258:ダンジョンクローラー(シガミー御一行様)、聖剣切りとマジック・スクロール
「(すむひせ、えやめほ、だゆわづ、さそへぎ)」
きたぞ――また念話に割りこんできた!
「きぃぃぃぃっ――またこの殺気!?」
やっぱし、キレるんだな。
ちかくで念話を使われると。
ドッゴォォォォォォァォォォォン!
魔物が爆音とともに、姿を消す。
死線は一直線、おれだけを狙ってる!
コッチも一歩踏みこんで――――ギャッリィィィィィィィィンッ!
力一杯はじき返した!
もう躱せねぇ。避けりゃ姫さんが串刺になりかねん。
それに、奴の間合いに巻き込んじまうから、一歩も下がれなくなった。
「それで、いつからだ!?」
ぼうぼうぼごうわぁ――――四方八方からおれにぶち当たる魔物を、おいかける〝狐火(小)〟。
やっぱり、まるで追いついてねぇ。
奥方さま……リカルルの母親である、正真正銘の妖狐にして狐火使い。
あっちの本家本元の〝狐火(特大)〟とか〝狐火(極細)〟とかなら捉えられそうだが――年季がちがいすぎる。
ふぉん♪
『ヒント>狐火・仙花/仄暗い炎を重ね掛けすることにより、
レーザーと化した鬼火怪光線。』
不可視の鬼火には、そんな名前がついてたっけか。
「なにがですの、この忙しいときに!」
きつく握りしめた両手をグイグイと、力任せに振りまわしてる。
妖狐は狐火をしっぽで操ってた。
姫さんのしっぽは生えたばかりだからか、まだうまく使えてなさそうだ。
「いそがしいのはコッチもだぜっ、〝ぶった切り〟が使えなくなったのはいつからだって、聞いてるんだでごぜえますわぜ?」
「(シガミー、坤ノ方角かラ来マす)」
念話だ――足場がないはずの方向から、あらわれる魔物ミノタウ。
「あっぶねっぇ――――!?」
アイツ、コッチの念話中もお構いなしだぜ、まるで止まらねぇぞ!?
それと、どうやって空中を蹴ってるのか、わからん。
あの蹄も、なんかあるのか?
ぐるるん――――ギャッリィィィィィィィィィィイィンッ!!!
ゴリゴリギュリゴゴリュッ――――――――!
錫杖が削れちまうが、角を芯で捉えてやった。
ぼっごぅぅぅわっ――――っと、あぶねぇ!
狐火がおれをかすめた。
魔物が使い放題使ってるから――念話も紛れるかと思ったけどそうでもねぇ。
動かねぇ的になら、本当に正確に狐火を当てて来やがる。
「あーもう! シガミーにだけは、知られたくなかったのに!」
日の本勢との確執か……いや、まえにおれに負けてるからだな。
「いーから、話せるウチに話しとけ。この大角わぁ、〝倒せねぇ位に強い〟って五百乃大角が言ってる」
「そりゃミノタウロースなんて、伝説上の生物ですものっ――――出会ってしまったら、「動くな、神に祈れ」と子供のころから言い聞かされたほどには、強いに決まってますわぁ――――!」
……言い聞かせたのは、奥方さまじゃねぇな。
彼女が言い聞かすなら、「動け、敵を穿て」だ。
「――リカルル、耳栓経由でシガミーにだけ声を届けられまスので、小声デどうぞ――」
耳栓から突きでた小枝が、聞き耳を立てる仕組みだ。
もっとも、とおくの声を聞いたり大きくしたりするのは、コッチの世界の方がおれの前世よか先を行ってる。
リカルルは神域惑星で耳栓を、スグに使いこなしていたし。
央都と話せる通信機とか、料理勝負の舞台上で見た丸穴があいた棒とかもあったしな。
ギャリリリリィィィィインッ――――!!
「みんなは手を出すなよっ! コイツがおれを狙ってるウチに、なんか手だてを考えるっ(迅雷と女神も、なんか手を考えとけ)!」
邪魔になることを警戒したのか、子供のころに聞かされる言い伝えにならったのか――
リオレイニアとフッカは、魔法を放ってこなかった。
実際、魔法でも撃たれておれが足を止めてたら、串刺しになって――とっくに全滅してたかもしれない。
ふぉん♪
『イオノ>そうわね。いざとなったらあたくしさまが、
MSP使って新武器か新技を使えるように、
してあげられるけど』
それは、こんなとおくの地面の下にまで届くのか?
女神像の力が及ぶ範囲なら、こうして迅雷の画面越しに話くらいは出来るだろうが。
ふぉん♪
『イオノ>ふふん。超女神像の力をなめないでちょーだい♪
念話は無理だし、スキル発動に時間は掛かりますけれど、ふふん♪』
出来るならそれは、心強いけど。
虎の子の御前さまのSPは、最後の手段だ。絶対使うなよ。
「――私の聖剣切りが、瞳に刻んだ呪文で行使されていたのは、ご存じ?――」
耳栓越しに届く彼女の声は、いつものよく通る声とはちがってた。
「ああ、なんとなくだが」
実際にぶった切りで斬られたときに、〝切るための魔術〟を乗っとる形でやり返したから知ってる。
「――ぶった切り……〝聖剣切り〟ってさー、ユニークスキル……えっと、唯一無二の魔法なのよねぇー?――」
む、五百乃大角め。話に割りこんで、ややこしくするなよな。
「――イオノファラーさま。は、はい。聖剣切りは私にしか使えない高等魔術です……でした――」
「そこで落ちこむな、先をつづけてくれよっとぉっ!」――――ギャッリィィィィンッ!!
「――ふぅ、イオノファラーさまは何でも、お見通しなのですね――」
ふぉん♪
『イオノ>えっ、何が?
ちょっと気になった所を、確認しただけだけど?』
いーから、やっぱり御前様は黙ってろ、襤褸が出る。
「――つい先日、〝つめたい炎の高等魔術〟……狐火が使えるようになったのと引きかえに、〝聖剣切り〟は一切使えなくなってしまったわ――」
「――ふうん。ならそれさぁ、聖剣切りのための呪文が、同じ系統の狐火にさぁー……上書きされたってことじゃぁなぁいのぉぅ?――」
ふぉん♪
『イオノ>確証は全く全然これっぽっちも、ありませんけれど』
口を挟むなってぇんだ。
「――あのとき目の前……というよりも目の中がとても冷たくなって、つぎの日に狩りに出かけたときにはもう……――」
あー、天火が出たとき、目から火を吹きだしてたな――――!?
ギャリィィィィィィィィンッ――――くそ、当たりが強くて、さばくだけで一苦労だ。
迅雷、錫杖と仕込み刀を、倍の太さに出来るか?
ふぉん♪
『>可能ですが、金剛力をもってしても、取り回しに苦労すると思われます』
かまわねぇ。前世じゃ倍の倍じゃきかねぇくれぇのを、ぶん回してたんだ。
「(つぎに錫杖を出すときは、倍の太さの仕込みにしてくれ)」
ふぉん♪
『>了解しました』
「狐火ってのは――魔法なのか?」
日の本じゃ呪いっつうか、未練っつうか――人のなれのはてっつうか。
「――わかりませんけれど、お母さま……名代が言うには、血肉の外に宿る〝業〟というものらしいですわ――」
業なぁ。五穀豊穣の神の眷属がどんな業を抱えてたのかは知らねぇけど、子孫が使えたわけだから、継承したんだろうなぁ。
「業ってのはよくわからねぇけど、聖剣切りの魔法の呪文をもう一回、目に書き込みゃぁ――また使えるようになるんじゃぁねぇのかい?」
「――それは無理ですわね――」
「即答だ――な!」
ギャギャリィィィンッ――――ドゴッ!
大角を真下に弾いてみたら、一瞬だけど奴の蹄が止まった。
よぉし、錫杖を出しなおして――――
「――だって魔王の居城で見つけたマジック・スクロールは、ひとつきりでしたもの――」
コレには驚いた。
折角つかんだ微かな隙を、無駄にしちまったぜ。




