を抜きゃ届く。
まったく問題ねぇ。吸気。
「チィェェェェ――――」
まあたらしい錫杖のなかを、刃先がすべる。
直刀の硬くて重い感じが、業物のソレだった。
いったいどんな刀匠が、打ったんだか。
「――――ェェェェイ!。」
カラダごとぶつかるように、切先をふりぬいた!
――――――ザッギィィィィィッン!
切先がいつまでも鳴っている。
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
なんか目の端が光ったぞ!?
「(猪蟹殿の剣筋が通用した証と、お考えください)」
なら良い。
――――――――ォォォォォォォ。
まっぷたつにした太角が宙に浮いている。
辺りが緩やかに見えるのは――
仏門に入るまえにならった、剣術の修行の成果だ。
だが、ちとおかしい。
角に入った刀の斬撃が、シュッカァァァァァッ――――!!
いつまでも終わらず、どこまでも切り裂いていく。
その切断面はやがて、岩のような体に届き――
すぱりと上下に両断した。
はずだ。
なのに。
鬼岩がずっととおく、最初に居た辺りに姿をあらわした。
「ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、ヴォギュヴォギュヴォギュヴォギュヴォグギュ、!」
また名乗りみてぇな――――!?
「やい眷属、どうなってる!? 俺ぁたしかに、ぶった切っただろーが!」
「(はい。ですので切れなくなるまで、ご存分にお切り下さい)」
「はぁぁぁぁっ!? っぷぅーー!」
息をととのえる――細けぇ話はあとで良いか。
けど徹底的にぶっ壊せってんなら、根術のほうが――
ヒュヒュッ――振り抜いた刀の向きをもとにもどす。
スゥゥゥゥゥゥゥ――チャキ!
「(いいえ、居合いが最適と判断しました)」
よし、乗ってやる!
もう一度足を開き、腰を落とす。
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
シュッカァァァァァンッ――――!!
バギョバギョゴギャッ――――!
「ちえぇぇぇいっ――――!」
「ヴォギュヴォギュヴォギ――――!」
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
ふぉん♪
『>シガミーのバイタルに〝滅の太刀〟反応』
「ずっはぁぁぁぁぁっ――――はぁぁぁっ、はぁぁぁっ!」
やべぇ、こう続けざまに放つと息が持たねぇ。
肩が重くなってく。




